6.棄権
ガンガンガンッ!!!
3ゲーム目が終了し、サイドが変わる際に大きな音がした。
音の出どころの相手のペアを見ると、ラケットを地面に叩きつけて折ってしまったようだ。
花恋ちゃん達を挑発してきた子がどうやらキレているらしい。それを顧問が必死に宥めている。
「自分の思うようなプレーができずに、物に当たるなんてみっともないですわね」
「そうだよね。あんなに挑発してきたくせに大したことないし」
花恋ちゃん毒舌だな。
実際の所、本当の実力はあんなもんじゃないだろうけど、ミスばかりでイライラしてしまい、そのイライラがプレーに影響してるってことなんだろうな。
それに比べ花恋ちゃん達はしっかりと目の前の試合に集中しているし、メンタル面で差がついているのかもしれない。
「あぁなっちゃったら切り替えるのは難しいだろうね。もう3ゲームも取られてあとがないし」
確かに。私だったらとっくに諦めるな。
最初の1ゲーム目は、花恋ちゃん達の攻撃が見事にはまり、相手の油断をつくことができた。
2ゲーム目以降は、ほとんどのポイントが相手のミスによる自滅だった。
「なんか揉めてるみたいだね」
今度はペア同士で言い合いが始まった。責任のなすりつけあいだろう。
「わたくし達は行きましょうか、花恋さん」
「そうだね!」
「あと1ゲームだよ! 頑張ってね!」
それから数分。一向に相手のペアが戻ろうとしない。
審判が戻るよう注意しに行くが、それでも戻る気配がない。
「これじゃあ続けても絶対勝てないだうね」
「だろうね。・・・あれ? 何話してんだろう」
相手の高校の顧問が審判と話している。
「どうしたんだろうね?」
その後、審判は花恋ちゃん達の元へ向かい、何か説明をしていた。
説明が終わると花恋ちゃん達が戻ってきた。
「どうしたのかしら?」
桜木先生が何があったか花恋ちゃん達に聞く。
「棄権するみたいです。これ以上、試合を続けられる状況じゃないって言ってました」
「そうなのね。なんにせよ勝利には変わらないわ。2人とも県大会出場おめでとう」
相手ペアの棄権によって、花恋ちゃん達の勝利となった。同時に県大会の出場も決まる。
「なんだか不完全燃焼ですわ」
「次の試合にぶつければいいよ」
「そうですわね」
花恋ちゃん達には消化不良の試合になっただろう。
ともあれ、県大会出場が決まったのはおめでたい。
「2人ともおめでとう」
「ありがとうさくらちゃん。本当はストレート勝ちして、挨拶の時に色々言ってやろうと思ってたんだけどね」
やっぱり怒ってたのか。
「花恋さんの言ってた通り、大口を叩く割には大したことなかったですわね」
「まぁ、体力温存できたと思えばいいんじゃない」
やはり、私達の最大の敵は花恋ちゃん達になりそうだ。
「それよりお腹空きましたわね」
時刻は11時半を過ぎたところ。
「私達も試合までまだ時間あるし、ご飯食べとく?」
「そうだね」
私達は美桜パパ達と合流することにした。
「パパー! こっちだよー!」
休憩所で待っていた私達は、美桜パパを見つけ手を振る。
「ちょっと知り合いと話し込んじゃってな。待たせてごめんな」
「ううん。てことは、花恋ちゃん達の試合は見てないの?」
「そうだな。どうだったんだ?」
美桜ちゃんが花恋ちゃん達の試合の様子を話す。
「──それで結局相手のペアは棄権しちゃったの」
「そうか。ラケットに当たるのは良くないな。プロの選手のように、それで気持ちがリセットできればいいが、メンタル面ではまだまだ子供だからな」
プロの選手についてはよく分からないけど、それでリセットできる人もいるのか。
「上手くいかない時は、どうしてもイライラしやすくなるしな」
「パパはそんな時どうするの?」
「ミスしたり、上手くいかない時に怒りそうになったら、まずは落ち着くことを考えたな。その時にやってたのは、頭の中で秒数を数えていたな」
秒数数えるだけで落ち着けるのかな?
「当時はその言葉を知らなかったが、アンガーマネジメントと言うそうだ」
アンガーマネジメント・・・。怒りを管理するってことか。
「2人はあまり心配していないが、もしイラついたり、怒りそうになった時は6秒数えなさい。声に出してでもいい。数えてるうちに治まってくるはずだ」
「覚えておきます」
「他にも色々方法があるが、これが一番分かりやすい」
私は自分のミスでキレてしまう可能性がある。覚えておこう。
「話はここらへんにして、2人とも腹減っただろ? ママ、ご飯にしよう。まだ試合あるんだし、たくさん食べるんだぞ」
「はーい!」
・・・決勝まであと5勝しないといけないのか。
試合が進むにつれて、試合間隔も短くなるだろうし、ゆっくり食べられるのも今のうちかもな。
「いただきます」
「召し上がれ」
いっぱい食べて、残りの試合も頑張ろう。




