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二人のこれから 1

 これからどうするのか、セリナは若様に尋ねた。

「そうだね、行方をくらましながら、行ったり来たりする。ここにも時々は滞在するつもりだ。屋敷も使わないと傷むし。」

「…でも、向こうだってここに来ることは織り込み済みなのでは?」

 セリナのもっともな指摘に若様は頷いた。

「そうだな。でも、なぜか手が回っていない。」

 ふふふ、と笑った若様だったが、次の瞬間、笑いを納めて鋭さのある真面目な表情に変貌(へんぼう)する。その落差にセリナは胸を刺されるようにドキッとして、心をつかまれた。今までの若様ではあまり見なかった表情だ。でも、その表情がかえって大人っぽくて、今までとは違う心情の変化があったのだろうと思わせた。

従兄(あに)上のおかげだ。従兄上は知らせによると、叔父上から王位以外の全てを譲り受けたそうだから。私のために追っ手を差し向けないようにして下さっている。」

 セリナはこの王太子のことが、全然分からなかった。なぜ、従弟のためにここまでできるのか、分からない。傍目(はため)から見れば従弟を利用して、自分をよく見せるための点数稼ぎをしているように、見えなくもない。そう受け取る人もいるだろう。

「若様は、それでいいんですか?」

「どういう意味?」

 セリナの質問に若様が珍しく鋭く反応した。

「その、だって、王太子様が王位に()かれるでしょう、このままいけば。若様はどうしたいんだろうって。」

「セリナはどう思う?」

「…どうって。」

 逆に聞き返されてセリナは戸惑った。

「わたしには分かりません。」

「君は私に王になって欲しいの?」

 初めてそんな質問をされた。若様の雰囲気は冗談を言っているようなものではない。

「…え?」

「君は王妃になりたい?」

 立て続けの質問にセリナは混乱した。だが、何か今、若様に試されている気がしてならない。ここで返答を間違えれば、若様はセリナを置いて行ってしまう気がした。

「わたし、そんなことは言ってません。わたし、王妃になれるなんて思ってないし、そんなこと考えたこともありません。わたしはただ、若様がどうしたいのかなって思っただけで。わたしは若様がしたいようにすればいいって思います。」

 思わず勢い込んで答えると、若様が笑い出した。

「ごめん、今、君を試したよ。」

 やっぱり、と内心で強く思う。

「君はやはり、普通の人と違うね。良かった。君まで権力を追い求めるような答えを出すのかと、少し心配した。」

「…もし、わたしがそういう答えを出したら、どうするつもりだったんですか?」

「残念だけど、君とは別れるつもりだった。ここには二度と来ないと決心してね。」

 セリナは物凄(ものすご)安堵(あんど)した。

「なんで、君は王妃になろうとは思わないの?もし、私が王位に就こうと思えば、いつでもできる。」

 若様は驚愕(きょうがく)する発言をした。

「ただ、それをすれば血が流れるし、裏に手を回していても、ある程度はそれを覚悟しないといけない。今ほど絶好の機会はない。王位を求めるならね。だから、君が王妃になろうと思えば、狙える所に君はいる。なぜ、その座につこうと思わないの?その座を狙って、私に近づこうとする女性が多くいるのに。」

 一難去ってまた一難。若様はこの機会に、セリナの本心をみんな探るつもりらしい。

「わたしはただ、若様といると嬉しいから、好きで一緒にいたいから、だから、側にいたいって思うだけです。若様が苦しんでいたら、一緒に苦しんであげたいし、泣いていたら慰めてあげたいし、喜んでいたら共に喜びたい、ただそれだけで、若様と結婚するとかそんなことは考えたことはありません。

 村の人達は結婚しなさいっていうけど、若様のことが好きなのに、ほかの男の人とは一緒になれないし、それにそれってなんか失礼だと思うし、それに、一番は心が拒絶してしまうからできなくて。」

 若様がセリナの手を握ってきた。そして、そのままその手を自分の唇に押し当てる。思わずときめいてしまう。真面目な話をしているのに。そんなことをされてしまったら、そっちに気を取られてしまう。

「ありがとう。私を好きになってくれて。村での事情もあるだろうに、それで独身でいるんだね、君は。」

 村でのセリナの立場も(おもんぱか)ってくれる若様の優しさに、セリナは感動で胸が詰まった。

「…若様。だ、大丈夫です、母さんがああいう母さんだから、なんでもないです。」

 セリナは幸せでどうにかなってしまいそうだった。

「ずっと、ここにはいられないけど、時々やってくるつもりだ。あちこち拠点を作り、そこを巡ってなんとか、従兄(あに)上が王位に就くまで時間稼ぎをしようと思う。従兄上の力の基盤が強まったら、またセルゲス公に戻れると思う。それまで、なんとか逃げ回るつもりだ。」

 若様は王位に就くつもりがない。従兄に全てを任せるつもりだ。確かにとセリナは思う。王太子殿下はかなりの切れ者のようだ。そういう人が王になった方が、きっといいだろう。だって、若様は優しすぎるから。

「私はこういう立場だから、すぐには結婚できない。でも、待っていてくれる?」

 これって。これは、結婚の申し込み!?

「…わ、若様、でも、わたしなんかが。」

 セリナは自分で自分を殴りたかった。すぐにはいって言えばいいものを!なんで、拒否しようとしてんの!?

「私の立場は不安定だ。だから、セルゲス公の位があっても、大変だと思う。貴婦人として何かしてくれと言ったりしない。公の場に出て婦人外交をしてくれなんて言わない。ただ、側にいてくれるだけでいい。それだけで私には身に余るほどの幸福だ。側にいてくれる?」

 セリナは唾を飲み込んだ。心臓が口から飛び出しそうなほど、激しく動悸(どうき)を打っている。

「…はい。それでいいのなら。」

「良かった…。」

 物凄く安堵したため息を吐きながら、若様はセリナを抱きしめた。三年の間に若様は背が伸びていて、おそらく今も伸びているのだろうから、セリナとの差は大きくなっていた。ちょうど、胸に頭があたる。若様の心音が聞こえる。若様もセリナみたいに心臓が早鐘を打っている。

 セリナは幸せで大きくため息をついた。本当に本当のことなんだ。若様は生きてる。こうして、目の前にいて確かに触れる。

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