表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

150/248

ヒーズの街で 3

「…セルゲス公、どうかこちらへ。我らは陛下のご命令をまっとうするしかございません。」

 藍色部隊の隊長はずっと弓矢で若様を狙っている。腕が疲れないのだろうか。

「今度も叔父上が直接言われたのか?叔父上が私に死ねと。」

「……。どうか、セルゲス公、お願いします。」

「おい、貴様、横暴だぞ、王太子殿下の管理にあるっていう話だったじゃないか…!」

「そうだ、そうだ、なんで、勝手に動いているんだ!」

「お前ら一体、何なんだ…!」

 わあっと民衆が騒ぎ出した。もしかしたら、逃げられるかもしれない。みんな若様に同情している。セリナは期待した。

「黙れ、貴様ら!!」

 藍色部隊の隊長が怒鳴った。思わずびくりとセリナは身じろぐ。すると、若様が大丈夫だよというように、ぎゅっとセリナを抱える腕に力を込めた。それだけで、セリナはビクッとして、それでいて安心した。

「たとえ、どんなに天下に罵られようとも、我らはこうするしかない!それ以外にないのだ!」

 藍色部隊の隊長は、かっと目を見開き、(にら)み殺すような勢いで周囲の人々を威圧した。

「貴様らが騒ぐなら、貴様らの目の前でセルゲス公を射殺す…!邪魔をしようとしても、貴様らが動く前に急所に打ち込んで殺すぞ!それくらい、できないとでも思うか!」

 あまりの迫力に人々が押し黙った。

「セルゲス公。民の前でそのような事態にしたくないとお考えであれば、どうか来て頂きたい。」

「…分かった。」

 若様の答えにセリナも人々も息を呑んだ。

「家族が人質に取られたのか?私のせいで、関係のないお前達の家族に迷惑をかける。」

 若様の声は決して大きくないのに、大勢の人々の耳に届いた。そして、それが聞こえたのは、藍色部隊の隊長も同様だった。彼は目を見開いて幽霊でも見たかのように、若様を凝視(ぎょうし)している。

「……なぜ、そのようなことを…?」

 藍色部隊の隊長の声は(かす)れていた。若様は優しく微笑んだ。

「三年前、お前は私に教えてくれた。叔父上が王として、お前に直接命じられたと。だが、先ほどははっきり明言しなかった。お前は生真面目な性格だとみえる。嘘をついても良かっただろうに、お前はそうせず、沈黙した。だから、何か理由があるだろうと思っただけだ。

 それに、天下に罵られてもそうするしかないと言った。そんなに必死になる理由として、家族などを人質に取られたというくらいしか、考えがつかない。

 そして、それはおそらく叔父上のご命令ではない。人質に取った者は私の考えが合っているならば、昨日、屋敷を襲撃してきた何者かが関与しているだろう。」

 藍色部隊の隊長の顔は青ざめていった。動きが止まった、その時だった。

「セルゲス公、今です、逃げて下さい…!」

「どうか、王子さま逃げて下さい!」

 人々が若様の馬の手綱を引いて、若様が乗っている馬がいなないた。

「動くな!」

 藍色部隊の隊長が怒鳴ると同時に矢が放たれた。

「!あぁ!」

 人々の短いが緊迫した悲鳴が上がった。だが、矢は狙いがはずれて全然別の方向に飛んでいく。人々が安堵(あんど)の息を漏らした。

「言っただろう!邪魔をしようとするなら、セルゲス公を射殺すと!」

 藍色部隊の隊長はすぐさま、新たな矢をつがえる。あまりの早業に人々は、若様が射られると思って、恐怖の悲鳴を上げた。

「大変だ、王子様が!」

「みんな動くな!」

「セルゲス公が死んだら、オレ達のせいだぞ…!」

「みんな、落ち着いてくれ。私は無事だ。焦って動くとけが人が出てしまう。」

 若様の声に人々ははっとした。そして、涙を浮かべて泣き出す人もいた。一番、命の危険があるのに、人々の安全を考えて心配をかけまいとしているのだから…。

「なんて、優しい人なんだ…。」

「ご自分の方が危ないのに。」

「みんな、ありがとう。」

 若様は人々に礼を言って、馬主を巡らした。

「やめて、あきらめないで、王子様!」

「そうだ、なんで、いい人なのに…!」

「あきらめちゃだめよ!」

「生きたいんでしょ!どうか、引き返して下さい!」

 男性よりも女性の方がより声を張り上げた。

「その子はどうするの!」

「一緒に死んでしまうの!」

 人々の反応に、藍色部隊の隊長に緊張が走ったのが分かった。

「静かにしろ!」

 それに気がついた男の人が叫んだ。人々は一斉に藍色部隊の隊長を(うかが)う。

 彼はひどい顔色のまま、弓を引き絞っていた。いつ放ってもいいようにしている。だが、その腕が小刻みに震えている。腕が疲れたのかとセリナは思った。だが、違った。よく見れば全身を震わせている。そして、「ぐっ。」という苦悶(くもん)の声を上げながら、腕を降ろしたのだ。

「……く、うぅぅ。」

 彼は馬上でうつむいた。

「…できない。」

 彼が放った一言にセリナも含めて、人々は耳を疑って凝視した。

「できない!ああ、私は!どうしたら!」

 彼は馬上で男泣きをしていた。肩を震わせて泣いているのだ。そんな藍色部隊の隊長に若様は、馬を進めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ