ヨヨの街の子供達 2
「なるほどな。どこかの貴族のぼんぼんと駆け落ちしたはいいが、坊ちゃんが金の価値分かってなくて、困ってるってやつだ。ありゃあ、じきに別れるな。」
少年はしたり顔で頷いた。
「それにしても、二スクル五十セルか。かなりいい金額じゃねえ。」
「ああ。そうだよな。五スクルってお前がふっかけた時は、仕方ないわねとか言って、どうにかなるかと思ったけど、あの姉ちゃん、結構、気が強かったな。見た目と違って。」
「美人が怒ると迫力あるよな。目、つり上げちゃってさ。結局、八スクル取り返していったわ。」
「にしても、すんげえ美男美女の組み合わせだな。あんな美人、見た事ねえ。男装の美女ってやつかと思ったぜ。」
「実は王子さまだったりしてさあ。」
「はあ、まさかぁ。」
「だって、なんだっけな。とにかく、今の王様じゃなく、前の王様の王子さまがすんげえ美人で、綺麗な赤い髪だって話だぜ。」
「みんな、男か女かって噂してるって話だ。」
子供達は幼げな様子と違い、大人顔負けのいっぱしの顔つきで噂し合う。
「まさかあ。」
「でも、噂とぴったり一致するな。」
「……。なあ、オレ達、今、すんげえ拾いもんしてんじゃねえの。」
子供達は半信半疑だった。
「おい、てめえら、何の話をしてんだ?随分、盛り上がってんなあ。」
このヨヨの街を仕切っている、やくざもんの使いっ走りの兄ちゃん達だ。この二人はシマ代を回収する係である。
「いや、美人の姉ちゃんがいたって話で。」
子供達の頭分の少年が答える。
「そうか?前の王様の王子がどうとか、言ってなかったか?」
「それは、そういう噂の話で。美人からそんな話になっただけなんで。全然関係ないんすよ。」
「ま、いいや。それより、今月分は用意できたか?」
「はいよ。」
少年はさっきせしめた金額より、遙かに少ない額を手渡した。それでも、いつもより多めに色をつける。
「今月はちょっと儲かったんで。」
「ほう、たいしたもんだ。いい心がけだな。来月もしっかりやれよ。」
二人の兄ちゃん達は去って行った。ちゃんと行ってしまったと確認してから、子供達は自分達の隠れ家に戻る。
「なあ、あの美人達、どこ行ったか確かめておこうぜ。」
「確かめてどうするんだよ。」
「だって、明らかにどっかいい所のぼんぼんだぜ。捕まえたらさ、いい額せしめられるんじゃねえ。」
「どういうことだよ。妓楼にでも売るってのか?さすがにそこまではできねえよ。第一、妓楼の方で子供のオレ達が売りに行ったら、その時点で信用されねえ。」
「じゃあ、人質にして本家に連絡させて、大金をせしめる。」
「馬鹿だな、そんなことして、護衛とかなんとか出てきたらどうするんだよ。太刀打ちできねえぞ。」
「ねえ、あんた達、何、ひそひそ話してんのさ。」
そこに一人の少女が戻ってきた。
「何の話?」
「ああ、赤毛のすんげえ美人のぼんぼんがいるって話で。なかなか美人の姉ちゃんが一緒なんだけど、どうにか金に絡めないかって話でさ。」
「ああ、あの美人達ね。」
少女が頷いた。
「噂になってるよ。あたし、街の宿屋で日雇いで働いてるでしょ。」
「うん。」
「そこで、聞いてきたんだけど、ヒーズから来た人達の話じゃ、王子さまらしいよ。王子さまが王さまに結婚を許してもらえないから、好きな女の子と駆け落ちしたんだってさ。実際に首府から武装した軍人が来ていて、一緒に来いとか言ってたらしいんだけど、なんか王子さまと話している内に、改心しちゃって結局、殺さなかったんだって。」
「ほんとなのかよ。」
「本当らしいよ。ほかにも何人かほとんど同じ話してたから。つい、最近の話らしくてさ、さっきもヒーズから来た人で、王子さまをヨヨでも見たって言う人がいた。」
少年少女達は顔を見合わせた。
「そんなに美人ならあたしも見たいなあって、思いながら歩いてたら、見た。確かにすっごい美人なんだけど、どうやら、馬を盗まれたらしくてさ。彼女の方が彼をすんごい剣幕で怒ってんの。そりゃ、馬を盗まれたんじゃねえ。怒りたくもなるわ。」
「はあ…!?」
少年達は頭を抱えた。
「あいつら、馬を盗まれたのかよ!八スクル取り返して、馬を盗まれたんじゃ、割に合わねえだろうよ。」
馬の飼育には金がかかる。馬自体も高い。どれくらいかは知らないが、きっとかなり高額の馬を盗まれたんだろう。
「それがさあ。」
少女が少し深刻な表情になる。
「あたし、聞いちゃったんだ。あの二人、玄人の人攫いのヤツらに狙われてる。その前段階の計画で馬をやられたらしい。」
「ねえ、あたし、思うんだけど、大抵、貴族のぼんぼん方って護衛がついてるじゃない。いないのかなあ?」
一人の少女が疑問を呈する。
「いるかもしれないけど。」
そこで、子供達は初めて護衛の姿がなかった事に気がついた。
「駆け落ちしようとしてんのよ。いないんじゃないの?普通、駆け落ちなんて許されないでしょ。振り切って来たんじゃない?」
宿屋の少女の意見にみんな納得した。
「なあ、それってヤバくねえ。護衛もなしじゃ、完全にやられるぜ。」
子供達は妙な雰囲気になっていた。
「っていうか、あたし達に関係ないんじゃない?」
「そうだけどさ。なんかなあ。」
放っておけないのだ。大抵の貴族のぼんぼん方というのは、なんか鼻につくというか偉そうなのだが、あの赤い髪の美人は素直というか、偉そうでなくて珍しい人だった。だから、なんか気になる。
「よし、こうなったら、仕方ねえ。追っていって忠告だけでもしておこう。それで、その後もどうにかなったら、それはあのボンボン方の責任だ。」
親分の少年の決定にみんな頷いた。家に帰らなければならない子供達は家に帰り、そうでない子供達でやることにした。食事代や家賃が必要な子供達には“売り上げ”の中から渡してやる。
「あたし、しばらく休んだらもう一回、宿屋に行くね。」
「じゃあ、それまであたしが宿屋に行ってくる。」
「じゃあ、わたし、連絡係。」
「オレ達はほかの目撃者を探して、どこに行ったか詳しく調べる。」
みんなはそれぞれできることを申し出て、それぞれの役割につく。だが、何もしない子供達もいた。
「あんた達、今日は家に帰んないの?」
「親父が帰ってきてさ。帰るに帰れねえ。」
「うちは馬鹿兄貴だよ。」
「そっか、最悪だね。夕方になる前に起こして。」
少女はほかの子達に頼むと、横になる。掃除や皿洗いの雑用で疲れきったのだ。




