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忍び寄る魔の手 8

 今回のお話は、少し気分が悪い話です。物理的にムカムカするのではなく、気持ちとして嫌な場面が出て来ます。ちょっといやらしい場面もあります。ご注意下さい。


 ファンタジー時代劇です。一般的な転生物語ではありません。洋の東西を問わず、時代劇や活劇がお好きな方、また、ラブ史劇がお好きな方、どうぞお越しください。

 意外に頭脳戦もありますかな……。そこまで難しくないので、お気軽にお読み下さい。


 転生はしませんが、タイムスリップや次元の移動はあります。(ほぼ出てこないので、忘れて読んで頂いてけっこうです。)

「では、思い出すがいい。」

 男が呼び鈴を独特な速度で鳴らし始めた。聞きたくないのに、見たくないのに、なぜかその音を聞いて、目で追ってしまう。しばらくしてから、男は呼び鈴を小机の上に置いた。

「さあ、十年前、監禁中に何があったのか、思い出しなさい。」

 そう言って、手を複数回叩いた。

「……!」

 最初は何もなかった。なんだか、ぼんやりと記憶の彼方から思い出してくる。

 怖くて、嫌でたまらなかった。声が聞こえてくる。

「なんと可愛らしい王子さまだ。」

 男が言った瞬間、記憶がはっきりしてきた。よみがえってくる嫌な記憶。

『これは、なんて可愛らしい。噂以上です。』

「あなたの愛らしい姿に、私が作った新しい薬は少しも男達に使わなくてすんだ。あなたに使っただけだ。」

 男の説明は必要なかった。

『な、何をするの?おじさん達、だれ?』

『いいことをするんですよ。王子さま。』

『お利口さんにしていれば、ここから出して貰えますよ。』

『…ほ、本当なの?叔母上がそう言われたの?』

『あなたが、お利口さんならの話ですよ。もし、お利口さんじゃないと私達が言ったら、出られませんよ。』

『さあ、こっちへいらっしゃい。』

 男に捕まえられてグイニスは悲鳴を上げた。

『いやだ、怖い、やめて!何をするの!』

『お利口さんじゃないと、出られなくなると言ったでしょう。』

『私達だって好きでやっているわけじゃないのです。やらないとあなたの叔母上…つまり王妃様に首を()ねられます。』

 グイニスは恐怖に身を縮めながら、人が殺されるかもしれない現実にも(おび)えた。涙が溢れてくる。恐怖で動けない間に衣服を()ぎ取られた。意味も分からず裸にされて混乱した。ただ、怖くて仕方なかった。

『助けて、やめて…!』

 恐怖で喉が詰まる。必死になって叫んだ。十歳の時と同じように全身をばたつかせ、悲鳴を上げた。

「あぁぁ!やめて!助けて!」

 叫びながらはっきり思い出した。目の前にいる男がグイニスに何かを飲ませたり、薬を体に塗ったりしたことを。薬を飲まされるたびに、体が宙に浮いているような感じがして、記憶が曖昧(あいまい)になった。

 泣きじゃくりながら、全身を震わせる。忘れていた心の傷がはっきりと現れ、治っていた訳ではない傷口がぱっくり開いて、そこから生々しく血が流れている。今までは薬で麻痺していただけだったのだ。次々と思い出される嫌な記憶。怒濤(どとう)のような奔流(ほんりゅう)に流されそうになる。

 もう嫌だ…。思い出したくない。逃げたかった。何もかも忘れてしまいたい。男達に体に触られた感触も全て思い出してしまう。

 逃げて心を閉ざそうとしていると、待て、ともう一人の自分が言う。

『嫌な記憶だけじゃないはずだ。お前を助けてくれる人がいる。』

『フォーリ。』

『お前を愛してくれる人がいる。』

『セリナ。』

『他にもいるだろう。』

 シークや元親衛隊の兵士達。みんな命がけで助けてくれるし、時には年下のグイニスをからかってきたりした。フォーリとシークの目を盗んで、セリナとどこまでいったのか聞かれて、口づけや布団の中のことまで指南されたりした。

 なんとかみんなの事を考えて、完全に理性を手放したりしなかった。なんとか、留まった。

 フォーリに会いたかった。フォーリと初めて話した時のことを思い出した。

『若様が怖い思いをしたり、嫌な思いをしなくてすむようにします。』

 そう言ってくれた時、本当はとても嬉しかった。すぐに答えたかったのに、なんて言えばいいのか分からなくて、声も出せなくて、なかなか言い出せなかった。それでも、フォーリは待ってくれた。本当は足が(しび)れたかもしれないのに。それくらい、待たせてしまったのに。

「…フォーリ……。フォーリ、助けて、助けてくれ、フォーリ!」

 グイニスは叫んだ。

「…一体、何を!」

 モディーミマの声が遠くで聞こえる。

「患者の経過観察と共に、どういう反応をみせるかの実験じゃ。」

「殿下を害さないと……。」

「待て。何も害してはおらんぞ。私はな。お主が私の渡した物を一服盛ったのであろうが。」

 その間にも、グイニスはフォーリを呼び続けていた。

「だが、困る。こんなに叫ばれては。しかも、一体、これは…?」

「過去の恐怖に怯えているのじゃ。だが、まだ、どこか理性も保っておるな。目がまだ、いってはおらん。」

「何をしている。早く殿下の口を(ふさ)げ。猿ぐつわをかませろ。」

 モディーミマの命令に当主と共に部屋に入った配下が、手巾を取り出して近づいた。

「待て。」

 男は言ってモディーミマを外に出した。部屋の扉に鍵をかける。

 グイニスはその音にビクリと体を震わせる。鍵の音も嫌だった。閉じ込められる。出て行けない。そして、誰も助けに来れない。来てくれない。その象徴だったから。

 男は配下に命じる。

「馬乗りになって口づけしろ。」

 グイニスは混乱した。これは過去の記憶なのか、それとも、目の前の現実なのか。配下はさらに何か言われて寝台に上がってきた。

「!や、やめろ、やめろ…!」

 必死に暴れたのに、押さえつけられた。そもそも極度に具合が悪かった。体に余計に力が入らない。叫んだが声は出せなかった。口づけされて、かろうじて繋いでいた理性が、飛んだ。

 フォーリ、たすけて……。

 星河語ほしかわ かたり

 最後まで読んで頂きましてありがとうございます。

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