17.優しさに触れて
次の日、学校を終えた私は美桜ちゃんの家に来ていた。
「美桜ちゃん。部活本当にいいの?」
「また言ってるー! 大丈夫って言ったでしょう。余計な心配しないの!」
そうは言っても、美桜ちゃんは部長だし、良くないような気しかしない。私に付きっきりというのはどうなのだろうか。
「でもでもでもー」
「でもじゃないの! みんなもそばにいてあげてって言ってるんだから、これでいいの!」
ということらしい。美桜ちゃんは変に頑固だからな。
これ以上同じことを言ったところで、また今のやりとりになってしまうだろう。
「お風呂の時も体とか髪洗ってあげるね。あ・・・髪はいつも洗ってあげてるか」
「体も洗ってくれるのー? エッチなこと考えてるんじゃないー?」
「か、考えてないし! バカバカ!」
すーぐ顔が赤くなるんだから。本当は考えてたりして。
「あ」
そういえば、くぼちゃんに言われたこと、美桜ちゃんに相談してみようかな。
今の気持ちのままで応援行くのはちょっとつらいしな・・・。
「どうしたの?」
美桜ちゃんがコテっと首を傾げる。
「あー、県大会の応援についてなんだけど・・・」
「うん。どうすればいいかってこと?」
うんうん。話が早くて助かる。
「現地で花恋ちゃん達を応援したい気持ちはもちろんあるの。でも、行ったらつらくなりそうで・・・」
「そうだねぇ。私も桜ちゃんの立場だったら絶対つらいと思う」
「うん・・・」
私は短く返事をして俯く。
「つらいなら行かなくていいんじゃないかな? 現地じゃなくても応援はできるし。きっと花恋ちゃん達も分かってくれるよ」
「そう・・・かな・・・」
「そうだよ」
やっぱ無理してまで行くべきじゃないよね。多分、泣いてしまうだろうし。
「行かないのはいいん──」
県大会の日、一緒にいてほしいと言おうとしたところ、美桜ちゃんの言葉に遮られてしまう。
「あ、桜ちゃんが辛くて応援行けないなら、私はその日一緒にいるから安心してね」
「・・・」
くぼちゃんの言った通りだった。
美桜ちゃんなら言いそうな気はしていたけど。
「ありがとう美桜ちゃん」
私は嬉しくなり、美桜ちゃんに抱きつく。
「桜ちゃん苦しい・・・。もうちょっと力弱めて・・・」
嬉しい。嬉しい嬉しい嬉しい!
「・・・もう。また泣いてる。桜ちゃん泣き虫だね」
「だって・・・」
こんなに優しくされたら泣いてしまう。
「鼻水はつけないでね」
「つけないし! ・・・美桜ちゃんは優しいね」
「そうかな?」
特に私には優しくしてくれる。
仲がいいからだと思うけど、他の人と比べるとその違いがよく分かる。
「美桜ちゃんは、私にすごい優しくしてくれるよね」
「うん。・・・傷つけたくないから」
傷つけたくないから? 気持ちは分からなくもないが、ちょっと大げさな気がする。
「いつも優しいし、傷つくことなんてないと思うけど?」
「そう・・・なんだけどね」
そう言うと、美桜ちゃんは立ち上がり窓の外を眺める。
「どうしたの?」
「・・・ちょっと思い出しちゃって」
「何を?」
「私が1年生の頃のこと。あまり思い出さないようにしてたんだけどな」
窓の外を眺めたまま、美桜ちゃんは話を続ける。
「いい思い出じゃないからさ」
「そうなの?」
「うん・・・。話したら桜ちゃんに嫌われちゃうかもしれない」
私が美桜ちゃんを嫌いになる? ないない。
どんな過去があったか知らないけど、嫌いになんてなるはずない。
「嫌わないよ。嫌うわけない」
「・・・本当?」
振り向いた美桜ちゃんは、今にも泣きそうな顔をしていた。
「本当。でも思い出したくないなら、無理して話さなくてもいいよ」
「・・・・・・」
嫌な思い出を無理に話す必要はない。きっとつらい思い出だろうし。
「ううん。ちゃんと話す。桜ちゃんには話しておきたいの」
「大丈夫?」
「うん。・・・私ね、1年生の頃に好きな人がいたの。でもその人は──」
美桜ちゃんは自分の過去を話し始めた。




