忍び寄る魔の手 5
グイニスはセリナのことを説明したが、何かもろもろ含めて、モディーミマとは話がかみ合わない。妙な不安をグイニスとセリナは感じる。
ファンタジー時代劇です。一般的な転生物語ではありません。洋の東西を問わず、時代劇や活劇がお好きな方、また、ラブ史劇がお好きな方、どうぞお越しください。
意外に頭脳戦もありますかな……。そこまで難しくないので、お気軽にお読み下さい。
転生はしませんが、タイムスリップや次元の移動はあります。(ほぼ出てこないので、忘れて読んで頂いてけっこうです。)
グイニスの答えにモディーミマの眉間の皺が深くなった。
「それは、ご従兄でいらっしゃる王太子殿下のためですか?王太子殿下は、今は殿下に王位をお返しなさると言われておいでですが、現実にはずるずるとこのまま王位に就かれて、その後は王位を下りられなくなるでしょうな。王太子殿下の後も就かれるおつもりはないということですか?」
王太子殿下の後、とはどういう意味なのか分かりたくないが、そこはとりあえず聞きとがめなかった。
「そうだ。従兄上がそのまま王位に就かれるなら、それが一番いい。」
「殿下はどうなさるおつもりで?」
モディーミマは硬い表情を崩さぬまま、じっとグイニスを見つめてくる。確か、モディーミマ家はリタ族の血も流れているはずだ。そういう点では、性格に少し激しいものがあるのかもしれない。
「私はセルゲス公のままでいい。むしろ、このままがいい。」
「それは、なぜですか?」
「愛する人と共に人生を歩みたいからだ。」
「……。それは、つまり、この娘と一緒に暮らしたいからということですか?」
モディーミマの声に危険なものを感じ、グイニスは警戒した。
「どうなんです?」
「…それは、そういうことになるが……。」
「つまり、この娘さえいなければ、殿下は王位にお就きなるということですね。」
思ってもみない話の流れに、グイニスは慌てた。セリナが目を丸くした。顔色が青ざめている。
「そういうことではない…!」
「今のお話からいけば、そういうことになります。他にどういう理由がおありでしょうか?」
「私は本当に王位に就かないつもりだ。従兄上に就いて頂くのが一番いいと思っている。だから、就かない。それだけの話だ。」
なんとか、モディーミマを説得しようと試みる。
「…殿下。なぜ、妥協なさるのです?なぜ、いいように王太子殿下…いえ、バムス・レルスリに踊らされているとお考えにならないのですか?」
グイニスは急に、八大貴族の筆頭である、レルスリ家の当主の名前が出てきて困惑した。八大貴族だから無関係ではない。だが、この話の流れの中で、何を目的に持ち出してきたのだろう。
「…どういう意味だ?」
「ご存じないのですか?なぜ、王太子殿下が立太子を受けられることにしたのか?」
「…それは。」
思わず答えに窮すると、モディーミマは頷いた。
「バムスが王太子殿下に話したそうです。王太子になれば、殿下、あなたが閉じ込められているはずの王宮の設計図などを閲覧できると。王太子でなければ入ることが許されていない、資料室に保管されている王宮の地下通路などを見ることができると。それで、立太子を受けることを決心なさったのだと。」
それについてはフォーリから聞いて知っていた。だが、それ以上の何を言わんとしているのかが分からない。
「…それについては知っているが。」
グイニスは慎重に聞き返した。
「私が言いたいのは、バムスが王太子殿下にわざと殿下を助けさせたということです。その証拠にバムスはただの一度も、殿下に刺客を送っていない。他の八大貴族は送っている者もいる。バムスは陛下も王太子殿下も、そして、殿下もさらに仲間の八大貴族もみんな一手に握っている。そして、みんなあの男によって踊らされていることに気がついていない。
殿下、あなたを助けることによって、将来的にこうなることをバムスは予測していた。あなたが命の恩人の王太子殿下を退けてまで、王位に就かないことを見越していた。あなたのご性格を知っていたからだ。恩義を感じて、従兄のために場合によっては命さえ差し出すと。それを知っている。」
セリナはいつの間にか震えていた。この名前もあんまり聞いたことがなくて、よく知らなかった貴族にセリナは恐怖を覚えていた。いつか、母のジリナとした会話を思い出した。レルスリ家が天下を握っていると。
仮にバムス・レルスリの計画だったとしたら、人の性格を読み、さらに時がかかってもそのような流れにし、管理できるバムスも凄いが、それを見破るこの男もバムスと同じだということになる。いや、完全に同じではないだろう。なぜなら、見破れても同じように行動できるかは別問題だからだ。
「それでも、殿下は王位に就かれないと?」
若様は呼吸を整えてから、まっすぐにモディーミマを見据えた。セリナはさっきから、底知れぬ不安に襲われていた。この人、怖い。何を考えているのだろう。さっきから、震えが止まらない。
「仮にそうだったとしても、私の決意は変わらない。」
「絶対にですか?」
「…絶対?とにかく、変えるつもりはない。」
モディーミマはため息をついた。
「仕方ありません。残念です。」
彼は言うと、戸口を振り返って大声で呼ばわった。
「者ども出会え!この娘を取り押さえよ!」
星河語
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