14.先輩達の青春
私や花恋ちゃん達が出場する、個人戦の県大会まであと1週間。
昨日、団体の県予選が行われ、1回戦こそ勝利したものの、次の2回戦で敗退に終わった。
美桜ちゃん以外の3年生は最後の公式戦。
泣いてる先輩達を見ていると、私も泣きそうになったが、なんとなく我慢した。
それでも、先輩達は最後には笑顔になり、お互いの3年間の活動を称えあっていた。
その先輩達の姿はまさに青春そのものだった。
やっぱり、私達1年生は出なくて正解だったと思う。
仮に出ていたら、先輩達に心残りや、やりきれない気持ちがあったかもしれない。だからこれで良かったはずだ。
結果こそ残念だったが、私は最後まで諦めない先輩達の姿をしっかりと目に焼き付けた。
公式戦が終わってすぐに引退というわけではなく、9月に部内での引退試合があるため、先輩達は引き続き練習に参加することとなっている。
「まずは団体戦お疲れ様。部長以外の3年生は公式戦が終わってしまったけれど、部内での引退試合までは、後輩達に色々と教えてあげてもらえると嬉しいわ。3年間、よく頑張ったわね。本当にお疲れ様」
桜木先生が3年生を労う。
あと、3ヶ月ぐらいしか一緒に活動できないと思うと寂しいな。
「今日からは気持ちを切り替えていくわよ。個人戦に出るペアは、気を引き締めて練習に取り組むように」
「はい!!!」
「私からは以上よ。練習、始めましょうか」
練習が始まり、私は美桜ちゃんと乱打をしていた。
「桜ちゃーん! 強めに打っていいよー!」
「オッケー!」
私は美桜ちゃんからのボールを強く打ち込む。
・・・?
「今日もいい感じだね!」
美桜ちゃんからはそう言われるけど、何かいつもと違うような気がする。
もう一度、強めにボールを打ってみる。・・・やはり変だ。
確かにスイートスポットに当たっているし、音もいつもの音だ。
でもなんだろう? 打った時に力がいつもより入ってないというか、なんというか・・・。
私はガットの張りを確かめる。特に弛んでる感じはしない。
・・・気のせいかな?
もう一球強く打ってみるといつもの感覚を感じた。やっぱり気のせいか。
ちょっとだけ当たる位置がズレてただけかもな。しっかりボール見ながら打たないと。
そのあとの練習では、最初に感じた違和感は出なかった。
しかし、定休日の日に咲蘭ちゃんの家で練習していると、またもやあの違和感を感じた。
「うーん。なんだー?」
私は打つのを一旦止める。
「どうしたのさくらちゃん?」
「なんか月曜日から打つ時に変な感じするんだよね」
「どんな感じなの?」
「たまになるんだけど、強く打った時に力が入った感じがしないみたいな? ボールに体重が乗ってる感じしないんだよね」
どこか痛いってわけじゃないしなぁ。
「ガットってまだ1回も張り替えてないの?」
「これは美桜ちゃんのラケットだから、最後に替えたのがいつか分からないんだよね」
美桜ちゃんに聞いておけば良かったな。
「とりあえず、ガット張り替えてみたら?」
「どうしたんですの?」
私達の会話が気になったのか、咲蘭ちゃんも会話に加わる。
私は花恋ちゃんに話したことを、咲蘭ちゃんにも話した。
「ガットを張り替えるのでしたら、これから行きましょう。まだ閉まる時間でもないですし、宮下に車を出させますわ」
宮下さんに車を出してもらい、スポーツショップでガットを張り替えに行く。
しかし、混んでいたせいか、明日の受け取りになるらしい。
仕方がないので今日はこのまま解散となった。
翌日、ラケットを取りに行ってから練習に参加となる私は、スポーツショップが入っている駅前のモールへと急いだ。
県大会まで時間ないし、少しの時間も惜しい。早く取りに行かないと。
ガットさえ張り替えれば、いつもの感覚に戻る──。
「きゃっ!」
携帯を見ながら運転していた自転車とぶつかりそうになる。咄嗟に避けよたものの、足が縺れて転んでしまう。
「いったー」
「す、すいません! 大丈夫ですか?」
「あー、大丈夫ですけど、携帯見ながらは危ないので気を付けてください」
自転車に乗った人は何度も謝ってきたので、許してあげることにした。
まったく! これで怪我でもしたらどうしてくれるんだ!
「そんなことより急がなきゃ」
ラケットを受け取り、学校に戻った私は、すぐに着替えて練習に参加した。
「おかえり桜ちゃん! ガットは完璧?」
「うん! これで大丈夫なはず!」
今は打ち込みの練習の最中。私も加わることにした。
よーし、気合い入れてくぞー!
「桜ちゃんいくよー!」
「はーい!」
美桜ちゃんが球出ししたボールを思い切り打ち込む。
──パーン!!!
おぉ! そうそうこの感覚!
やっぱりガットのせいだったのかしら。
「ナイスボール!」
次のボールも完璧な位置で打とうとした瞬間──。
ズキッ!
「痛っ!!!」
ボールを打とうとグリップを握る手に力を入れた瞬間、とてつもない痛みに襲われる。
痛みに耐えきれない私は、右手を抑えてその場に蹲った。
「桜ちゃん!?」
美桜ちゃんがネットを飛び越えて、猛ダッシュで近付いてくる。
「どうしたの桜ちゃん!?」
「み、右手が・・・」
「誰か桜木先生呼んできて! 桜ちゃん! とりあえず部室戻って冷やそう!」
美桜ちゃんの肩を借りて立ち上がるが、痛みで視界が揺らぐ。
「うっ・・・」
「ゆっくりでいいよ!」
「さくらちゃん大丈夫!?」
花恋ちゃんや咲蘭ちゃんも心配そうに私を見つめていた。
「だ、大丈夫・・・」
ど、どうしよう・・・。県大会近いのに・・・。
私は頭の中が真っ白になった。




