体調の異変 7
今夜は文章の流れの都合上、少し短めです。ご了承ください。
その頃、ベリー医師はハオサンセと話していた。
「お分かりかと思いますが、若様がそちらにいらっしゃったことは、他言無用でお願いします。」
「もちろんだ。…しかし、セルゲス公は本気で王位に就かれないと?」
ハオサンセは、未だ信じられないような様子で聞き返した。やはりな、とベリー医師は思う。若様は人の心をあまり疑わない。自分が傷ついても信じる方を選ぶ。
「本気です。そういうお方ですから。命の恩人の王太子殿下の御ため、また、国のため、民のためになるならば、ご自分が犠牲になることを覚悟なさっておられます。」
ハオサンセはため息をついた。
「優しいお方だから、あのような娘も側においておられるのだろう。必死で侍女の役割をしていたから、目を瞑ってやっていた。そうでなければ、追い出しただろう。」
セリナの感じていたことは間違いではなかった。
「優しいお方故に、王太子殿下を追い落とすことがおできにならないのだろうが、王太子殿下の方が利用しているとはお思いにならないのだろうか。それとも、お気づきにもなっていらっしゃらないのか。」
基本的にカートン家の医者は、政には口を出さない。だから、ハオサンセはつい、気を許して口が滑らかになった。セルゲス公の味方だと判断してくれているはずだ、と思っているせいでもある。彼は忘れていたのだ。カートン家が不遜だと時に罵られることを。
「……。」
「騙されていらっしゃるのだ、殿下にもそして、あの娘にも。」
ベリー医師はハオサンセを睨みつけた。そして、ハオサンセはその殺気のようなものを感じて、ベリー医師に向き直る。
「…なんだ、なぜ、睨んでくる。」
カートン家一門の医者がニピの踊りができるのは、周知の事実だ。怒らせたら太刀打ちできない。思わず、一歩後ずさる。
「あなたは、何も分かっていない。」
「…何をだ?」
聞き返すことができたのは、大貴族としての誇りがあるからだ。そうでなければ、聞き返せなかったかもしれない。それくらい、ベリー医師から出ている雰囲気は不穏なものだった。
「若様のことだ。騙されている?そうではない。あの方は本当はとても、深い洞察力をお持ちだ。そして、周りにいる人間を常に計っておられる。あなたは若様を侮っている。セリナだって若様の試験に合格したから、側にいられるのであって、そうでなければ若様は彼女の元から立ち去った。
あの方は幼い頃から、大変な苦労をなさってこられた。それだけに、人間を見る洞察力は鋭い。誰がどういう人柄か、国王軍の護衛兵達も一ヶ月ほどで把握されておられた。本当にそういう方が、騙されると思いますか?」
「……。」
ハオサンセは思わず黙り込んだ。ベリー医師がセルゲス公が幼い時から、ずっとついている医師だと知っている。彼は三ヶ月ほど、屋敷に逗留していたのだ。今の話からいけば、誰がどういう人間かおおよそ把握しているということだ。
「若様だってご存じだ。ご自分が王位に就かれる道を歩んだ方が速いと。でも、あえてそうはなさらない。叔父君である、国王陛下のなさったことには、我々の知ることのできない、何か重要な意味があるとお考えだ。だから、八大貴族とも、むやみに衝突してはならないと言われている。あなたは、若様が言われたことの、本当の意味を理解していない。
若様のことを侮り、きちんと若様を見ていないからだ。ただ、優しいからそう言われているわけではない。全てに理由がある。全てを考えた上で、ご自分が引く決意をされている。」
「…全てを?」
叔父が甥から権利を奪った以外に、何があるというのか。従兄の王太子が有能だから、そのまま王位に就かせてくれという話だった。内戦にならないように。しかし、ハオサンセには内戦になるほどのことではないと思えた。大げさすぎると感じていたのだ。そこまでする大馬鹿者はいないだろう。というのが、ハオサンセの正直な感想だ。それは、言わなかったが。
だが、目の前の医師は真面目に、セルゲス公の言ったことの意味を理解していない、と憤慨している。確かに美しい容姿に目は奪われる。男色の傾向がない者でも、あの容姿が目の前にあって、どこか憂いのある微笑を向けられたら、ふるいつきたくなるだろう。酔っ払いが大勢いる所に連れて行ったら、完全に襲われる。
そういう容姿だから、確かにそっちに気を取られる。それでも、ハオサンセはそれを抜きにして接し、話をしたつもりである。
星河語
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