忍び寄る魔の手 3
ベリー医師は危ない思想の持ち主である、友人のランゲル医師の叔父を捕らえようとしたが、その前に何者かによって羽交い締めにされてしまう。
ファンタジー時代劇です。一般的な転生物語ではありません。洋の東西を問わず、時代劇や活劇がお好きな方、また、ラブ史劇がお好きな方、どうぞお越しください。
意外に頭脳戦もありますかな……。そこまで難しくないので、お気軽にお読み下さい。
転生はしませんが、タイムスリップや次元の移動はあります。(ほぼ出てこないので、忘れて読んで頂いてけっこうです。)
すると、中庭の小道からマントを被った一人の男、ザムセーが出てきた。
「ふむ、聞かれておったか。だが、まあ、良い。あの子がランゲルと会って話をするのがいつになることやら。かなり、時間がかかるだろう。三日後か四日後になるやもな。」
彼は大して動揺している様子もなく、一人で呟いた。ザムセー・カートン、彼はカートン家の中でも指折りの新薬開発の天才的な医者である。一方で催眠にも詳しく、若様の治療に一役買ったことは、ベリー医師も含めて数人しか知らない事実だ。
だが、一方で危険な思想も持ち合わせている。いい薬を作るには早い段階から、人体での試験を繰り返すべきだという主張をし、研究に重きをおいているカートン家内の医師達から絶大な支持を集めて、次期家長に名乗りを上げた。しかし、それは慎重になるべきだという、甥のランゲルと激しく対立し、結局、ランゲルに破れた。
それ以降、ザムセーは隠居すると言って、コニュータの離れ屋敷に籠もっていたはずだった。
その人物がサプリュに現れた。そして、若様とセリナに、おそらく催眠術を施した。なぜ、そうしたのか。カートン家を出て行かせるため。しかも、若様はかつて術を施した患者だ。経過観察もしたかったのだろう。なぜ、出て行かせたかったのか。
そうだ。おそらく、彼がカートン家の内情を伝えている。カートン家の密偵はおそらく、ザムセーなのだ。全てのつじつまが合う。そうなると、あの謎の組織の男はどうなっただろうか。おそらく、解放しただろう。そのためにも、ここに来たはずだ。
最も危険な人物と若様が接触してしまった。かなり、胸騒ぎがする。ベリー医師はザムセーをどうすべきか、逡巡した。が、一拍後には決断した。彼を捕らえる。
ベリー医師が動き出そうとした瞬間、背後から何者かに羽交い締めにされた。少しもみ合いになったが、首筋に衝撃を受けて気絶した。
「危ない所だった。」
謎の組織の男だ。彼の声にザムセーが振り返る。
「子供はどうする?」
謎の組織の男の問いに、ザムセーは軽く笑った。
「大丈夫じゃ。ランゲルに伝わるには、後二、三日必要じゃろうて。それより、問題はこっちの方じゃ。ランゲルの同期だが、なかなかやっかいなヤツじゃ。」
ザムセーが言った時、向こうから
「ベリー先生、ベリー先生いますか?」
という他の医師が探している声が聞こえてきて、二人は急いでベリー医師を庭のさらに奥の物陰に運んだ。
もう少し行った先に物置が置いてある。二人はそこにベリー医師を閉じ込めることにした。男が金属棒を使って鍵を開ける。そこに両手両足を縛った上、猿ぐつわをかませたベリー医師を寝かせた。物置と言っても結構中は広い。子供なら五、六人は入るだろう。庭を手入れする道具が入っているが、ここはあまり使われていないようだった。道具もそんなに入っていない。
ザムセー医師は平たい石を庭から拾ってくると、土を払い、ベリー医師の顔の側に置いた。その上にさっき使った香を焚く。さらにもう一つ、別の種類の香を出すと、それにも火をつけた。
「これは、あまり嗅がない方がいいぞ。」
ザムセー医師は男に注意する。
「さあ、たんと私の香を堪能するが良いぞ。どういうことになるかな。」
楽しげにザムセー医師は笑う。二人は慎重に物置小屋の戸を閉めると、男が元通りに鍵をかけた。
「一体、その香はどういうものだ?」
男の問いにザムセーはくつくつと喉を鳴らして笑った。
「最初のこれは、ただ意識が朦朧として眠くなるもの。妊婦にも影響はない。もう一つは、私が今、研究しているものだ。下手をしたら記憶を失うかもしれんな。二つの香の成分でどういう効果が出るのか、それも分からん。初めての組み合わせだからな。まあ、実験後が楽しみだな。その前にランゲルが大慌てするか。」
「死ぬわけではないのか?」
「まあ、そうだな。場合によっては死ぬだろうし、運が良ければ死なないかもしれん。」
ザムセー医師の答えに男が物置小屋を振り返った。
「開けん方がいいぞ。もう、薬が充満しているから、お前も倒れる。」
ザムセー医師の答えに男は、ため息をついた。
「しょうがない、分かった。助けて貰ったし、いいことにする。」
二人は言って立ち去った。
星河語
最後まで読んで頂きましてありがとうございます。




