体調の異変 3
セリナは不思議な夢を見た。二人の可愛い若様に似た幼い子達。この子達は一体……?
セリナが泣いていると、誰かがやってきた気配がした。軽い、可愛らしい足音。一人かと思ったそれは、二人だった。一人が先にセリナの前に来て、もう一人が後からやってきた。
「どうしたの?」
「どうしてないているの?」
可愛い子供の声だった。二人は仲良くふふふ、と笑う。セリナが答えられないでいると、もう一度聞いてきた。
「ねえ、どうしたの?」
「だいじょうぶ?」
幼い子供達の声にセリナは、ようやく答えた。
「…とても、とても大切な人が死んでしまったの。だから…とっても悲しくて泣いているの。」
不思議とさっきまで、心臓が引き裂かれてしまうかと思うほどだった悲しみが、いつの間にか和らいでいた。
子供達はふふふ、と笑う。
「だいじょうぶだよ。」
「おとうさんはしんでないよ。」
子供達の声と言葉に、セリナははっとして顔を上げた。見ればいつの間にか、倒れていたはずの若様はいなかった。
かわりに見るも可愛らしい子供が二人立っている。お人形さんのように愛らしくて、思わずそっくりの子供達を見つめた。まだ、二、三歳くらいの子供達だ。
「…ほんとうだ。死んでない。」
セリナが思わず言うと、二人はきゃははは、と嬉しそうに笑った。きらきらしたその笑顔は若様とそっくりだ。セリナは胸をつかまれた。
(小さな若様が二人いる。この子達は…。)
笑っていた子供達がセリナに抱きついてきた。
「おかあさん。」
二人同時にそう、言った。
セリナは、はっと目を覚ました。
「セリナ、セリナ、大丈夫?」
それと同時に若様が心配している声が聞こえてきた。
「わ、若様…。」
セリナは起き上がろうとして、下腹部に重い痛みが走った。
「う…!」
痛くてすぐに声を出せない。
「セリナ、どうしたの?」
若様の声が緊張する。
(だめ、だめ!行っちゃだめ!ごめんね、お母さんが悪かった!わたしが、しっかりしていないから…!わたしのために行こうとしてる!まだ、生まれてもいないのに、親の心配をして…!)
セリナの両目から涙が溢れる。
「大丈夫?」
痛みに答えることができず、セリナは痛みに喘いだ。
「待ってて。今、準備するから。」
若様は言って、何かしているようだった。やがて、呼び鈴を持って部屋の外に出て行った。
しばらくして、若様はセリナにマントをかけると、ゆっくり抱きかかえた。
「わ、わかさま……。どこに…。」
「大丈夫だ。少し我慢して。カートン家に行こう。」
「…で、でも!」
若様はセリナを安心させるようににっこりした。そして、部屋の外に出る。すでに侍女が待っていた。若様は彼女に何か頼み、侍女は荷物を持って出てきた。そして、廊下を案内する。
ぼんやりする頭で、若様はもうここに戻ってこないつもりなんじゃないかと考えた。
外に出たところで、この屋敷の主のハオサンセが待っていた。セリナを抱えたまま、若様は馬車に乗った。セリナが楽になるように座らせてくれる。クッションなんかを入れて、振動がこないようにしてくれた。若様はセリナを支えてくれている。
ハオサンセも馬車に乗り、やがて、ゆっくり走り出した。少しの振動でもセリナは堪えた。お腹に振動がきて辛い。
しばらくして、若様はハオサンセに言った。
「…ハオサンセ。今まで嘘をついていて申し訳ない。この人は侍女ではない。私の大切な人だ。」
ハオサンセは一拍ほどしてから、答える。
「存じておりました。ですが、殿下の状況を考えますと、口に出して言えることではないと思い、黙っておりました。」
若様はかすかにあっというような声を出したが、苦笑した。
「…そうか。気を遣わせてしまった。すまない。」
セリナはおそらく、ハオサンセはセリナが身ごもっている可能性を考えていると思った。彼が思っていなくても、おそらく準備をさせたのは奥様で、彼女ならそう考えるだろう。だから、できるだけ振動が来ないようにクッションをたくさん用意してくれたのだ。
やがて、カートン家に到着した。
星河語
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