表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

116/248

若様との再会 3

「セリナ、あんた、まだ若様のことが好きなのかい?」

 突然、ジリナに聞かれてセリナは、答えに詰まった。

(かくさ)さなくても分かってるよ。だけど、あんたも気がついているとおり、三年前とは明らかに事情が違うよ。若様ではなく、たぶん、セルゲス公とお呼びしないといけないだろうね。」

「…なんか、若様が遠い所に行っちゃったみたい。」

「馬鹿だねぇ。最初から遠い所の方だよ。家令がいるし、侍従も侍女もかなりしっかりした数がいる。身分から言ったら、本当はもっといておかしくないけど、複雑な事情がある中でこれだけ人数がいるという事は、国王様もセルゲス公として働かせることになさったみたいだね。もしかしたら、若様もそう覚悟なさったのかもしれないね。言ってる意味、分かるかい?」

「……。なんとなく。わたしみたいな村娘は、わたしがどれだけ若様を好きで思っても、結婚なんか許されないってことでしょ。セルゲス公として、身分ある女性と結婚なさるはずだからって、言いたいんでしょ。」

「ああ、よく分かってたね。だったら、なんでそんな暗い顔をしてるんだい。あきらめないと、お前が傷つくんだよ。馬鹿な考えはおよしよ。」

 ジリナに釘を刺され、セリナは考え込んだ。ロナは出て行けという。でも、それはジリナほど事情を分かっていないからだ。

「大体、娘の首を絞めた護衛がいるところに、娘をやれるわけがないだろ。」

 ジリナの最後の一言にセリナはぎょっとしていた。

「媚薬で朦朧としてたんだから、大目に見てくれてもいいだろうに、でも、まあ仕方ないか。ニピ族だしって、やっぱりそうはいってもね。」

 ジリナの独り言にセリナは言葉を失っていた。

「……。」

 今まで一言も、あの事件をジリナに言ったことはない。あの時、初めてジリナに隠し事をした。怖い母に対して、生まれて初めての隠し事だったのだ。なんで知っているのか、聞く勇気もなかった。

「あんた、なんで知ってるのかって聞きたいんだろ。あのくそ真面目な護衛殿から、全部聞いたんだよ。とっさに殺しそうになったと謝られた。

 まったく、だから言っておいただろ。下手なことをしたら、殺されるって。慣れっこになって、大丈夫だと思ったんだろうけど、(あるじ)に何かしようとする者には容赦しないんだからね、ニピ族は。

 あんたが言わなかったのも、口が裂けても言いたくなかったんだろうから、あえて聞かなかった。だから、聞いたことも今まで言わなかった。でも、言っておかないとまた、出くわしてしまったときに、何か行き違いがあっても困るからね。」

 ジリナに言われても、しばらくセリナは何も言えなかった。

「…母さん、わたし…。」

「今さら、言い訳はいらないよ。」

「…違うの。わたし、自信がない。」

 ジリナが振り返った。

「わたしね、あの時まではただ好きだったの。でも、あの日以来、ダメになっちゃった。若様以外は受け入れられそうにないの。フォーリさんに殺されそうになったのに、それもあんまり好きじゃないけど、嫌いじゃないの。あの日のことを思い出すと、胸がきゅっと痛くなる。媚薬のせいだったけど、全然後悔してないし、わたしが一番最初だって思ったら、優越感(ゆうえつかん)に浸っちゃうの。わたし、(すご)く嫌な女だね。こんなに嫌な女だったなんて、自分でも思ったことなかったもの。」

 告白するように話していたら、涙が止まらなくなった。

「…まったく、馬鹿だね、この子は。」

 ジリナがセリナを抱きしめ、背中を()でてくれた。それが、とても安心できて、そういえば幼い頃はよくこうしてあやして貰っていたな、と思い出した。

「母さん、どうしよう。この間、ロナに言われたの。家族を置いて出て行くのかって。わたし、答えられなかった。だって、自信がないの。若様に会ったら、きっと、ここを出て行っちゃう。」

「分かってるさ。お前はわたしの娘なんだから。出てお行き。遠慮する必要はないよ。出て行きたくなったら出て行けばいい。それでいい。お前は拾ってきた子。だから、いつまでもここに(しば)られてなくていい。」

 母に言われると突き放されたような気がして、胸が痛かった。涙が余計に(あふ)れた。

 ジリナは分かっていた。セリナはこれと決めたら意地でも曲がらない。だって、血を分けた自分の娘で、よく似ているのだから。家族を捨てても後悔はしない。そして、その分、新たにできた家族のために人生をかけるのだろう。セリナは自分にそっくりな娘なのだから。恋路まで真似しなくていいのに、そんなところまでそっくりだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ