動き始めた事態 2
昨日の小題を変えました。
「カートン家の密偵」→「動き始めた事態」に変更です。やっぱり急に自体が動き始めたので、こっちの方がいいかなと変えました。カートン家に密偵がいるらしいことはそうだけど、はっきりとは出てこないので。
「敵はどう出てくるだろうか。」
「おそらく、ここから出てくるのを待っている。このまま、出て行けば飛んで火に入る夏の虫、という状態になるだろう。」
「若様はどうなさるおつもりですか?」
若様はみんなを見回した。
「知っているとおり、私は従兄上が王位に就かれるまで、なんとか逃げ回りたいと思う。従兄上が王位に就かれれば、さすがの叔母上も少しは安心して、私に差し向けられる刺客も多少は減るだろう。それに、従兄上が王位に就かれれば、かなり内政も安定するはず。八大貴族をまとめ、父上の時代の重鎮達もうまくまとめられるだろう。
それには、私がなんとか生き延びていなくてはならない。私が死ねば、父上の時代の重鎮達が離れ、影響が出てくる。そこにつけこんで隣国が攻め込むかもしれない。そうなれば、姉上が苦労されてきたことも全てが水の泡だ。
私を王位に就けたい者達には申し訳ないが、私が王位に就いたからといって、八大貴族を除外できるわけではない。八大貴族は利権も握っているが、彼らが進める政策そのものが悪いわけではない。特にレルスリ家が提案する政策は、仮に私が王だったとしても承認するようなものばかりだ。
だから、私はなんとか逃げながら、私を王位に就けたい者達の元を回って、説得できるなら説得したいと思う。なんとしても、内戦だけは避けなければならない。
私はこのような運命をたどっているが、一人の王族として、できることはしたいし、果たすべき責任は果たしたい。
私は従兄上に王位に就いて頂きたい。私が王位に就こうとすれば、八大貴族との衝突は避けられない。必ず血が流れる。私はそれを阻止したい。
その過程でみんなには迷惑をかける。カートン家にも世話になりっぱなしだ。あなた達がいなかったら、私もフォーリも、今ここにいなかった。本当にありがたい。」
ランゲル医師とベリー医師が正式な礼をした。
「ありがたいお言葉です、セルゲス公。そのようなお言葉を頂いたと聞けば、一門の者も喜び、励みになります。」
「かしこまらなくていい。純粋に礼を言いたかっただけだ。それから、ヴァドサ隊長。あなた達が一番、迷惑を被るだろう。あまりに長いこと音信不通にしたから、親衛隊どころか国王軍を辞さなくてはならないはずだ。もしかしたら、従兄上は辞さなくていいと言われるかもしれないが、仮にそうであったとしても、辞してくれないか?私がみんなを雇い直したい。できるな、フォーリ?」
「はい、ただし、国王軍時代ほどの給与は保証できません。」
「だそうだ。」
「構いません、大変ありがたいお話です。良心に反し、誇りを失うより遙かにいい。」
若様はにっこりした。
「それなら、良かった。何年も一緒にいたから、知っている人達が一緒にいてくれる方が心強い。これから、私はあてのない、ただ逃げ回るだけの道を行くから。人によっては意気地なしだと笑うだろうね。」
「それは、違います、若様。いえ、セルゲス公。」
ヴァドサ隊長がやや語調を強めて反論した。
「ご立派な目標です。内戦を阻止することは、素晴らしい目標ではありませんか。誰に誹られようと、名誉よりも地道に国と民を守るための戦いをなさっておられるのです。はっきり申し上げて、王位に就かれる道を選ばれる方が、公にとって簡単な道です。
ですが、あえてご自分が忍耐なさり、王太子殿下や民を守るために厳しい道を選ばれる公に、意気地が無いと誰が言えるでしょうか。知らぬ者がそう言ったとしても、何万人の者が公をそのように罵ったとしても、私は決してそうは思いません。ですから、そのようにご自分を卑下なさらないで下さい。」
若様は胸を突かれたようにヴァドサ隊長を見つめていた。
「…ヴァドサ隊長、ありがとう。そのように言われると、嬉しくて胸が詰まってしまう。私は泣き虫だと自覚しているから、早く直そうと思っているのに、泣けてきてしまうよ。」
フォーリが差し出した手巾を受け取って、若様は涙を拭った。
「若様はそれでいいのです。それがないと若様らしくありません。それに、ご容姿が整っておられるので、ほろほろ涙を流している方が人間らしく、人々の心をつかめます。あまりに整っていると、人は近づきがたく思いますから。」
ベリー医師が毒舌をふるった。
「…ベリー先生は辛辣だなあ。でも、本当なんだろうね。」
涙を拭った若様がおっとりと笑う。先ほどまでの緊張した空気とは変わり、和んだ空気が流れる。これが、若様だ。優しい心に一度でも触れてしまったら、その境遇を放っておけないし、見捨てられない。そして、そのやさしい笑顔を向けて貰いたいと思ってしまう。
星河語
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