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恋の案内人  作者: 翁
過去からの解放
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15.涙のち感謝

「骨折してますね。疲労骨折です」


「骨折・・・ですか・・・」


「過度の練習が主な原因と思われますが、直近で手首を捻ったりしませんでしたか?」


 手首・・・。・・・あの時だ。

 自転車を避けようとして転んだ時に、手首を捻ったような気がする。


「今日の練習前、転んだ時に捻ったかもしれません」


「そこでは折れなかったようですが、そのあとの練習で骨が耐えきれずって感じでしょうね」


 もしかしたら、少し前から感じていたボールを打つ時の違和感は、ガットのせいではなく、疲労骨折の前兆だったのかもしれない。


「あの・・・。どれぐらいで治りますか?」


「酷い骨折ではないので、安静にしていれば1ヶ月でギブスは取れるでしょう」


「来週大会があるんです! どうにかなりませんか!?」


 痛み止めを打つなり、薬飲むなりなんでもいい! このままじゃ試合に・・・。


「橋本さん。気持ちは分かります。もしあなたが3年生で最後の大会と言うなら、痛み止めなどを使用することを考えたかもしれません。でもまだ2年ある。今はゆっくり治すべきです。今酷使すれば、完治するのに時間がかかってしまいますし、完治しても骨折しやすくなってしまいます」


「でも・・! でも・・・。今じゃないと・・・ダメなんです・・・」


「これ以上悪化させることは、医者としては・・・」


 そんな・・・。



「ありがとうございました」


 私は診察室をあとにする。


「桜ちゃん!」


「・・・美桜ちゃん」


 美桜ちゃんの顔を見た瞬間、涙が溢れてきた。


「ごめ・・・んね。県大会・・・ダメ・・・みたい」


 私は人目をはばからず、声を出して泣いた。

 美桜ちゃんが何も言わずに私を抱きしめる。


「美桜ぢゃん、最後なの、に! 最後なのに・・・!」


「・・・よしよし。私は大丈夫だから」


 もっと早く違和感に気付いていれば・・・。美桜ちゃんに相談していれば・・・。


「ごめんなさい・・・。ごべ・・・うぅ・・・」


「謝らないで桜ちゃん。県大会はダメかもしれないけど、9月までに治るだろうし、引退試合でまたペア組もう?」


「でも・・・、でもぉ!!!」


 謝っても謝っても、申し訳ない気持ちでいっぱいになってしまう。

 私はしばらくの間、美桜ちゃんの胸の中で泣き続けた。



「落ち着いた?」


「・・・・・・うん」


「桜ちゃんの涙でびしょびしょだ」


 美桜ちゃんは笑いながら私の涙で濡れた練習着を見せてきた。


「・・・ごめんね」


「気にしなくて大丈夫だよ」


 美桜ちゃん・・・。県大会出れないの悔しくないのかな・・・。


「・・・美桜ちゃん」


「なぁに」


「県大会・・・出れないんだよ・・・?」


「私は桜ちゃんとペアを組めただけでも満足してるよ。それに怪我ならしょうがないよ」


 それは本心なのかな・・・?


「桜ちゃんと一緒に出ない試合なんて、私は興味ないもん」


「本当・・・? 怒ってない・・・?」


「怒るわけないでしょ。これで怒る人は心狭すぎだよ。だから、もう県大会出れないことを気にしないで? 悲しそうにしてる桜ちゃんを見てる方が私はつらいかな」


 その言葉で少し楽になれたような気がした。

 悲しそうにしてるとつらい・・・か。


「・・・美桜ちゃん、ありがとう」


「どういたしまして。学校戻ろっか」



 学校に戻ると、心配していた部員の皆が駆け寄ってきた。


「私は桜木先生に伝えてくるね」


 美桜ちゃんはすぐ戻るからと言って、この場から去っていく。


「さくらちゃん大丈夫?」


「うーん。県大会は無理みたい」


「そっか・・・」


 花恋ちゃんが自分のことのように落ち込む。


「さくらさん」


「ただいま咲蘭ちゃん」


「県大会、さくらさんの分まで頑張りますわ」


 咲蘭ちゃんの瞳が、真っ直ぐ私を見る。


「うん。私の分まで頼んだ。じゃあ、私は部室に行くから」


 皆の心配する目に耐えきれなくなった私は、逃げるように部室に向かう。

 当分、部活は参加できないなぁ・・・。しかも利き手だから生活に影響が出そうだ。

 部室に入ると、美桜ちゃんと桜木先生が話していた。


「橋本さん。大丈夫?」


「はい。心配かけてすいません。しばらく部活は参加出来なさそうです」


「そうね。今は早く完治させることね」


 桜木先生は私の頭をそっと撫で、お大事にと言って部室から出ていった。


「さてと、今日はもう帰ることにしたから一緒に帰ろっか。荷物は私が持つよ」


「・・・え? 練習は?」


「桜木先生にお願いして、私も桜ちゃんが良くなるまで、休むことにしたの」


 何もそこまでしなくていいのに・・・。気持ちは嬉しいけど・・・。


「でも・・・」


「何も言わなくていいよ。皆にはちゃんと私から説明するし、私がそうしたいの」


 こうなってしまったら、美桜ちゃんには何も言っても無駄だ。


「私は桜ちゃんのペアだもん」


「美桜ちゃん・・・」


「ほら、帰ろ? 家まで送るから」


「・・・うん」


 こう思うのはもう何度目だろうか。

 きっとこの先もずっと思い続けるだろう。

 美桜ちゃんがペアで良かったと。

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