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ベリー医師の賭け 2

「説明の続きを。」

 ジリナは話を促した。

「我々は長年、こうやって人を助けてきました。毒使いと言われるカートン家ですが、医術で人を助けたいのであって、殺したいわけではない。仕方なく、こういう(すべ)を編み出したのです。

 毒薬と共に解毒薬、さらに仮死状態にさせるための毒薬を飲ませてあります。なんとか、仮死状態になっていますが、放っておけば確実に死ぬ。私が側について看病できません。若様に付いていき、お助けします。こんなに不条理な死に方はありません。それに、我々カートン家はニピ族と契約しているので、破るわけにはいきませんのでね。」

 ベリー医師は、飲ませる薬の指示とどういう処置をするか細かく伝えると、夜が明けてから、村のカートン家の医師に治療して(もら)うように伝え、その医師に渡す手紙も預けた。

「若様は?」

「若様はティールまで行き、そこで毒を賜ることになっています。」

「そうじゃなくて、フォーリ殿がこうなっては……。」

「フォーリの体を抱いて痛哭(つうこく)され、その後、体調を崩されました。では、よろしくお願いします。」

 ベリー医師はロナの案内で、兵士にセリナを寝室に運ばせた。さらに湯を沸かし、水などを用意し、布や桶を用意する。色々とジリナとロナは急いで用意した。

「準備はいいですか?」

 ベリー医師が確認し、二人は不安の中で(うなず)いた。

「時間もないです。構いません。」

 ベリー医師はフォーリをくるんでいた布を外した。下着だけにされており、下着をめくって(はり)を数カ所に打っている。

「これで、じきに目覚めるはずだが…。」

 しばらくしても目覚めないので、ベリー医師はもう一度、同じ手順を踏む。さらに、危険を承知でもう一カ所に鍼を打った。

 すると、フォーリが目覚めた。激しく咳き込みその後、(うめ)いた。激しい痛みがあるのか、苦悶(くもん)しているので、ベリー医師はフォーリに用意していた棒きれを(くわ)えさせた。

「フォーリ、よく聞け。若様は私が必ずお助けする。いいな。私が必ず若様をお助けする。だから、まずお前は体を治せ。連絡はカートン家を通じて行え。」

 まだ、混乱している様子のフォーリだったが、若様の事を言われて、思い出したようだった。無理して動き出そうとし、繰り返しベリー医師は同じ事を言い聞かせた。ようやく理解したフォーリに、棒きれを取って最初の薬を飲ませる。

「……べ、ベリーせんせい、若様を……。」

「分かっている。約束は守る。守れなかったらお前に殺されても構わない。」

 ベリー医師は力強く言ってフォーリの手を握ると、大急ぎで親衛隊の兵士達と去って行った。

 ここからが正念場だ。ジリナは、苦しそうに荒い息を繰り返しているフォーリに近寄った。

「フォーリさん、わたしが分かるかい?」

 フォーリはぼんやりと視線を動かし、ジリナを見つけた。(うなず)いたので、小声だがはっきり伝える。

「苦しいけど、頑張っておくれよ。吐いて飲んでを繰り返す。その後は便所に座り込まなきゃいけないんだって。お腹がピーピーになるそうだから。」

 フォーリは頷いた。

「知っている。…迷惑をかける。」

 (かす)れた声で言うと、震える体で半身を起こそうとした。急いで支え、ロナに(おけ)を用意させた。

 怒濤(どとう)の一晩だった。途中で気がついたセリナは起きてきて混乱していたが、ジリナに怒鳴られて、とりあえず一緒に手伝って戦力となった。

 さらに間の悪いセプテンが帰ってきた。久しぶりに家でゆっくり寝ようと思って帰ってきたのだろうが、セプテンの部屋は彼がよく知らない瀕死(ひんし)の男が陣取っている。

 セプテンもジリナに怒鳴られ、体に全く力が入らないフォーリを支える役目を言い渡される。やがて、ロナがカートン家に使いに行った。

 ベリー医師の腕は確かなものらしい。村の医師はベリー医師の手紙を読み、青ざめ驚愕(きょうがく)した。

「なんという無茶なことを本気でやるとは。しかし、成功させるとはまた、(すご)い。患者に体力があることを知っていなければ、できない強硬手段だ。」

 実はジリナ達は、この村の医師の名前を知らなかった。村ではお医者さんの先生は一人しかいないので、“先生”で通じてしまうからである。手紙にギール・ライド先生へと書いてあり、ようやく医師の名前を知ったのだった。

 ギール医師は今は便所に()もっているフォーリを診察した。セプテンは一緒に便所で支え続けなければならない。

「おお、セプテン、頑張っておるな。後で、便利道具を持ってくるよ。それまで、ちっと待っておれ。」

 それはポットン便所につける便座だった。早い話、穴が空いた椅子である。確かにそれでかなり楽になり、セプテンも一息ついた。

「す…まない、な。」

 と息も絶え絶えにゼーハーしながら、苦しそうに青ざめた顔色で言われるので、セプテンも文句は言えなかった。

 介護や看護はこういう大変な大仕事なのだ。何より本人が一番、恥ずかしいし苦しい。

 こうして、フォーリはなんとか峠を越えた。


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