振り回されるフォーリとシャルブ 2
フォーリとシャルブは寝不足だった。元親衛隊も同じで、体調のシークもである。特別兵の男に対して、ベリー医師がやってきて診察ぴしゃりとドクターストップをかけるが、空いてもさるもので、なかなかベリー医師にしてやられない。
「…早く終わらせないと。」
二人はぶつぶつ呟いている。
「お、まだやるか。なら、次は拠点を二カ所ずつだな。」
特別兵の男は調子に乗って、さらなる要求をする。
「だめだ。却下。」
ベリー医師が眉間に皺を寄せて止めた。
「はあ、なんでだよ。勝手に特別兵の仕事に口を出してくれるなよ、カートン家の先生。こっちは仕事なんだからな。」
この男、口が達者で良く回る。
「こっちも仕事だ。これ以上、働かせたら二人が過労死する。」
ベリー医師の言葉に男が吹き出した。
「まさか、その前に寝るだろう、普通。動けなくなって勝手に寝るもんだ。」
「お前、ニピ族を知らないな。」
ベリー医師は鋭く男を睨みつけた。
「一旦、主の危機だという風に切り替わってしまったら、その脅威がなくなるまで、もしくは自分が死ぬまで働き続ける。今の二人はまさしくそういう状態だ。あの男が捕まっている間に、早く危険を全て排除してしまおうと必死だから。
だが、そう簡単に全て排除できるわけがない。お前も分かっているだろうが。だが、二人は優秀だから、やろうと思えばできてしまいそうな所が恐ろしい。」
「…はあ。便利なのにな。」
ベリー医師は男を睨みつける。
「便利屋じゃないぞ。セルゲス公の護衛だ。もし、二人が死んでセルゲス公が害されたらどうするつもりだ?お前はどう責任を取る?」
「だから、早く片付けようとしてんだろ。」
「いいや、一緒にするな。確かに最初はこっちで個人的に対処しようとしていたが、王太子殿下とリイカ姫のお墨付きで仕事している以上、もうお前達の仕事だ。セルゲス公にも関係あるから手伝っているだけで、自分達が面倒な仕事をセルゲス公の護衛達にさせるな。」
男はいまいましそうに舌打ちした。
「なんだよ、使えるもんは使うのが俺の信条なんだが。」
「お前の信条は関係ない。」
ベリー医師は答えると、廊下のあちこちに置いてある呼び鈴を激しく鳴らした。途端にあちこちからニピ族と医師や医師の卵達が大勢走ってきた。
「この二人を強制就寝させる。」
出て行こうとするフォーリとシャルブを、シークが必死にマントをつかんで引き止めていた。ベリー医師の命令で、ニピ族を中心に一斉に二人に飛びかかる。フォーリとシャルブは逃げだそうとしたが逃げ出せず、結局、捕まった。押さえつけられた上に縛り上げられ、両手両足も掴まれて、まるで狩られた鹿か猪かのように連れて行かれた。
「……。」
さすがの特別兵の男も何も言えずに見守っている。
「それから、ヴァドサ隊長もみんな交代で寝ないで仕事をしているから、もういい。昼間だけ手伝えばいいんだし、若様の護衛ができなくなったら本末転倒だ。」
「…実は交代ができず、結局、みんな二日ほど徹夜になっている。フォーリとシャルブの速度についていけないから、総動員ということになってしまった。」
ベイルが抜けた穴は大きい。隊のみんなには、ベイルが怪我で抜けたとだけ伝えてある。シークが白状すると、ベリー医師から恐ろしげな空気が醸し出され始めた。
「もう、全員、二日は必ず休み。フォーリ達は七日間だ。」
「そんなに休まれたらこっちが困る。」
特別兵の男がぼやく。ほんとうに人使いが荒い。だから、勝手に御者に扮していた男が戻っていったのだ。シークは納得した。こっちが妥協したらした分、こいつはもっと要求してくる。彼の部下はみんな分かっているので、適当に判断しているのだろう。
「何が困るだ。フォーリとシャルブ、それからヴァドサ隊長達も含め、みんなの力を合わせたら、たった数日で一月分の働きはしたはずだ。」
そして、ベリー医師も分かっている。
「…しょうがねえな。ま、丸め込めないんなら、退散するか。じゃ、ご苦労さん。一月分どころか二月分は働いたって思うぜ。」
特別兵の男は片手を上げて、最後まで憎たらしく言うと帰って行った。絶対に国王軍の兵士だと普通の人は見抜けないだろう。シークだって見抜くのは難しい。
「面倒な男だったな。全く、フォーリは真面目な男だから、こんなにただで全てを得ようとする、適当人間と折りが合わなかったんだろう。」
思わずシークは言った。
「先生、助かりました。おかげでみんなが倒れる前に休むことができる。」
シークはベリー医師に礼を述べる。
「いや、なんてことない。しかし、私も眠い。早く休まないと。」
ようやく休めると思った途端、シークも急に体が重くなってきた。いかん、みんなに休みになったと伝えないと、となんとかシークは体を動かしたのだった。
星河語
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