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貴族、ハオサンセ 1

 若様は貴族たちを説得に行くことにする。自分ではなく、従兄である王太子タルナスを支持するようにと。そのために、まず大貴族の一人であるハオサンセ家に向かう。

 二人は(ほこり)やなんかで汚れた服のまま、ハオサンセの屋敷に行った。

 若様は悩んだあげく、カートン家にも隠れ家にも行かなかった。昨日の男の口ぶりからすれば、カートン家の周りを見晴らせているらしい。昨日は見逃してくれても、今日はどうか分からない。

 だから、そのままハオサンセの屋敷に来て、今は応接間に通されている。首府議会に行くために出てきた所で若様に馬車を止められ、驚愕(きょうがく)していた。刺客に追われているからかくまって欲しい、と頼まれれば断れないだろう。実際に嘘ではない。そのせいで、フォーリ達と離ればなれになったのだから。

 ハオサンセがどう出るか分からないので、セリナが主張して、セリナはお仕えする侍女ということにしている。若様は少し不服そうだったが、ハオサンセ家の当主はそれでいたく納得した。

 二人だけになって、セリナは若様に耳打ちした。

「ほら、だから、言ったでしょ。そんな雰囲気だもん。わたしが侍女だって言ったら、すごくほっとした様子だった。若様の女だって言ったら、どうなるか分からないでしょ。」

 ハオサンセは若様を屋敷に案内した後、自分は議会に出席するために外出した。しかし、安心はできない。奥様はいらっしゃる。案の定、奥様が侍女達を連れて直々に来られた。セリナは慌てて下がって、お付きの人のふりをする。

「初めてお目にかかります、セルゲス公殿下。」

 若様は優雅に立ち上がった。まるで汚れていない服を着ているかのように、汚れた服のまま挨拶を返した。

「こちらこそ、初めまして。突然、来訪したのにもかかわらず、丁寧に出迎えて頂き、感謝します。」

「夫より、殿下のご事情を伺っております。警備は万全ですので、どうか、ご安心下さい。それと、ただいま朝餉(あさげ)の支度を用意致しております。お体を清められるための湯浴みの準備はもうしばらくかかります故、今しばらくお待ちくださいませ。」

「いろいろと手数をかけさせてしまい、申し訳なく思います。本当に助かります。」

 若様がお礼を言うと、奥様は侍女に命じた。用意致しておりますも何も、もう、用意されている。きっと、自分達の朝ご飯の残りを急遽(きゅうきょ)、増やしたりしたんだろうと思う。

「さあ、配膳を。」

 侍女達が一瞬(いっしゅん)だけ若様に目を奪われたが、奥様が目を光らせているので丁寧に皿を並べ始めた。

 そこにスープを注ごうとしたので、思わずセリナは前に進み出て、それを手で制した。フォーリや作法の先生方に、徹底的に教え込まれた習慣が出てしまった。

 でも、これは絶対に譲れない。若様の安全を考えたら、抜きにはできない。セリナは、腹をくくってフォーリの真似をすることにした。舞を継承しないニピ族もいるというので、急遽(きゅうきょ)そのニピ族の娘だということにする。聞かれたらそう答えよう。

「お待ちくださいませ。」

 そう言って、セリナは並べられた皿を持ち上げた。光に照らして眺める。

「汚れでもついておりましたか?」

 奥様が怪訝(けげん)そうに尋ねる。

「そうではございません。一度、この食器類を全て湯通しし、拭いてきて頂けませんか?」

 奥様の目が点になった。侍女達も同様だ。

「全てですか?」

「はい。」

 フォーリの鉄面皮を思い出し、表情を変えずに貫き通す。

「申し訳ありませんが、理由を教えて頂けませんでしょうか?」

「若様のご安全のためです。これまで、幾度もそういった危険がございましたので。」

「……。」

 奥様は考えている。この侍女の言うことを聞いてもいいのか、迷っている。そう、自分達が毒を盛っているかもしれない、という疑いをかけられているのだから当然だ。

「いつも、そう致しております。それとも、どなたか毒味の役をかって出てくださるのでしょうか?」

 セリナのいつも、という言葉と毒味を誰かがやってくれるのか、という問いに奥様は言うことを聞くことにしたらしい。

「分かりました。では、一度、全て下げさせて頂き、そう致して参ります。」

 せっかく並べられた皿が下げられていく。料理も冷めるので、一緒に下がっていった。奥様も指示をするために下がっていった。

 一度、二人だけになる。

 セリナは廊下の様子を(うかが)ってから大きく息を吐いた。急いで手巾で汗を拭う。若様はおかしそうに笑っている。

「セリナ、フォーリの真似、上手だよ。」

 小声でからかってくる。

「しーっ。誰かが様子を覗ってたらどうするんですか。」

 セリナは(むずか)しい顔をして首を振った。すると、若様はぷっと吹き出した。お腹をよじって笑っている。

「もう…。こっちは真面目に言ってるのに。」

 セリナが小声で怒ると、若様はごめんと言いながら、なかなか笑いが治まらなかった。

「だって、今のは、本当に…フォーリだったよ。おかしくって。」

「……。」

 そんなに似ていたのかと思うと、ちょっと複雑だった。意図して真似したわけではない。鉄面皮以外は。


 星河語ほしかわ かたり

 最後まで読んで頂きましてありがとうございます。

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