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恋の案内人  作者: 翁
過去からの解放
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佐藤美桜の過去 後編

 どうせいないと分かってはいたけど、もしかしたらと、僅かな期待を胸に抱いていた。

 その僅かな期待は、屋上に続く階段が近づくにつれ、徐々に膨らんでいく。


「・・・ふぅ」


 階段が見えた。一度深呼吸をして自分を落ち着かせる。

 いないかもしれないのに、こんなに緊張してバカみたいだなぁ。

 もちろん、いたら嬉しいんだけど。

 もしいたら先輩びっくりするかなぁ? 一応、静かに階段を上ろう。

 私はなるべく足音を立てないよう、階段を少しずつ上がっていった。


 まもなく踊り場が見えてくるというところで、誰かの話し声が聞こえる。私は咄嗟に息を潜めた。


「・・・だよ」


「・・・はい」


 1人はすぐに先輩の声だと分かった。もう1人の声は知らない声だ。

 小さな声で話しているのか、会話が聞き取りづらい。

 見てはいけない。なぜかそう思ったものの、その思考とは裏腹に階段を上がる足は止まってくれない。

 恐る恐る、気付かれないよう踊り場を覗いた。


「ここには誰も来ないから大丈夫だよ。君もこうなることを分かっててここに来たんだろう?」


「・・・はい。あの・・・、優しくしてください」


「分かった。ほら、顔を上げて」


 先輩は後輩と思われる子を壁際に立たせていた。

 そして──。



 先輩はその子にキスをした。



 ・・・ぁ。



 私の中で、パリンと何かが壊れる音がした。

 先輩が他の子とキスをしているのをただただ呆然と見る。


 えっと・・・。キスしてる・・・よね?

 ・・・先輩? 何してるの・・・?

 その子・・・誰?

 私以外にもそんなことしてたの・・・?

 私は・・・先輩の何なの・・・?


 先輩が他の子と楽しそうに会話をしてるのは見たことはある。

 でも、自分だけは特別だと、そう思っていた。私だけには特別なんだって。

 そう、思っていたのに・・・。

 なのに、どうして・・・?

 どうしてそんなことしてるの・・・?

 やだよ・・・。


 やだやだやだ。



 やだやだやだやだやだやだ。



やだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだ




「せん・・・ぱい・・・?」


 その場から黙って逃げ出せばいいのに、気付いた時には先輩を呼んでいた。

 先輩がゆっくりと振り向く。


「・・・美桜?」


「せんぱい・・・? その子、誰ですか・・・?」


 今にも流れてしまいそうな涙を必死にこらえる。

 先輩とキスをしていた子はまずいと思ったのか、その場から走り去っていった。


「・・・見られちゃったか」


「・・・・・・」


 先輩の様子を見る限り、そこまで悪いと思っていないように感じた。


「ごめんな美桜。今日はあの子の日だったんだ」


 あの子・・・の日・・・?


 あの子の日ってなんだろ?

 その言い方だと、他にも何人もいるような言い方じゃない。


 あ・・・。


 先輩が私とこの場で会っているのは、月曜日と金曜日の放課後。

 今日は水曜日だけど、火曜日と木曜日の部活もいつも遅れて来ていた。

 ・・・どうしてもっと早く気付かなかったんだろ。

 何かおかしいとは感じていたけど、真実を知るのが怖くて、逃げていただけなのかもしれない。


「・・・私だけじゃなかったんですね」


「・・・そうだな。でも、私達は別に付き合っているわけではないだろう?」


「・・・・・・」


 確かに付き合ってはいない。

 それでも、私の中での先輩は特別だったし、先輩も私を特別に思ってくれてると思っていた。

 でもそれは、私の思い込みだった。

 先輩にちゃんと自分の気持ちを伝えていれば、こんなことにならなかったの?

 そうすれば、先輩も私だけを見てくれた?


「・・・信じてたのに」


「そう言われてもな・・・」


 先輩が参ったなと言いながら笑う。


 何がおかしいの?

 どうして笑っているの?

 付き合ってないからどうでもいいってこと?


 私は・・・。私は・・・・・・。



「先輩? 私の気持ち気付いてましたよね? 確かに、私と先輩は付き合っていません。でも、どうみても私が先輩のこと好きだって分かりますよね? 私がちゃんと思いを伝えなかったのは悪かったと思ってますよ? だから・・・今ちゃんと伝えますね。私は先輩が好きです。大好きです。誰にも渡したくないです。私だけを見てほしい。私以外の子と仲良く話してるのを見るのつらいし、ベタベタ触ってるのとか見たらどうにかなっちゃいそうなんです。これって変ですか? 好きになったらこんな気持ちになるのって変なんですか? 教えてほしいです。教えて? 教えてよ先輩。というかあの子誰なんですか? なんであの子とキスしたんですか? 私とキスしたのはなんだったんですか? 私は遊びってことですか? 違うって言ってください・・・。・・・違いますよね? ・・・・・・先輩? ・・・ちがっ、ひくっ、ぢがいまずよね? 違うって言っでよぉ・・・わたじ、ごんなに先輩のごどが好きなのに・・・。何が・・・何がダメなんですかぁ・・・。 ちゃんと、ひくっ、直すから言ってください・・・私以外とあんなことしないでよ、やだやだやだやだやだやだ、私は先輩が好きなのに・・・好きなのにぃ!!!!!」



 決壊したダムのように、先輩への想いを全て吐き出した。

 私は泣くことしかできず、その場に立ちすくむ。

 しばらく沈黙が続く。次に口を開いたのは先輩だった。


「美桜。本当にごめんな?」


 先輩が私の頭に手を置き謝ってきた。

 私はくしゃくしゃになった顔を上げ、先輩の顔を見る。

 あぁ、いつもの優しい先輩の顔だ。

 私はやっぱり、この先輩のことがすごくすごく──。


「でもな、美桜」


「・・・はい」


「私はめんどくさい女が大嫌いなんだ」


「・・・・・・ぇ?」


 ・・・今、なんて言ったんだろ?

 私の聞き間違いかな・・・?


「・・・先輩? 今、なんて・・・?」


 私がそう言うと、先輩が私の耳元で囁いた。


「私はな、めんどくさい女が大嫌いなんだよ。美桜」


 先輩はそのまま振り向きもせず去っていった。


「・・・・・・」


 体から力が抜けていき、私はその場に座り込む。




 どれぐらい時間が経っただろうか。

 屋上のドアからは夕日が差し込んでいた。


 私が間違ってたんだ。

 いいように利用されて、使い物にならなくなったから捨てられた。ただそれだけのこと。


「・・・あはは」


 涙は枯れてしまったのか、もう瞳から流れてこなかった。





 その後、先輩と会うことはなくなった。

 たまに学校で見かけることはあったけど、12月頃に風の噂で転校したことを聞いた。

 その噂によると、色々な子に手を出していて、その中で無理矢理された子が学校側に訴えたらしい。

 そこから被害にあったという声がいくつも上がり、学校にいられなくなったという。

 噂だし、本当かどうかは分からないけど、きっと本当のことだと思う。

 私もその中の1人だったわけだし。自分の欲求を満たす為だけに利用されたんだ。

 今となっては、どうしてあんな人のことを好きになったのか、自分でも分からない。

 ただ、次に好きな人が出来た時、絶対にあの先輩みたいにならないと、そう心に誓った。

 ちゃんとその人のことだけを見て、自分のことだけではなく、相手の気持ちもしっかり考えよう。


 どうかこの先、私のこの最低な思い出を、忘れさせてくれる人が現れますように。

 私は切にそう願った。

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