忍び寄る魔の手 1
何者かがやってきて、若様とセリナに何かする。すると、二人はなぜか記憶が一部なくなり、なぜか、ここから出て行かないといけない気になってしまう。
ファンタジー時代劇です。一般的な転生物語ではありません。洋の東西を問わず、時代劇や活劇がお好きな方、また、ラブ史劇がお好きな方、どうぞお越しください。
意外に頭脳戦もありますかな……。そこまで難しくないので、お気軽にお読み下さい。
転生はしませんが、タイムスリップや次元の移動はあります。(ほぼ出てこないので、忘れて読んで頂いてけっこうです。)
謎の組織の男が監禁されている部屋に、一人の男がやってきた。ちょうど、ベリー医師がフォーリとシャルブを休ませるため、捕らえるために人を総動員した直後で人が手薄な時間だった。みんな、このニピ族らしい手練れの男を捕らえていたので、どこか安心していたのだ。カートン家に侵入できる者がそう簡単にいないからである。
中に入った男が謎の組織の男に薬を飲ませたり、精油の匂いを嗅がせたり、鍼を打ったりしているうちに、謎の組織の男は完全に目覚めた。
「助かった。しかし、よく見つからなかったな。」
すると、男はふふんと笑った。
「まさか、私がお前に協力しているとは、誰も思うておるまい。」
男はどこか芝居がかったような口調で楽しげに笑う。
「私も甥のランゲルとは折り合いが悪くてな。ちょっと、慌てさせたいと思うておる。」
つまり、この男はランゲル医師の叔父でカートン家の医師の一人だということだ。
「どういうことだ?」
謎の組織の男が尋ねた。
「今はここであの王子に止めを刺すのはやめてくれ。まあ、私が施した処置の経過観察も医師の一員として成り代わってできたし、満足はしておるが、もう一手別の方法を考えておる。カートン家から逃げるのも、容易ではないしのう。」
彼は言って、謎の組織の男に耳打ちをした。
グイニスはセリナと話をしていたが、人の気配に振り返った。マントを頭から目深に被った男が部屋に入ってきていた。先日、診察をしてくれた医師の一人だ。しかし、ベリー医師がいない時にやってきたので、少し不安がある。
「…あんまり、見ない先生よね?」
セリナが心配そうに小声で言う。
「驚かせて申し訳ありませんな。さてさて、具合はどうですかな?」
言いながらやってきて、香立てに新たな香を立てた。あまり嗅いだことのない匂いだったが、じきに慣れてしまった。
ふと気がつくと、二人は眠っていて目覚めたかのような感覚になっていた。二人して顔を見合わせる。まだ、先ほどの医師はいたが、さっき感じた不信感は全く感じなかった。
「お二人とも。」
その医師がパン、と手を叩いて二人の注意を促した。
「お二人とも、この後、すぐにカートン家を出て、モディーミマの屋敷に行きなさい。誰にも気づかれないように中庭からでていくこと。そうでないと、助けてくれる人達の邪魔をしてしまうことになる。そうならないためには、すぐにこっそり行くのですぞ。」
医師は窓辺に行って、細く窓を開けた。
「さあて、この香が消えたら、私のことは忘れてしまう。」
医師はまたパン、と手を叩いた。
気がついたら、二人は眠っていたようだった。さっき、何かあったような気がするのだが、二人とも全く思い出せなかった。二人は首を捻ったが、早くカートン家を出た方がいいような気がした。
「ねえ、若様。」
「うん、分かってるよ。早くモディーミマの屋敷に行こう。誰にも見つからないように行かないと。」
二人はすぐに支度を始める。
「セリナ、大丈夫?体を動かすけど。」
セリナはにっこりした。
「大丈夫よ。中庭も散歩できるんだもの。」
セリナはベリー医師の指導で、散歩できるくらいに回復していた。中庭にはこの部屋から直接出ることができる。
「そうか、良かった。」
二人は微笑み会うと、手を取り合った。
星河語
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