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黒服の客人達 4

 ベリー医師はごそごそと懐の中を探り始めた。

「ああ、あった。」

 しわしわになった小さな紙片を取り出した。

「陛下が意識を失われてから、一ヶ月が過ぎた。このまま、お隠れになる可能性大。」

 そういって、小さな紙片を一同に差し出す。

「これが嘘か誠かは、王宮に行って確かめればすぐに分かることです。陛下のご病状は全て記録してありますから。」

「ならば、その勅旨は一体…。」

 体調のシークが戸惑った声を上げる。兵士達も一様に動揺が走る。それは藍色部隊の隊長以外の者達も同様だった。彼らはより王の身辺に近く、その上、特別な任務を行うため、国王以外の命令は受けないことになっている。だが、緊急事態には王妃や王太子が命を発することができる。たとえば、王が急死した場合などだ。

 藍色部隊にはそういう命の下し方はできるが、問題は勅旨だった。勅旨を出す時は、王に仕える勅旨専門の書記官を呼ばなくてはならない。三人を呼び、二人が命を書いて一人がその様子を記録にする。藍色部隊に出す命よりも、偽造する場合は(むずか)しい。

「……偽造ではない。」

 藍色部隊の隊長が、とうとう言った。隊長以外は王に直接、顔を合わせることはまずない。

「カートン家の記録も間違いではない。ただ、少しも意識がお戻りにならなかったわけではない。」

 誰もが息を呑んで、藍色部隊の隊長の言葉を待った。

「私は直接お会いして、命を受けたのだ。確かに陛下は一時、意識を取り戻されていた。だが、医師を呼ばなかった。妃殿下も王太子殿下も呼ばれなかった。呼ぶなと命じられ、書記官をお呼びになり、勅旨を作られた。そして、また、意識を失われた。

 確かにベリー先生の言われるとおり、この場合の勅旨をそのまま、実行してもよいのか考えるところはあるだろう。だが、陛下は私にこれを実行するよう、念を押された。だから、私は命を遂行しに参ったのだ。私にはそれしかできぬ。後で議会にかけられて、疑わしき命を実行したと疑念を抱かれても、これが事実だ。王太子殿下に責められても、それしか言えぬ。」

 しばらく、誰も何も言わなかった。言えなかったのだ。誰もが衝撃(しょうげき)を受けていた。グイニスの命を、終わらされるということに衝撃を受けていた。

「分かった。」

 その静寂(せいじゃく)をグイニスが破った。いつもは泣き虫なのに、不思議と今は涙が出てこなかった。

「いきさつが分かったからと言って、現状は変わらない。叔父上のご命令であることがはっきりした以上、私はそのご命令にお従いするだけだ。確かに従兄(あに)上は悲しまれるだろう。時々、具合も悪そうだから、それだけが心配だ。以前、従兄上は私を心配するあまり、気を失われたことがある。私が言うまでもないと分かっているが、カートン家には従兄上の健康を守って欲しい。」

 ベリー医師にグイニスは頼むとフォーリに向き直った。

「フォーリ、すまない。何度も覚悟をさせてしまって。」

「若様。そのことについては何でもありません。ただ、若様に最後までお仕えできないことだけが、残念で気がかりです。若様にお仕えできたことは、私の誇りです。」

 二人の意思が変わらないため、藍色部隊の隊長は内心ほっとする。それよりも、長らく護衛してきた親衛隊がどう動くかの方が気になった。セルゲス公に剣を突きつけた途端、全員から一気に殺気が吹き出てきた。

 この隊には隊長を始め、有名剣術流派の子息が三人もいる。その上、リタ族も隊員にいるのだ。隊長がかかれと命じたら、全員がいきなり敵に回る。はっきり言って、セルゲス公が賢く穏やかな人で助かった。セルゲス公がもし、「助けてくれ。」などと言おうものなら、ここは修羅場と化しただろう。

「それでは、その前に毒薬の検分をしなくてはなりません。」

 ベリー医師は仕方なく、手順を進める。藍色部隊の隊長が(うなず)いて、丸薬の毒薬の入った(びん)を部下がベリー医師に差し出した。

「どうぞ。」

 ベリー医師は瓶の(ふた)を開けて、瓶を(かたむ)けた。ザラザラと粒状の物が中で動いているのが分かるが、すぐに転がり落ちてこなかった。実はこの毒薬は人によって与える数が違う。体の大きさ体重によって変わるため、必ず医師の診断が必要だった。ちなみにこの毒薬を開発したのはカートン家である。

「出て来ないな。どういう管理をしていたんだ?湿気たのでは。」

 ベリー医師が瓶を振り回した瞬間(しゅんかん)、手が(すべ)って瓶が滑り落ち、丸薬が床に散らばった。

 この緊張する場面で何をやっているんだ、という無言の非難が特に藍色部隊の隊長や隊員から発せられる。

「いやあ、すまない。しかし、管理の仕方が悪いせいだ。湿気て出て来なかった。」

 ベリー医師は丸薬を拾い集め、瓶に戻し始めた。

「!おい…!」

 思わず藍色部隊の隊長が声を荒げる。

「それは後でセルゲス公がお飲みになるんだぞ!王族の方々が口にされるものだ。」

「どうせ、殺すのにそんな所で気遣ってどうする?」

 物凄(ものすご)いトゲがある物言いだ。

「ああ、失礼、つい、本音が出てしまった。もとい。ついでに、セルゲス公の分は私が作り直すから問題ない。」

「作り直すだと?」

「薬の材料はある。それに、落とした物はお渡しできないと、今、あなたが言ったことなんだが。」

 ベリー医師に言い返され、藍色部隊の隊長は黙り込んだ。

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