ヨヨの街の子供達 3
少女が時間通りに起こして貰い、働いている宿屋に行くと、大変なことになっていた。
あの美人の二人はボンボンの方に薬を盛られ、娘が驚いて困惑している所に男達が近づき、助けるフリをしてまんまと裏に連れ込んだのだという。実はこの宿屋は裏の人達とつながりがある。
「一体、どうなってんのさ?」
少女はほかの仲間達の少年達に加わり、様子を覗った。裏の店の様子が見える秘密ののぞき穴があって、悪ガキ達はこの穴から、大人達のする“事情”とやらを見学していた。
少女は思わず両手で口を押さえた。声を出しそうだったのだ。二人の美人達は服を脱がされて下着だけで椅子に座らされ、両手を後ろ手に縛られていた。その上、赤い髪の青年の方は上半身をはだけさせられ、なんとも色っぽい状態にされていた。
「本当に綺麗なお顔だよなぁ。あんまり綺麗だから、女かと思っちまったぜ。確かめさせて貰ったよ。」
一人の男が青年の顎をつかみ、上向かせながらにやにや笑って言う。
「ちょっと、あんた、何やってんのよ!若様に手を出したら、絶対、絶対、許さないからね!!!ていうか、あんた達、死にたいの!死んでもいいって言うわけ!後でどうなっても知らないわよ!」
娘の方は、威勢良く顔を真っ赤にして怒鳴っている。
「さっきから、あの姉ちゃん、ずっと、あの調子でよ。」
親分格の少年が小声で教えた。
「死ぬねえ。あんたも結構、美人だよ。彼の方が美人であっちばっかり人目を引くから、焼き餅焼いてんのか?」
男の言葉に数人が笑った。
「何言ってんのよ!本当に死ぬわよ!若様にはニピ族の護衛がついているんだからね!!怒ったら本当に怖いんだから!」
娘は息巻いて怒鳴り、肩で大きく息をしながら地団駄を踏んだ。
「まあた、ニピ族の話か?じゃあ、なんでついてねんだよ。本当にニピ族の護衛がついてんのか?はったりで助かるほど、甘くはねえぜ、姉ちゃん。」
青年に構っている男とは別の男が娘の顎をつかんで、わざと耳元で言う。さらに体をじっくりと触っている。
「ちょっと、本当なんだからね!ニピ族の護衛がついてんだから!死にたくなかったら、さっさと放しなさい!わたしは触っても、若様に絶対、触っちゃだめなんだって!嫌らしいことしたら、だめだってば!分かってんの?若様のお風呂を覗こうとしたヤツらは全員、殺されてんのよ!」
娘はぎゃんぎゃん叫ぶ。言ってることが無茶苦茶だ。
「セリナ、落ち着いて。」
隣の青年が娘を宥めようとする。
「お、おち、落ち…。」
セリナと呼ばれた娘は興奮しすぎて、息が途切れ途切れになっている。
「ほら、ゆっくり息を吸って。」
危機的な状況にあるにも関わらす、青年はおっとりと娘を諭す。彼女も彼の言うことは聞いて、ゆっくり深呼吸をした。
「落ち着いていられるわけ、ないでしょ!」
落ち着いた途端、彼女は叫ぶ。
「威勢のいい嬢ちゃんだ。売る前にやっぱこれは、味見しておくべきだよな。」
「どっちからする?たとえ男でも、こんなに上玉はいねえからな。薬でころっといかせれば、いい声出してくれそうだぜ。」
男は値踏みするように青年の首筋を指先で撫でた。
「…気持ち悪い。」
少女は呟いた。
「ねえ、味見って?食べるわけじゃないでしょ?」
一人のまだもう少し幼い少女が尋ねた。
「ほら、お前、野良犬で犬同士が乗っかってんの、見たことねえか?野良猫でもいいけどさ。」
考えた少女は頷いた。
「うん、ある。」
「あれは、メス犬の上にオス犬が乗っかって、交尾してんのさ。それと同じことするって言ってるわけよ。」
親分格の少年の説明に少女は頷いた。
「でも赤い髪の人、綺麗だけど男の人でしょ?だって、おっぱいないし。」
「ああ。男だけど美人だから、試してみるって話さ。」
「…へんなの。」
「ねえ、あたし、表に行ってくる。ぺぺ、あんたも来な。連絡係でね。」
「うん、分かった。」
少女は切りのいいところで、少し幼い少女ぺぺを連れて一緒に表の店に出た。女将さんが今日、二回目の少女を見て驚いた顔をしたが、仕事はあるのですぐに仕事を言いつける。ありがたいことに店の中で、客の注文を取ったり皿を片付けたりする仕事だった。厨房の裏で皿洗いとかだったら、すぐに動けなくて困る。
少女は手慣れた仕事をてきぱきと進める。だが、仕事を始めて間もなく、来客があった。
店にやってくる客は珍しくない。なぜなら、この宿屋は宿屋兼食堂であり、さらに夜は酒飲み屋になるのだ。でも、この客は他の客達と違った。
サリカン人なのか、髪を後ろで馬のしっぽのように結んで垂らしている。外国から来た人ではないことは明白だ。旅の装束だが来ている物自体は悪くない。さらに帯剣をして、マントも羽織ったまま、中に入ってきて中を見回した。若いが妙に鋭さがある。一分の隙もない。相当な武人だな、と少女は勘づいた。




