表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

148/248

ヒーズの街で 1

 ヒーズまで来て、思いがけない事態が発生した。通称藍色部隊が歩いているのを発見したのである。発見したのはセリナだった。

「若様、あれ…!」

 何事もなければ、セリナはヒーズの街を楽しむことができたが、藍色部隊を発見してしまった。なんて時に来ているのだろう。彼らがいなければ、若様と街歩きを楽しむことができたのに…!心の中でセリナは彼らに文句を言った。

 旅人なら誰でも使える厩舎(きゅうしゃ)があり、そこに若様とシャルブが馬を休ませている時、(ひま)になったセリナが周りを眺めて気がついた。

 若様とフォーリを窮地(きゅうち)(おとしい)れた存在だ。あの男の顔は決して忘れない。シャルブはちょうど厩舎の管理人と話をしていて、背中を向けていた。セリナの声に若様とシャルブが振り返り、彼女が指さす方向を確認した。

 セリナは急いで上着を脱ぐと、若様の頭に被せた。美しい髪の色で誰だか、すぐに分かってしまう。王家の至高の色は目印でもあった。

「あの、わたし、帽子でも買ってきます。」

「待ってくれ、セリナは彼らを知ってる?」

 セリナは(うなず)いた。

「わたしが…村に案内してしまったので。その時の隊長らしき人に間違いないと思います。あの時と比べて(ひげ)が生えていますが、そうだと思います。」

「つまり、セリナは彼らに顔を知られてる。」

「では、私が行きましょう。」

「いや、それより、逃げる算段を考えるべきだ。もう、見つかっていると思う。彼らはそういう特別な訓練を受けているのだから。」

 若様は言いながら、馬の手綱を解いた。

「確かにそのようです。若様、私が時間を稼ぎますから、その間にセリナとお逃げ下さい。」

 シャルブの言葉に若様は頷いた。

「気をつけてくれ。では、落ち合う場所は、次の二だな。」

「はい。若様もお気をつけて。」

 シャルブは言うなり、次々と馬の手綱や縄を解いて回った。ほかの旅人達の馬達だ。動かない馬達を誘導しながら、藍色部隊がいると分かっている場所に尻を叩いて走らせる。馬達が勝手に走り出したので、持ち主達は慌てて追いかけ始めた。「誰だ、こんなことをする奴は!」そんな怒鳴り声もする中、セリナは若様に腕を(つか)まれて一緒に乗馬した。若様がセリナを引っ張り上げてくれた。

 石畳の町中を走る。人が大勢いるので、少し早めの歩みだ。人々が振り返った。若様は雰囲気だけでもほかの人と違う。その上、セリナもそれなりに美人だという自負が少しはある。二人は注目された。

(これは、まずい…!だって、これじゃあ、どこにいますって宣伝して歩いているようなものじゃないの…!)

 それは若様も同じ事を思ったようだった。

「これじゃ、だめだな。」

 若様は頭に被っているセリナの上着のせいだと思ったらしく、セリナが止める前に上着を取ってセリナに返した。確かにどっちみち、注目されてはいたが…さらに注目された。美しい王家の至高の色の髪だ。その上、整った容姿のどこかの良家の子息。人々は一瞬(いっしゅん)、言葉を失ったように立ち止まり、若様を見つめる。

「…お、王子様じゃ!」

 どこかの老人が叫んだ。老人の叫び声に人々は、はっとする。そして、次の瞬間、どよめいた。

「た、確かにそうだ!夕日のような髪の色は、王家の象徴の証だ!」

「そうだ、確かに間違いない…!」

「ということは、セルゲス公だ!」

「おお…!(うわさ)に違わぬ美しいお方だ!」

「かつての王妃様と生き写しだというぞ!」

「…まあ、なんて美しくて、しっとりした方なの…!」

 あたりはたちまちのうちに大騒ぎとなり、群衆に囲まれてしまった。前にも後ろにも進めない。セリナは青ざめながら、こっそり若様の顔を見上げた。若様も多少、青ざめている。

「セルゲス公、どうして、このヒーズの街にいらっしゃるのですか?」

「時々、セルゲス公を見かけたという噂があって、嘘だと思っていました。どうして、ここに来られるのですか?」

「やっぱり、見間違いじゃなかったんだ!」

「俺も見たことがあるぞ…!」

「どうして、来られたんですか?」

 人々の質問に若様は覚悟を決めたように、息を吸って吐いた。セリナの首筋に若様の息がかかる。思わずドキドキしてしまうが、今は胸が高鳴ってうっとりしている場合ではなかった。

「みんな、聞いてくれ…!確かに私は、あなた達の言うとおり、グイニス・セルゲス・ジャノ・サリカタだ…!」

 セリナはぎょっとして、ますます青ざめ、息が止まりかけた。

(若様、何、素直に名乗ってんのよ!!馬鹿じゃない!?どうするの!)

 セリナの存在は人々からは無視されており、セリナは存在しないかのように身を縮こまらせた。

 人々は一瞬の空白の後、どよめいて顔を見合わせた。

「無礼じゃ、ご挨拶をせぬか…!礼儀をたださぬか!」

 先ほど王子様じゃ、と叫んだらしい老人がまた、よく通る声で叫んだ。その瞬間、人々がざあっと波が引くように膝を折って礼を尽くした。セリナは息を止めて、その様子を見守った。思わず全身が粟だった。これが…若様が生まれながらにして持っている権威の力、なんだと実感する。

「みんな、ありがとう。気持ちは受け取ったから、面を上げて楽にして欲しい。」

「かたじけのうございます…!」

 その老人は王宮勤めでもしていたのか、礼を言って立ち上がる。どうしたらいいのか、顔を見合わせていた人達も、老人に習って立ち上がった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ