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伸びる魔の手 

 今回は、少し短いのですが物語の都合上、きりがいいので切っています。

 ベリー医師が寝ずの番をするために、廊下にある長椅子に寝そべっていると、何者かの気配がして目を開けた。

「……それで、寝ずの番ができるのか?」

 もっともな質問だった。

「心配無用です。ちゃんとこうして、目を開けているでしょう。あなたの存在にもちゃんと気づいた。褒めて貰ってもいいと思いますが。」

「私が気配を出したから、気がついたのだろう。何を白々しく言っている。」

「いいや、何を言っているんですか。あなたがそっちの廊下の角を曲がった時からちゃんと気づいてましたよ。」

 言い合っても無駄な議論なので、男は言い返さなかった。

「一応、断っておくが、この中に入らせて貰う。中のセルゲス公に来て頂かなければならないのでな。」

「いいって言うわけないでしょう。」

 扉に手をかけた男は振り返った。

「私も医者を叩きのめしたり、殺したくない。そうでなくても、今日は(ひど)い弱い者いじめをしたので、気分が悪い。」

「そうですか。どんなふうに気分が悪いんですか?嫌だったら、弱い者いじめをしなければいいでしょう?そんなことを繰り返していると、あんまり体に良くありません。」

「……。」

 カートン家は身分の上下に関係なく、どんな人も診療する。そう、“どんな”人も治療する。つまり、裏社会の怪しげな人々も関係ない。だから、肝が据わっている。それで、ニピの踊りが必要なのだ。

 普通なら寝そべったまま、侵入者にそんなことは言わないだろう。

 男は黙ったまま、扉を開けようとした。

「だめですよ。」

 ベリー医師は起き上がって男の腕をつかんだ。なかなかニピの踊りの才能があるようだ。かなりの早業だった。男はベリー医師の腕を払おうと、もう片方の手で技をかける。ベリー医師はそれを払う。二人は一時、技をかけあった。ニピ族だったら、なかなかいい線をいく遣い手になったのではないだろうか。男はベリー医師の腕前をそう評価した。

 それでも、男の方が実力は上だ。だんだん、ベリー医師は疲れてきた。そもそも、医者というのは忙しいものだ。疲れているから、寝ずの番をするのに寝そべっていたのだ。それくらい、男は理解できた。

 少し、強めに技をかけてベリー医師を突き放した。そうしておいて、扉を開けて中に入ろうとし、蹈鞴(たたら)を踏んだ。

「!」

 だが、真後ろから背中に強烈な蹴りが入る。男は手を伸ばしたが空を切った。勢いよく下に落下する。途中で網に引っかかり、獣のように捕らえられてしまう。床に叩きつけられることはなかったが、充満している煙にむせ込んだ。咳き込んでいるうちに猛烈な眠気に(おそ)われる。その眠気にあらがえず、男は意識を失った。

 ベリー医師は上からそれを確認した。そして、扉を静かに閉める。

「ご愁傷様。私の患者を付け狙うから、そうなるんですよ。あなたがフォーリを捕らえようとした作戦に、少し趣向を凝らしました。」

 一人、ニヤリとして呟いた。

 それから、しばらく男は意識が朦朧(もうろう)とする日々が続いた。どれくらい経ったか分からない。記憶も曖昧(あいまい)だ。フォーリやベリー医師は分かっている。彼らに色々と何か聞かれた。話してはならないと分かっているのに、薬の作用のせいか何やら色々と話してしまう自分がいた。

 しかも、うまく話せなくて、なぜか幼い子供のようにしか口が回らない。だんだん、忘れていた幼い時の記憶がよみがえってきた。弟と二人で走っていた。喧嘩もした。それでも、双子だから何も言わなくても言いたいことは分かった。

 ぼんやりする。でも、だんだん、それでいいような気がしてきた。

 男はまた眠った。


 星河語ほしかわ かたり

 最後まで読んで頂きましてありがとうございます。

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