佐藤美桜の過去 前編
これは私が1年生の頃の話。
私が入学してから1ヶ月半が経った。
「先輩! そろそろ部活行かないと、副部長に怒られますよ!」
「まあまあ、そう慌てるなよ。きっと大丈夫だから」
呑気なことを言っている先輩は、私の膝を枕にして寝ている。
月曜日と金曜日の放課後の部活前、屋上に続く階段の踊り場でいつもこうしている。
「私も怒られるんですからね!」
「美桜は私を1人にするのか?」
またそうやって・・・。先輩はずるい!
「べ、別にそうじゃないですけど・・・」
「じゃあ・・・あと10分だけ。おねがーい」
こういう時だけ猫をかぶったような声で・・・。
「本当に10分だけですからね!」
とか言って、10分で行った試しがない。
はぁ・・・。今日も怒られるのか・・・。言い訳を考えるのはいつも私なのに!
先輩は部長なのにいつもいつも部活に遅れて来る。
月曜日と金曜日は私と一緒にいるからだけど、火曜日と木曜日も遅れて来る。
そういえば、なんで火曜日と木曜日も遅れてくるんだろう? 今まで気にしたことがなかったけど。
どうしてこんな適当な人が部長をやってるんだろ。練習も不真面目だし・・・。
副部長に練習任せっきりだし、少し可哀想に思えてくる。
いつも怒られるから、あんまり好きじゃないけど。って怒られるのは先輩のせい!
でも、テニスの実力は部内で飛び抜けてるんだよね。それが理由で部長なのかな?
「さてと」
先輩が起き上がり、大きく背伸びをする。やっと行く気になったみたい。
「そろそろ行くか」
「そろそろじゃないですよ! 待ってたの私なんですからね!」
「そう怒るなよ。・・・とその前に」
先輩が私の頬に触れてきた。
私はビクッとなりながらも、それを素直に受け入れる。
「・・・あの」
「どうした? もう何回もしてるのに、まだ恥ずかしいのか?」
「・・・はい。先輩は慣れすぎです」
そうして、先輩にされるがままに唇を奪われる。
今日はいつもより激しく、息が続かなくなる。
「・・・ッ、はぁはぁ! 先輩激しすぎです!」
「美桜の唇が気持ちよくてついな? もう少ししていいか?」
「もうダメです! ほら、行きますよ!」
そのあと、遅れて部活に行った私と先輩は、こっぴどく副部長に叱られた。
最初は私の膝の上で寝るだけだったのにな。
いつからか、先輩とキスするのが当たり前になっていた。
そして、キスをする度、先輩のことで頭がいっぱいになっていく。
月曜日と金曜日はそのキスのせいで、全く練習に集中できない。
土日は部活が休みだけど、先輩のことをふと考えると、月曜日が待ち遠しくなってしまう。だから土日は嫌い。先輩に会えないから。
こんな風に思ってることを、先輩に知られないよう必死に誤魔化しているけど、多分バレてるんだろうな・・・。
「これが恋なのかな・・・」
小中と恋愛に興味がなかったけど、高校で部活に入り、先輩と出会ってから色々と変わったような気がする。良い意味でも悪い意味でも。
悪い意味の点では、先輩が他の女の子と仲良く話してる所を見ると、嫌な気持ちになるし切なくなる。いわゆる嫉妬だ。
本当は私だけを見てほしいけど、嫌われたくないからそんなこと言えない。
「先輩は私のことどう思ってるんだろ」
そんなことを考えながら、先輩への気持ちを伝えることができずにいた。
それから季節は秋へと変わり、先輩が引退する時期となった。
「先輩・・・。その・・・」
「どうした? 私に会える時間が少なくなるのが寂しいか?」
「・・・・・・はい」
部活前の幸せだったひと時。もう訪れることはないのかな・・・。
「月曜日と金曜日、いつもの場所で待ってるからな」
私の耳元でそう囁き、またなと言い残し去っていく。
いつもの場所で待ってる・・・。
・・・良かった! まだ先輩と一緒に過ごせるんだ!
部活に遅れて怒られるだろうけど、先輩と会えなくなるよりはマシだ。
その日の私は、上機嫌で家へと帰った。




