表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

144/248

嵐の夜の事件 1

 どうやら、こういうことらしい。


 昨日、夕方になった頃、十人の騎馬に乗った重装備の一団がやってきた。重装騎馬兵である。あまりに堂々とやってきた。国王軍の紋は入っていなかったが、国王軍が秘密裏に移動する際に使用する制服だった。つまり、国王軍の軍隊を動かせる地位にいる誰か、が動かした。

 事前になんの連絡もなく、親衛隊隊長のヴァドサ・シークは疑った。国王の命に従い、行動するはずの国王軍だが仕える側も人間だ。あまりに繰り返し非情な判断が若様になされてきたため、共にいた者達はみんな若様に同情している。王ではなく王太子の判断はどうなのか、今は権限が委譲しているので、みんなそれを気にしている。

「…何の連絡も事前に受けていない。どういう要件だ?」

「秘密裏に実行されるものだ。我々は見ての通り、特別部隊である。我々の任務を明かすことはできない。」

「ならば、残念だがお前達を中に入れることはできない。王太子殿下より、くれぐれもセルゲス公をお守りするよう、厳命されている。たとえ、同じ国王軍であっても、その目的が不明確な者を中に入れることはできない。」

 両者の間にしばし、火花が散った。お互いに任務であって譲れない。

「ならば、致し方あるまい。」

 相手は言って、仲間達を振り返った。

「よいか、相手は同じ国王軍だからと言って、遠慮するな!親衛隊だということで、臆してもならん!セルゲス公のお血筋とご容姿に目がくらみ、我が物とせんとする者どもからセルゲス公を取り返し、お守りするのだ!」

「何を言っている…!」

 思わずありもしない罪に怒鳴ったシークだったが、彼らを送った主は王妃だと判断した。王妃には最近、八大貴族の一つ、ラコッピ家の当主の弟の一人が近づいている。その弟の上の兄が軍人で、そのつてを使えば動かせるだろう。

「一体、何事だ?」

 その騒ぎを聞きつけ、フォーリが出てきた。

「見よ、あやつはニピ族だ!あやつがこの事態のそもそもの元凶だ…!あやつはニピ族でありながら、(あるじ)を守るという務めを忘れ、セルゲス公にあらぬ思いを抱き、その尊いお体を我が物としたということだ!その悪行、許すまじ!それを見過ごした者共も同罪だ、一切の温情を許すな!」

 さすがのフォーリも、ありもしない罪を信じて真面目に(げき)を飛ばしている男を呆然として眺めた。

「一体、何の話をしている?」

 若様の容姿があまりに整っているため、そういう(うわさ)が流れることは知っている。だが、それをまともに受け止めている者達が来て、攻撃をしようとしているのだ。

「誤解ならば解きたいが、そうもいくまい。私達が悪行をなしたと本気で信じている愚か者共だ。」

「まさか、噂を信じてる者がいるとは。」

「全くだ。もし、その噂が本当ならば、王太子殿下が私達に護衛を任せるだろうか。そのようなことも考えつかないとは、憐れな者だな。」

 二人はわざと大声でそれらの話をした。兵士達にわずかでも迷いを与えるためだ。

「者ども、あのような戯れ言(ざれごと)に耳を貸すな!王太子殿下も(だま)されておられるのだ…!」

 この部隊の隊長は何が何でも、噂は本当だと主張したいらしい。

「だめだな、一体、いくら握らされた?それとも、本気で洗脳されているのか?」

 シークの大きな独り言に男が振り返った。

「我々が金に目がくらんでいるとでも言うのか!愚弄(ぐろう)するな!我らを馬鹿にしたことを後悔させてやる!」

 ヴァドサ隊長がため息をつき、これはいよいよ説得は不可能だとフォーリが判断した時、当の若様がシャルブと共にやってきてしまった。

「フォーリ、どうした?彼らは一体、何をしにきた?」

 一瞬、彼らは黙った。若様の美しさに言葉を失ったのだ。

「…あれが、セルゲス公か。」

 ひそひそと兵士達が言い交わす。他の軍隊とは少し違うさざめきに、ヴァドサ隊長は首をかしげた。

「セルゲス公、初めてお目にかかります。我らはセルゲス公をお助けに参りました。その者どもがセルゲス公にあらぬ思いを抱き、(よこしま)な思いでセルゲス公に不埒な真似をしていると聞きました。今、お助けするので、どうか、その者どもから離れて、しばしお待ちくださいますよう、お願い申し上げます!」

 若様は(おどろ)いて言葉を失った。だが、彼らはそれを感動で胸が詰まって言葉も出せぬ、と勘違いしたらしい。

「今、お助け致しますので、しばし、お待ちくだされ!」

 どこか興奮気味に向こうの隊長が大声で怒鳴る。若様はそちらの方に少し危険を感じて、一歩下がった。

「何か、勘違いしているようだが、私はこの者達に何もされていない。それよりも、常に危険に立ち向かい、共に戦ってくれる同士だ。一体、何を吹き込まれたのか知らないが、戦うのはやめてくれないか?叔母上か誰かに言われて遣わされてきたのだろうが、国王軍の兵同士が戦い合って血を流すのは心が痛む。」

 若様は説得を試みた。

「なんと、優しいお方だ。あの頃と何もお変わりがない。」

 若様は首を(かし)げたが、なんとか戦いを避けようとした。

「とにかく、情報が間違っていたことにして、戦いを避けられないだろうか。(きび)しいなら……。」

「若様。この者達を説得するのは無理です。参りましょう。」

 フォーリが(むずか)しい顔をして、若様を引き止めた。親衛隊隊長のシークも同調して頷いた。若様をシャルブと共に屋敷に入れる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ