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若様との再会 9

「分かっている、フォーリ。ただ、私もお前に依存するばかりではいけないと思うだけだ。何かあった時のために、自立できていなければ、万一、お前とはぐれたりしたら後で再会できなくなる。」

「若様、ですから、万一にもはぐれたりしないように、私が常にお側におりますから、できない時は交代の者にしっかり四六時中、側につかせますから、若様は心配なさらなくていいのです。」

 グイニスは苦笑いした。

「…もう、分かってないな、フォーリ。そういう意味じゃなくて、私だってもうちょっと武術も身につけないといけないし、一人で宿を取ったりしなくてはいけない状況が出てきたら、困るだろう。」

「そのような事態にはなりませんし、させません。モルサもいますし、若様がお一人で宿を取るなど、セルゲス公なのですからもってのほかです。」

「だから、そういう意味じゃなくて、実際にそうなるとかいうことじゃ……。」

 さらに言いかけて、グイニスはため息をついて笑った。

「…これじゃ、セリナにまた痴話げんかだって言われてしまう。言われたってしょうがないな、これでは。」

「……。」

 はっとしたフォーリがようやく黙る。

「セリナには負けるよ、まさか、真面目くさってそんなことを言われるとは思わなかった。」

 グイニスは笑ってから、息を吐いた。

「フォーリ、お前は反対だろう、私がセリナと一緒にいることに。私だって分かっている。そんなことをすれば、彼女の命が危なくなることくらい。セリナを危ない目に合わせたくない。」

「…若様。」

 答えあぐねているフォーリにグイニスはにっこりした。

「戻ろうか。モルサがやきもきしているかな。」

 二人は山道を歩いて行った。

 二人が完全に行ってしまってから、村に下りていく山道の脇からセリナが様子を(うかが)いながら出てきた。

 実は彼女は山を下りていった訳ではなかった。途中までは実際に駆け下りていたが、途中で(つまづ)き道の少し下の斜面に下りただけだった。しかし、飛び降りた所は、近くでもしゃがむと姿は上から見えず、その上、小石がちょうど人が駆け下りていくような調子で転がり落ちたので、フォーリにセリナが山を下りたと誤解させたのだった。

 さらに、養蜂の仕事をしているうちに、気配を消すことが上手くなり、野ウサギが気づかずに出てくるほどになっていた。静かに黙って座っていたため、話の全てが聞こえた。

 もし、途中でこの話を聞いたらまずいと少しでも動いていたら、たちまちのうちにフォーリに気づかれたが、徹底して座って気配を消し続けたので、気づかれなかった。

 セリナはため息をついた。まず、ほっとしたのはある。でも、それ以上に若様が置かれている状況は、決して良くなっているわけではない、むしろ、見方によっては悪くなっている事に心を痛めたからだった。

 それに、若様はまだセリナのことを好きでいてくれた。とても嬉しいのに、悲しかった。胸がきゅんとするのに、締め付けられるように痛い。

 セリナは蜂蜜の入った(つぼ)が入ったかごを背中にしょったまま、しゃがみこんだ。

(…ロナはなんで分かったんだろう。)

 セリナには分かっていた。自分がこれからどうするか。ジリナはお前が傷つくと言ったけれど、セリナはそれで構わなかった。

 だって、若様はすでに傷だらけだ。開き直ったフリをしている、フォーリには明らかな演技もごまかしも、セリナには見抜けなかった。そのことが悔しかった。だが、一方で若様はそれくらい巧みに本心を隠さないと、生きていけないのだということも分かった。

 だから、セリナが多少傷ついたって構わない。少しくらい痛みを分けて貰っても構わない。若様の痛みを自分にも分けて欲しかった。危ない目に合わせるとか言わないで、一緒にいようって言って欲しかった。死ぬときも一緒にいようって言って欲しい。フォーリには言うのに、自分には言ってくれない若様が少しだけ、恨めしかった。

 でも、それは家族を捨てることだ。セリナは構わなくても母や妹はどうなるのだろう。

(分かってる。わたしは好きになってはいけない人を好きになった。普通は途中であきらめたり、怖じ気づいたりするけれど、わたしは馬鹿だから、途中で捨てられない。だって、あんなに素敵な人をどうやったら、好きにならずにいられるの?)

 フォーリじゃないが、若様の容姿だけではない、その心根の優しさがとても柔らかくて温かいのだ。大変な美人は以前にも見たことがあった。大道芸の一団の女性に大層な美人がいたのだ。だが、彼女は化粧をしていたとは言え、どこか冷たい印象だった。若様は違う。整っているのに、目を合わせるのが恥ずかしいほど美しいのに、どこかふんわりおっとりしていて優しくて温かい。

 実際にとても優しいから、苦しんでいるのを見ているのは辛いし、側にいて支えてあげたいと思う。

 自分にはまだ出せない答えを出そうとして、セリナはしばらく座り込んでいた。

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