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セリナと若様 1

 王太子一行が帰っていって、次の日からまた、村は元の通りに静かになった。

 セリナの父のオルは山に行って、行方不明になった。

 実際問題、後でフォーリが確かめに行ったが、山小屋には跡形もなく痕跡(こんせき)が消えていた。血の跡までほとんど消されていたのだから、よほどの技で消していったと思われた。遺体がないので、行方不明として村でも扱われた。死んだことはジリナとフォーリ、若様、王太子とごく一部の周辺人物しか知らないことだった。後のみんなには隠されている。

 若様は順調に回復していた。気候が穏やかなためか、毒の後遺症はだんだん良くなっている。最近は何かと(おびや)かされることがなくなり、そういったことも若様の回復を早めているようだった。

 セリナはいつものように、洗濯をしたり、たまにフォーリに呼ばれて料理の手伝いにいったり、ジリナに呼ばれて若様とフォーリの衣服に火熨斗(ひのし)をかけたり、部屋の掃除をリカンナとしたりして、平和に過ごしていた。王太子一行が帰ったのは、まだ三日前くらいなのに、ずいぶんと昔のことのようだ。

 色々とあって、前みたいに無邪気に若様は可愛いとか、女の子同士でしゃべらなくなっていた。リカンナもその辺はよく理解してくれている。

「…おじさん、見つかるといいね。」

 二人で若様の部屋を掃除していると、リカンナが言った。

「…たぶん、見つからないと思う。」

 セリナの返答に、リカンナが雑巾がけをしている顔を上げた。

「どういうこと?」

「なんとなくよ。…それに、あんなに山を知っている父さんが見つからないってことは、相当、奥に入ってしまって、父さんでさえ、道に迷ったんだとしか考えられないもん。」

 セリナの答えにリカンナはため息をついた。

「…そうねえ。誰も、探しにいけないしね。」

 リカンナは心配してくれているが、セリナはオルは逃げたんだと思っていた。ジリナに殺されたのだとは夢にも思っていない。母の様子がどことなく変だったので、逃げたんだとセリナは思ったのだ。

 セリナは壁の燭台(しょくだい)蝋燭(ろうそく)を立てた。燭台の向こう側には鏡が置いてあり、光が反射して辺りを照らし出すようになっている。ついでに(すす)よけにもなっていた。

「王太子様が来られてから、若様の生活が格段に良くなって良かった。だって、前は蝋燭(ろうそく)さえ節約しなきゃいけない状態だったもの。」

 セリナがつくづく実感していることを言うと、リカンナも同調した。

「そうよね。忙しかったけど、王太子様が来られて良かったわ。狩りに出かける必要もなくなったし。新しい衣服を作るためのの布がたくさんあって、安心して背を伸ばして下さいって、若様にベリー先生が言ってるのを聞いちゃってさあ。それでも、もったいないからしばらくは、布を付け足して使うとかって言ってるんだもんね。」

「本当に王族かっていうくらい、節約に節約を重ねていらしゃるわよね。」

 二人は掃除を終え、ランプの油の量も確かめた。油も貴重だ。セリナは今後、村で使う蝋燭や油がもっと貴重になるから、どうしようと考えていた。オルが養蜂をしていたため、蜜蝋(みつろう)で蝋燭を作っていたし、狩りで動物の脂を灯火用に使っていたりした。動物の脂は燃やすと臭いが、それでも明かりがないよりましだ。

 セリナはお屋敷の務めが休みの時は、養蜂をしようと考えていた。兄弟姉妹の中で最もオルに懐いていたセリナは、しょっちゅう養蜂の仕事を見ていたし、蜜蝋を使った蝋燭作りも手伝っていた。兄達もできるが、自分達の巣箱を持っているため、オルの分まで手が回らないだろう。

 今は蜂達は冬で巣箱にこもっているが、もうじきしたら春になり、活動が活発になってくる。後で母のジリナに相談しようとセリナは決めた。できたら、リカンナも一緒に休みがいいな、と思う。蝋燭作りは冬の間が乾燥していて作りやすい。蜜蝋を乾かしやすいからだ。リカンナは蝋燭作りが上手で、二人でやったらはかどるだろう。

「ねえ、リカンナ。今度、お休みが一緒だったら蝋燭作りを手伝ってくれる?父さんが途中まで作ってあるけど、…行方不明じゃない。みんな困ると思うのよね。」

 作った蝋燭は村の人に売っていた。商人が売りに来たのを買うよりはるかに安いので、みんなに重宝がられていた。それがなくなれば、みんな困るだろう。

「ああ、そうね。おばさんに相談しよう。」

 リカンナも承諾してくれた。二人は部屋の中をもう一度見回し、確認してから部屋を出たのだった。


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