5.本領発揮
「あんた達が次当たるペア? 1年? 悪いけど、手加減しないからね」
花恋ちゃん達が当たる、第1シードのペアの1人と思われる人が声を掛けてきた。
相手の挑発的な態度に、咲蘭ちゃんが怒ったりしないか心配になる。しかし、咲蘭ちゃんは見向きもせずにコートを見つめていた。
「最初から本気で大丈夫ですけど、負けた時に言い訳しないでくださいね。今ならどこか調子悪いって言っておけますけど、どうします?」
意外にも花恋ちゃんが言い返していた。しかも怖い。
「小さいくせに生意気ね。1ゲームもあげないから。覚悟してなさい」
「はーい。よろしくお願いしますね。頑張ってくださーい」
花恋ちゃんは満面の笑みでそう言った。
「チッ」
頭にきたのか、舌打ちしてこの場を去っていった。
「花恋ちゃん言うねー。私も怒らせないように気をつけよ」
「ちょっとだけムカついちゃった。さくらちゃんには怒らないよ」
確かにあれはムカつくよな。
でも、咲蘭ちゃんが反応しなかったのは予想外だった。
私は黙っている咲蘭ちゃんを見る。
「なんですの?」
「いや、咲蘭ちゃんのことだからなんか言い返すと思って」
「あんなの相手にするだけ体力の無駄ですわ。あの様子じゃ私達に足元をすくわれますわね。勝負は決まったようなものですわ」
なんだかやけに冷静だな。それほど集中してるということだろうか。
「でも、咲蘭ちゃん達も油断しないようにね」
「するわけありませんわ。・・・そろそろですわね」
前の試合が終わり、2人が準備を始める。
「花恋ちゃん、咲蘭ちゃん。絶対勝ってね」
「うん!」
「任せなさい」
試合前の乱打が終わり、審判のコールで試合が始まる。サーブは花恋ちゃん達からだ。
花恋ちゃんのサーブは全てアンダーからのカットサーブ。
身長が低いこともあり、どうしても上からのサーブが入りにくくなる。
本人もそれを分かっているらしく、中学からずっとアンダーサーブらしい。
極めに極めたアンダーカットサーブは、ネットの上をスレスレで通り、小さいバウンドで相手のサービスライン内に入った。
相手のペアは不意をつかれたのか、体勢を崩してレシーブする。
その瞬間──。
パーン!
相手のペアのど真ん中を割る、強烈なボレーを咲蘭ちゃんが打ち込んだ。あんなボールが来たら逃すわけないよな。
「ナイスボレー二階堂さん!」
「咲蘭ちゃんナイス!」
まずは1ポイント。
相手のペアは相当悔しかったのか、まだ咲蘭ちゃんを睨みつけていた。
当の本人はそんなこと気にすることもなく、花恋ちゃんとハイタッチをした後、落ち着いた様子でネットについた。
「1-0」
花恋ちゃんのサーブは、先程と同じような軌道でサービスライン内に入る。
相手の前衛は慎重にレシーブをしようと、ロブでクロスに展開する。
それを咲蘭ちゃんは読んでいたのか、先程までいたネット近くから既に離れ、スマッシュの体勢に入っていた。
その動きに相手のペアが気付いた時にはもう遅かった。
パーン!!!
先程よりも遥かに大きい音がコートに響く。
相手の後衛は一歩も動けず、ただボールが通り過ぎるのを見守るだけだった。
「ナイススマッシュー!!!」
「このまま1ゲーム目取っちゃお!」
俄然、私達も盛り上がる。
「相手のペアは舐めてかかったのがダメだったね。ここから気持ち入れ替えるのは難しいんじゃないかな」
美桜ちゃんが言うならそうなんだろうな。
この1ゲーム目で勝負を決めてしまうかもしれない。
「2-0」
咲蘭ちゃんがベースラインに立ち、サーブの準備に入る。
多分、このサーブで相手のペアは後悔するだろう。試合前に挑発したことを。
──パーン!
咲蘭ちゃんが打ったサーブは、ワンバウンドしたあと、相手の後衛のボディ目掛けて飛んでいく。
相手の後衛は、真正面に飛んできたボールに反応できず、花恋ちゃん達のポイントとなった。
「3-0」
「桜ちゃん。私達が勝ち進んだ時の決勝の相手は、花恋ちゃん達で決まりっぽいね」
美桜ちゃんが真剣な目つきでそう言った。
「そうかもしれないね。今日の咲蘭ちゃんを止めるのは、中々厳しいものがあるね」
「でもさ」
美桜ちゃんが私を見つめる。
「うん?」
「勝つのは私達だよ」
「そうだね。絶対に負けない」
「ゲームチェンジサイズ」
次のポイントも咲蘭ちゃんのサービスエースが決まり、1ゲームを先行する出だしとなった。
相手のペアが唖然としている。
まさか1年にこんなペアがいるとは思わなかっただろうな。
流れが変わらない限り、試合がひっくり返ることはなさそうだ。
相手ペアから咲蘭ちゃんに視線を移すと私を見ていた。
特に何か言うわけでもなく、そのあとすぐに目を逸らして移動してしまった。
何を思っていたかは分からないが、あなたには負けませんわと、目で言われたような気がした。
・・・私だって負けないよ咲蘭ちゃん。
悪いけど、優勝するのは私と美桜ちゃんなんだから。




