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貴族、ハオサンセ 3

 セリナは必死に、若様の付き人のふりをする。

 若様は、ハオサンセと晩餐後に直接話をするという大事な任務があった。

 そんなこんなで一日がようやく終わろうとしていた。だが、最大の難関(なんかん)はハオサンセ家の当主と話をすることだ。それは若様の役目なので、セリナの出番ではない。それでも、一番大事な部分だった。

 夜の食事を終えて歓談に入り、ようやく本題に移る。

「ところで、殿下は今の現状をどうお考えでしょうか?」

「どうとは?」

「では、率直にお尋ね致します。セルゲス公殿下は王位にお就きにならないのでございますか?」

「では、私も率直に答える。私はそのつもりはない。従兄(あに)上がお就きになるべきだ。従兄上は王太子として、いかんなくその能力を発揮されておられる。従兄上に何か不満があるか?」

「王太子殿下に不満はありません。殿下の仰るとおりです。しかし、懸念(けねん)は八大貴族の方にあります。」

「八大貴族をすぐに排除することはできない。だが、長く権勢を誇ることもできないことは、八大貴族自身が十分に分かっているだろう。特にレルスリは。それに、叔父上が無駄に八大貴族という勢力を作ったわけではないだろう。そこに、私達もまだよく理解できていない大きな理由がある。」

「しかし、陛下にお尋ねしようにも、陛下は療養ということでティールに行かれてしまいました。」

「ティールに?」

 若様は思わず聞き返した。つまり、遺体をティールに運んだということだ。薬品の強烈な臭いがしているから、王太子殿下が運ばせたのだろう。

「ご存じではありませんでしたか?」

「話した通り、刺客に追われていたため、ゆっくり情勢を知る暇がなかった。ニピ族の護衛ともはぐれているくらいだ。」

 ハオサンセは頷いた。

「陛下が病にお倒れになられている間に、ことを起こそうという者が出てきましょうな。」

「私もそれを危惧(きぐ)している。内戦は避けたいものだ。私はこうなった以上、王位を継ぐべきではないと思っている。だから、私はあなたに頼みたいのだ。従兄上が無事に王位を継げるようにして欲しい。従兄上は私や姉上のために尽力して下さっている。私にはそれで十分だ。」

「……そうでございましたか。私も内戦はよくないと思っています。血気盛んな者どももおりますから、少し心配ではありますな。ただ、王太子殿下を説得されるのが先ではございませんか?王位を殿下に返すと公言しておられますぞ。」

 若様は頷いた。

「あなたの言うとおりだ。従兄上の思惑はどうであれ、従兄上以上にふさわしい人はいない。とりあえずでもなんでも、王位に就いて頂こうと思う。」

 ハオサンセは何か考え込んでいた。

「殿下のお考えは分かりました。それで、つかぬ事をお伺い致しますが、これからどうなさるおつもりで?」

「困ったことにしばらく、世話になるしかない。なぜなら、隠れ家も安全ではなかった。それにフォーリ達がやってこないのも、事情があるからだ。彼らは優秀だ。いつもだったら、すでに私達と合流しているはず。それがないということは、何か問題が生じているからだろう。」

 若様は苦笑いして答える。

「その上、私がいることは内緒にして貰わなければならない。従兄上にも今はとにかく逃げろと言われている。叔母上が大量の刺客を放ったらしくて。」

 本来なら笑顔で言うようなことではない。大体、叔母が甥に刺客を放つこと事態が異常なのだ。

「ご都合のつく時まで、ごゆっくり滞在なさって下さい。」

「すまない、世話をかける。無駄な出費をさせてしまうな。」

 ハオサンセは意外なことを聞いたように若様を見つめた。

「何を仰いますか。私共の懐具合などお気になさらないで下さい。」

「だが、領民からの税収で賄っている。」

 はっとしたように若様を見つめたハオサンセだったが、ふっと笑った。

「ご心配なく。シタレは港で(もう)かっております。領民も懐が潤っておりますから、大丈夫です。街の店は賑わっております。いつか、機会がありましたら、お越し下さい。ご案内致しましょう。」

 自信の表れた言葉に若様もにっこりした。

「そうか。それなら良かった。いつか、機会があったら、行くとしよう。その時は案内をお願いする。」

 若様が言っていた通り、ハオサンセは良識のある貴族だった。一応、若様の話にも納得してくれたようだ。その上、宿も心配ない。

 ようやく長い一日が終わった。


 星河語ほしかわ かたり

 最後まで読んで頂きましてありがとうございます。

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