12.約束は約束
──ガチャ
部屋のドアが開き、美桜ちゃんが戻ってきた。
うーん。表情を見る限りまだ拗ねてる感じがする。
「お、おかえり。遅かったね」
「うん」
美桜ちゃんは一言返事をして私の隣に座った。
「・・・」
「・・・・・・」
き、気まずい・・・。何か喋ってくれないかなぁ・・・。
それから数分、沈黙が流れる。
「・・・えっと、美桜ちゃん? まだ怒ってる? 悪気があったつもりじゃないからさ・・・。でも、嫌な気持ちにさせたならごめんね?」
「・・・・・・」
美桜ちゃんは私に見向きもしない。参ったなぁ・・・。
どうしようかと考えていると、やっと美桜ちゃんが口を開く。
「別に怒ってないもん」
「そ、そう? なら良かった」
とりあえず怒ってないことに安堵する。
「でも」
「・・・でも?」
「約束は約束・・・だよ?」
そう言って美桜ちゃんが私を見つめてきた。
「う、うん」
美桜ちゃんの見つめる目が、今だよと言ってるような気がする。
こう向かい合ってするの恥ずかしすぎなんですけど! 顔が沸騰しそうなぐらい熱くなるのが自分でも分かった。
「恥ずかしいから目閉じてよ」
美桜ちゃんは頷き、ゆっくりと目を閉じた。
この付き合いたてのカップルみたいな状況はなんなのだろうか・・・。
私は心の中でよしっ!と気合いを入れた。
美桜ちゃんの肩を掴む。一瞬ビクッと震えたけど、私はそれを気にせず顔を近付ける。
私も目を閉じて、美桜ちゃんの唇に自分の唇をそっと重ねた。
「お、終わり」
離れると美桜ちゃんが既に目を開けていた。その表情は何故か驚いている。
そして声にならない悲鳴をあげて両手で顔を隠した。
「えっと・・・。美桜ちゃん?」
「くくく唇にするなんて聞いてない!!!」
え? 唇じゃなかったの?
「あ、いや、あの」
私も今更になって頬にするべきだったのではと思い、恥ずかしくなってきた。
美桜ちゃんが手の隙間から私を見る。
「でも・・・ありがとう」
「ど、どういたしまして・・・?」
こ、この空気どうしたらいいんだ!
今すぐにでも部屋を飛び出したい!
「ど、どうだった?」
どう・・・とは?
美桜ちゃんから急に質問され私は固まる。
どう答えればいいんだ!?
キスの感想? 唇が柔らかいとか? ドキドキしたか? もっとしたいとか?
いやいや! もっとしたいってなんだよ!
そんなこと言ったら、美桜ちゃんのことだしもっとしていいよって言うに決まっている!
私は頭をブンブンと振り、その考えを吹き飛ばす。
「ぎゃ、逆にどうだった?」
なんで質問を質問で返すの私は!
「びっくりしたし、ドキドキしたけど・・・。桜ちゃんの唇、柔らかかった」
漫画みたいなテンプレ返答じゃないか!
しかも、照れながら言ってるところがちょっ可愛い。
・・・いや、落ち着け私。ここは冷静になるんだ。
「そっか。ご褒美、喜んでいただけまひたか?」
か、噛んだー!!! まひたかってなんだし!
「・・・ぷっ」
私が噛んだことに気付いたのか、必死に笑いを堪えている美桜ちゃん。これは空気を変えるチャンスなのでは!?
「喜んでいただけまひたか?」
私はもう一度、さっきと同じように言う。
「・・・ぷぷ、あははは!」
結局、堪えきれずに笑う美桜ちゃん。
「まひたかって何! あー、おかしい。もう、桜ちゃんったら」
ふぅー。なんとか空気を変えることに成功した。代わりに何かを失ったような気がしないでもないけど・・・。
「満足してくれた?」
「うん。ありがとう」
「なら良かった。次からは、約束したこと忘れないように気をつけるね」
約束したらメモしておこう。拗ねられたら機嫌戻すの大変だし。
「そうするように」
それからは試合の話などしてゆっくり過ごした。
機嫌戻って本当に良かったよ・・・。




