45.地区予選前夜
地区予選前最後の練習を終え、私は部室で着替えていた。
「みんなちょっといい? 着替えながらでいいから、聞いてもらえるかしら」
桜木先生から話があるようだ。
「いよいよ明日、地区予選ね。今日までみんな一生懸命練習してきたはずよ。勝っても負けても、悔いの残らないように全力を出し切ってほしいと思っているわ」
私含め部員は着替えを中断して、桜木先生の言葉に耳を傾ける。
「特に3年生。個人戦は泣いても笑っても最後の大会になるわ。目一杯楽しんで」
「はい!!!」
「それと来月の団体戦のレギュラーメンバーは、個人戦の結果を踏まえて決めるからそのつもりでいるように。部長。あなたからも一言お願いするわ」
美桜ちゃんが先生の隣に立つ。
「まずは・・・。私のわがままで、一部の1年生の面倒を見させてもらったことに感謝しています。本当にありがとう。そして、練習についてきてくれた、桜ちゃん、花恋ちゃん、二階堂さん。本当に頑張ったね。明日は練習の成果を出し切るだけだよ! 頑張ろうね! みんなも明日は頑張ろう!!!」
「おー!!!」
なんか美桜ちゃんかっこいいな。すごい部長してる。
「ありがとう。シード枠の2人。あなた達には期待しているわ。県大会・・・いえ、全国目指して頑張ってね」
「はい!!」
「お話はこれでおしまい。明日は現地集合よ。遅刻厳禁だから、夜更かししないでちゃんと寝るように。じゃあ、お疲れ様」
「お疲れ様でした!!!」
いよいよ明日か・・・。
私はラケットを取り出し、眺める。
「桜ちゃん。明日は私のラケットで試合するの?」
「うん。少し前に貸してもらってからもう慣れたし、これで出たい」
「そっか。使ってくれて嬉しいな。ありがとう」
私は少し前から、美桜ちゃんの前衛用のラケットを使って練習していた。
「ううん。私がこのラケットで試合に出たかったし」
美桜ちゃんのラケットよ。明日は頼むぞ。
「じゃあ帰ろっか」
「うん」
美桜ちゃんの家へ向かってる最中、明日必要なゼッケンを、家に置いてきてしまったことに気付く。
「美桜ちゃん。先に帰っててくれない? 家にゼッケン忘れたから取りに行ってくる」
「それは取りに行かなきゃまずいね。荷物貸して。持っててあげるから」
「いや、それは悪いしいいよ」
「いいのいいの。ほら貸して」
強制的に荷物を奪われてしまう。
「じゃあ、お願いします。家着く頃また連絡するね」
「はいはーい! またあとでね」
私は一旦、ゼッケンを取りに自分の家へ向かう。
こんなことなら、家出る時にちゃんと確認すれば良かったなぁ。
でも、気付いて良かった。明日忘れて出場できませんじゃシャレにならないしな。
それから10分程で家に着く。
机の上に置いてあったゼッケンを回収。念の為、他に忘れ物がないか確認しておくことにした。
・・・他は大丈夫そうだな。
私は家を出て、美桜ちゃんの家へと急いだ。
美桜ちゃんの家向かう途中、後ろを歩く人が同じ歩調で歩いてることが気になり、チラッと振り向く。
「やっと振り向いてくれましたか」
私の後ろを歩いていたのはくぼちゃんだった。
「普通に声掛ければいいじゃないの」
小さい女の子にストーカーされてるって不自然すぎるでしょ。
「気付くまで待ってみました」
「いつからつけてたの」
「はしもとさんが家を出てからです」
随分と最初の方じゃないか。
「今度からは普通に声掛けるように」
「・・・分かりました」
なんだ今の間は。
「それでどうしたの」
「いよいよ明日ですね。トーナメントはいいブロックに入ったみたいで」
「そんなことまで知ってるのね」
知らないことないんじゃないの。
「今日まで頑張って練習してきたんです。きっと明日はいい結果がでるでしょう」
「とりあえずは優勝目指して頑張るよ」
「ボクも明日見に行きますので」
「え? 見に来るの?」
「はい。はしもとさんに声掛けたりはしないのでご安心を」
それなら別にいいけど。
「では、頑張ってください。さよーならー」
そう言ってくぼちゃんは、いつものように走り去っていった。
今日は応援しに来てくれたかな。
見に来るなら良いとこ見せてやるかー。
「さてと。美桜ちゃんも待ってるだろうし、急ぎますか」
美桜ちゃんの家に着くと、既に夕食が用意されていた。
「明日はパパもママも応援に行くからな! 試合会場まで車で行こう」
「お弁当作るわね」
美桜パパには結果で恩を返さなきゃ。
「ありがとうございます。美桜ちゃん、美桜パパのおかげで上手くなれました。それに美桜ママのお弁当もあれば、もう無敵になれそうです」
「あら。嬉しいわね。お弁当張り切って作るわ」
「さくらちゃんの成長は著しかったからな。期待してるぞ」
「はい! 頑張ります!」
いい結果を残せるよう、全力を出し切ろう!
「頑張ろうね桜ちゃん!」
「うん!」
寝る準備を済ました私達はベッドに横になっていた。
「桜ちゃん」
「ん?」
「緊張してる?」
緊張か・・・。してないけど、してることにしとくか。
「まぁ、少しだけ?」
「じゃあ、緊張ほぐしてあげようか」
「どうやって?」
「おいで」
美桜ちゃんはそう言うと、腕を広げた。
「えぇー。美桜ちゃんがギューってしたいだけじゃないのー?」
「ち、違うし! 緊張和らげばいいなって」
ふーん。しょうがないから抱きしめられてあげるか。
「じゃあそのまま寝る」
「電気消す?」
「うん」
・・・美桜ちゃんの胸の鼓動が聞こえる。なんか落ち着くな。
「少しは落ち着いた?」
「おっぱい柔らかくて落ち着く」
「ば、ばか!」
「嘘。落ち着く」
これならぐっすり眠れそうだ。
「明日、優勝しようね」
「もう目標が優勝になったんだね」
「桜ちゃんとなら優勝できそうだからさ」
そう言ってくれるのは嬉しい。
「私の大活躍で美桜ちゃんの出番ないかもよ」
「全然いいよ。いっぱいポイント決めちゃって」
「任せなさい。・・・ふぁー」
もう寝てしまいそうだ。
「いいよ。このまま寝ても」
「・・・うん。美桜ちゃん」
「なぁに」
「おやすみ」
「うん。おやすみ」
明日、全力を出せますように。




