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ヨヨの街の子供達 8

 待っている間に、若様はシャルブに子供達に礼をやるよう命じた。

「しかし、若様。子供達に大金をあげると、後で良からぬ輩に横取りされます。こういう(うわさ)は早いものです。誰がいくら貰ったとか流れ、弱い者は大抵奪われてしまいます。」

「そうか、それは困ったな。きっと、礼をするならお金が一番、役に立つだろうと思ったけど。」

「お菓子をあげたらどうですか?」

 セリナの発言に少年達は何言ってんだよ、と思う。金の方がいいに決まってるじゃねえか。ただし、取られない方法を考えなければならないが。

「案外、一生食べられないだろうという豪勢な食事とか、お菓子って思い出に残るものですよ。みんなを集めて食べちゃえばいいし、後で横取りしようにもできない。

 母がいつも言っていました。お金は心に小悪魔を巣くわせるって。子供でも同じです。お金が絡めば、誰がいくら貰ったとか、後で必ず()めるでしょう。だから、うちではお礼は食べ物って決めていました。」

「それはいい考えです、お嬢さん。お母さんからいい知恵を授かっていたんですな。」

 誰か何か言う前に親分が賛同した。

「その件、儂に預からせて下さい。子供達の生活についても、考えがありましてな。後でここを貸し切って、子供達にたんと食わせてやりましょう。女将、それで構わんな?」

 親分の言うことである。女将は(うなず)いた。こうして、子供達へのお礼は食事に決まった。

「みんな、今日は本当にありがとう。助かった。」

 王子であるセルゲス公が少年達に礼を言った。まさか、王子がこんなに気取らずに話しかけてくれるとは思わず、少年は照れて鼻の下をこすった。

「いいってことよ。」

「なーに、かっこつけちゃって。でも、ありがと。」 

 セリナが言って、少年達の頭を順番に()でてくれた。

「みんな元気で。」

「おう。」

「またね、おにいちゃん。おねえちゃんも。」

「うん、元気でね。」

 二人は子供達と別れると馬車に乗り込み、シャルブが御者席に座る。親分の子分が三人、案内に立った。

 今度こそ若様達一行は去って行った。

 

 三人が行ってしまってから、親分は大きなため息をついた。

「まったく、この馬鹿者共が…!」

 命拾いした男を含め、セルゲス公と娘に手を出そうとした者達を叱り飛ばした。

「分かっとるのか…!儂ら全員、今日は命拾いしたんだぞ。」

 いまいち、若造達は理解していないようだ。顔を見合わせて戸惑っている。

「セルゲス公がああいうお方でなかったら、儂らは今頃、ニピ族に全員殺されておったわ。セルゲス公が優しいお方だったから、罪を犯した貴様までもが命拾いしたんだぞ。あのニピ族も公のご気性を把握しておるから、振り上げた拳を渋々降ろしてくれた。」

 親分は若造達を(にら)みつけた。彼は年を取っている分、知っている。ニピ族が単独で動かないことを。こうした後の状況を見張っている者が必ずいる。もし、余計なことを言えば、夜中に人知れず殺されるだろう。罰を自分が下すと言った以上、それを示さねばならない。

「いいか、セルゲス公のことについて、他言無用だ。ご容姿のことについてもいろいろ言ってはならん。当然、(だま)して服を脱がせたとか言語道断。もし、言えば後で必ず殺されると思え。そうなれば、儂は知らん。貴様らの命を救ってやれるのは、今夜限りだ。

 それから、貴様ら、裏で生きていく以上、これは覚えておけ。ニピ族には本家と分家がある。本家のほうは舞といい、分家のほうは踊りという。踊りのほうは知っているとおり、金持ちや貴族、さらにカートン家の護衛をする。だが、本家の方は違う。本家のニピ族は王族しか護衛しない。その上、分家よりも格が上でかなり強い手練ればかり。どんなに若くても、本家のニピ族とは決してやり合うな。」

 そう言って、親分は部屋の中を見回した。シャルブが暴れた痕跡が残っている。死体や怪我人をカートン家に引き取って貰うため、待っている所だ。

「手加減してくれてこれだ。本気のニピ族はな、鉄扇をしまって剣で舞をする。剣舞でもあるわけだ。分かるな、言っている意味が。理性がぶっ飛ぶほど怒っているニピ族は、主の言うことも聞かんぞ。儂は昔、一度見たことがある。とにかく、誰にも言うな、分かったな?」

 そう言うと親分は立ち上がった。今夜はとんだ災難だった。早く家に帰って寝ようと思ったのだった。


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