王の崩御 1
王宮に行っていたシャルブが戻ってきて、驚愕の事実を告げます。題名の通り王の崩御を……。
少し短いですが、今後の話の流れの問題でこうなりました。
「そういえば、シャルブはまだ帰って来ないね。」
若様が思い出したように言った。シャルブは今、王宮の王太子殿下に若様が無事であることを伝えに行っている。王太子の判断によっては、ヴァドサ隊長達親衛隊は一度、戻らなくてはならない。
そんなことを言っていると、フォーリが振り返った。ランゲルの護衛のミンスも警戒している。窓の外の気配の正体に気がついたフォーリが窓を開けた。話題の主のシャルブだ。たとえニピ族でも、緊急事態でもなければ、できるからといっていつでも、窓から入ってくる訳ではない。つまり、緊急事態が生じたということだ。
フォーリはシャルブの後ろを確認して窓を閉めた。確認しなくても、二階だから、そう簡単にだれでも入って来れない。
「申し訳ありません、若様。」
シャルブが窓から入ってきた非礼をわびた。まだ、息も整えていない。走ってきたらしい。
「いい。それより、何があった?」
若様が緊張した面持ちで尋ねた。
「どうか、覚悟してお聞き下さい。陛下が身罷られた可能性があります。王太子殿下は、はっきり明言なさいませんでしたが、間違いないかと。」
全員が息を呑んだ。
「そして、おそらく殿下はその事を隠されるかと。今、身罷られたことを発表すれば…。」
「内戦になる。私の思惑はどうであれ、私を王位につけようとする。従兄上も内戦は避けたいと思われている。私に王位を返そうとなさっておられるが、戦争で私が王位につくのは望まれていない。」
若様の顔色は青ざめている。
「それから、これを。」
シャルブはランゲル医師に、懐から布にくるんだものを差し出した。
「カートン家にもじきに連絡が入るかと思います。途中で、伝書鳩を襲うように訓練された鷹が、鳩を襲っていたので打ち落としました。足輪にカートン家の紋が入っていたので、そのまま持ってきました。」
ランゲル医師が驚いた。
「これは…!ありがたい、感謝します。」
すぐに死んだ鳩の足の輪に入っている書簡を抜き出し、確認した。
「間違いないです。私は、すぐに戻らないといけないので、これで失礼致します。セルゲス公に関することは、ベリー先生に全てを託してあります。ベリー先生の判断が、カートン家の判断です。」
若様は頷いた。
「分かった。ありがとう。」
ランゲル医師は大急ぎで挨拶して出て行った。
「それから。」
シャルブはヴァドサ隊長に向き直る。
「王太子殿下より、ヴァドサの隊に命が下されました。緊急事態であるため、口頭での命令のみだが、従うようにとのことです。」
「はっ。」
ヴァドサ隊長が姿勢を正した。
「ヴァドサの隊は今を持って全員を解雇する。後は己の信念に従い、自由に行動せよ。とのことです。」
「は、承知致しました。」
いない相手にヴァドサ隊長は礼を尽くす。王太子タルナスの思いは十分に伝わる処分だ。普通、解雇されて喜ぶことはないが、ヴァドサ隊長の場合は違った。
「それと、これまでの給金は手形にて全員分を支払う、ということでお預かりしてきました。」
普通ならそんな大金を一人に預けることはしないが、ニピ族で人に奪われる心配が少なく、信頼されているからできることだった。
「これをどうぞ。」
シャルブは布にくるんだものを、懐から出してヴァドサ隊長に手渡した。封筒に全員分の手形が入っている。後で銀行に行って換金する。
「確かに受け取った。」
「さすが、従兄上だ。私のために働く者を残そうと、万一、内戦になった時に備え、お前達を解雇した。」
若様が感心したように呟いた。
「本当にそうです。殿下のご配慮に感謝してもしきれません。」
ヴァドサ隊長は頷いた。
星河語
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