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恋の案内人  作者: 翁
出会い
52/255

40.二階堂邸へ

 次の日──


 部活が終わると、二階堂さんに校門で待つように言われた。

 家でも練習するならわざわざ着替えなくてもいいのでは・・・?

 今すぐ帰りたい気持ちに駆られながら二階堂さんを待っていると、美桜ちゃんに声を掛けられた。


「あれ? 桜ちゃん帰らないの?」


「いやー、なんか二階堂さんに練習付き合えって言われて・・・」


「そうなんだ。怪我はしないようにね?」


「う、うん」


「じゃあまた木曜日ね! バイバーイ!」


 美桜ちゃんも来ないかと聞こうとしたけどやめておいた。

 それから5分程待つと、二階堂さんがこちらへ歩いてきた。


「お待たせしましたわ。では行きましょうか」


 はぁ・・・。やっぱ花恋ちゃん誘えば良かったかなぁ。ちょっと気まずいや。

 校門の坂を下ると、黒い高級そうな車が止まっていた。

 その車の近くに咲蘭ちゃんの使用人と思われる人も立っている。


「お嬢様。荷物をお預かりします」


 この人が宮下さんかな?


「宮下。彼女がさくらさんですわ」


「さくら様。いつもお嬢様と仲良くしていただき、ありがとうございます」


 さ、さくら様・・・。なんだかむず痒いな。


「い、いえ」


「別に仲良くしてませんわ! さくらさん、早く車に乗ってくださる?」


 えぇ・・・。


「ああは言っていますが、家ではさくら様のことをよく話してらっしゃいますよ」


 宮下さんが二階堂さんに聞こえないように言う。


「はぁ・・・そうなんですか」


「はい。これからも仲良くしてあげてください」


 どうして家で私のことを話しているんだろうか。変な風に言われてなきゃいいけど。

 少し不安になりながら車へ乗り込んだ。



「着きましたわ」


 車から降りると、目の前にはお城みたいな家が建っていた。


「で、でかい・・・」


 なんというでかさだ。

 こんな家、アニメとかドラマでしか見たことがない。


「行きますわよ」


 門が自動で開き、二階堂さんが中へと入っていく。私もそのあとに続いた。

 というか・・・玄関まで遠くないですかね。

 周りの庭には薔薇が咲いていたり、綺麗に揃った植木が植えられている。

 二階堂さんが玄関の前に立つとドアが開いた。


「おかえりなさいませ、お嬢様」


 メイドのお出迎えだ。


「ご友人の方もどうぞ、お入りください」


「お、おじゃまします・・・」


 なんか緊張するな・・・。てか玄関広すぎ。

 床は赤い絨毯で敷き詰められている。

 上へと続いている階段は、螺旋階段になっていて、天井まで吹き抜けになっている。


「こちらですわ」


 玄関を上がり、左に曲がると長い廊下が続いていた。


「帰宅したらお母様に挨拶するのが日課ですの」


「は、はぁ・・・」


 これだけ家が大きいと迷子になりそうだ。

 花恋ちゃんが言っていた、冒険みたいっていうのは本当だったんだな。


「ここですわ」


 二階堂さんはドアをノックした。


「どうぞ」


「お母様、ただいま帰りましたわー!」


 二階堂さんがお母さんに駆け寄り抱きついた。


「おかえりなさい、咲蘭」


 これが日課なのか。

 強情な性格をした二階堂さんにも、こんな一面があるんだな。

 二階堂さんのお母さんはとても綺麗だった。

 紫のドレスを着ていて、顔も二階堂さんに似ている。


「あら、お友達?」


「と、友達ではありませんわ!」


「咲蘭ったら照れてるのね」


 照れてるのか・・・?


「あなたがさくらさんね。咲蘭がよくあなたの話をしているのよ」


「は、はじめまして。おじゃましています」


「そう硬くならなくて大丈夫よ」


 そう言われましても・・・。


「お母様、食事のあとにさくらさんとテニスの練習をしますわ」


「怪我しないように気を付けるのよ」


「はい!」


 こう見ると二階堂さんもちゃんと子供なんだな。


「食事もすぐに出来ると思うし、大広間へ行きましょうか」


 お金持ちの食事ってどんなのなんだ? お口に合うかしら・・・。


 夕食はテレビで見るような何とかを添えて、みたいな物は出てこなかったので安心して食べることができた。

 ちなみにステーキだった。一体おいくら万円する肉なんだろうか・・・。

 柔らかすぎて口に入れた瞬間、溶けてしまうぐらいの肉だった。

 足りないようならまた焼くと言われたが、さすがに遠慮しておいた。


「わたくしは食べますわ!」


 相変わらずよく食べるお嬢様だこと。


「明日は何か食べたい物はあるかしら?」


「あ、え、えっと・・・あのお構いなく」


 今の返事で合ってるのか?


「わたくしはお寿司が食べたいですわ!」


「では、明日はお寿司にしましょう」


 そんな気軽に・・・。目の前で握る的なやつだったらどうしよう・・・。


「さくらさんは、好きなネタとかあるのかしら?」


「・・・い、いくらが好きです」


「あら、わたくしと一緒じゃありませんか」


 てっきり、大トロとかウニが好きなのかと思った。


「いくらは多めに用意してもらいましょうか」


 金持ちの家すごすぎなんですけど・・・。


「いくら丼の方が良ければ、そちらを用意させるけど」


「あ、じゃあいくら丼で・・・」


 寿司を握ってもらうスタイルだったらと考えると、丼物にしてもらった方が気持ち的に楽だ。



 食事が終わり、少し休憩してからコートへ案内された。

 それにしても庭が広すぎる。私の家、何軒入るだろうか。

 家から・・・いや屋敷か? それともお城?から少し歩くと建物が見えてきた。


「こちらですわ」


 屋外コートだと思ったが、屋内コートだった。

 雨の日でも練習できるように、屋内にしたのだろうか。


「ロングストロークでいいかしら?」


「あ、うん」


「手加減はいりませんわ。全力でお願いしますわ」


「はぁ・・・」


 そうして練習が始まる。

 二階堂さんも初心者だったのに、すごく上手くなったよな。毎日ここで練習してるのかな。


 ──パーン!


 室内にはボールを打つ音が響く。


 ──パーン!


 どうして私が練習相手なんだろ。

 ラリーが途切れたタイミングで、二階堂さんに聞いてみることにした。


「ねぇ、二階堂さん」


「なんですの?」


「どうして私が練習相手なの? 花恋ちゃん誘えばいいじゃん」


「・・・・・・」


 どうして黙るんだ・・・。


「・・・花恋さんには、自分の練習に集中してほしいからですわ」


「花恋さんは、テニスをしたことがないわたくしと、ペアを組んでくれると言ってくれましたわ」


 私は頷いて返事をする。咲蘭ちゃんが続ける。


「わたくしはそれが嬉しかった。ですので、少しでも花恋さんの役に立てるよう、上手くなることに決めましたの」


 そっか。私と似たような気持ちなんだな。


「一緒だね」


「何がですの?」


「私と一緒」


 私も美桜ちゃんのために上手くなろうと思った。

 二階堂さんは花恋ちゃんのために。


「そう・・・なんですの。あ、あとはその・・・」


「ん?」


「や、やっぱりなんでもないですわ!」


 なんだよ。気になるじゃないか。


「まぁ、私で良ければこれからも練習付き合うよ」


「・・・ありがとうございます、ですわ」


「え?」


 声が小さくて聞き取れなかった。


「ありがとうって言ったんですわ!!!」


「どういたしまして」


 二階堂さん、案外いい人なのかもな。


「でも、あなたには負けませんわ!」


「望むところだ!」



 練習が終わり、二階堂さんとお母さんが門の前まで見送りに来てくれた。


「あの、おじゃましました。ご飯もごちそうさまでした」


「明日も待ってるわね」


「はい。では、失礼します」


 二階堂さんはそっぽを向いていた。


「咲蘭。さくらさんにご挨拶は」


「・・・ま、また明日ですわ。おやすみなさい」


「うん。またね、咲蘭ちゃん。おやすみ」


「さ、咲蘭ちゃん!?」


 いや、別に驚くことじゃないでしょ。


「ふふ。では宮下。さくらさんをお願いします」


「かしこまりました。奥様」


 車に乗った私はもう一度咲蘭ちゃんを見る。

 咲蘭ちゃんは小さく手を振っていた。

 なんだ。可愛いところあるじゃん。

 私も手を振り返した。


「よろしいですか」


「はい」



 帰り道、宮下さんが咲蘭ちゃんのことを少し話してくれた。


「お嬢様は見ての通り、少し強気な性格でして、あまりご友人が出来ませんでした」


 そんな感じはした。

 私も最初は仲良くなりたいと思わなかったし。


「ですが、花恋様と出会ってからは少し変わりました」


「それまでは、あまり笑顔を見せることが少なかったのですが、少しずつ笑顔が見れるようになりました」


 なるほど。花恋ちゃんと同じ高校に入ったのも頷ける。

 咲蘭ちゃんの中では、花恋ちゃんはなくてはならない存在なんだろうな。


「ソフトテニス部に入られてから、さくらさんの名前も聞くようになったのですが、きっと友達になりたかったのでしょう」


「はっきりと、友達になりたいと言ったわけではありませんが、そんな風に私も奥様も感じていました」


 私は相槌を打ちながら宮下さんの話を聞く。


「ですから、お嬢様がさくら様を練習に誘ったと聞いた時は、とても嬉しく思ったのです」


「形はどうであれ、さくら様を家に招きたかったのでしょう。これまでは花恋様ぐらいしか招いたことがなかったので」


 ただ、練習がしたかったってわけじゃなかったのか。

 練習の時に何か言いかけていたのはそのことなのかな。


「そうなんですね」


「はい。私の身勝手なお願いですが、さくら様が良ければ練習の時以外も是非遊びにいらしてください。私からも遊びに誘うように、それとなく伝えておきます」


「分かりました」


「ありがとうございます」


 それから少しして、私の家に到着した。


「わざわざ送ってもらってすいません」


「いえいえ」


「ありがとうございました」


 私は宮下さんにお辞儀をして家に向かう。


「さくら様」


 急に呼び止められ、振り返る。


「これからも、お嬢様と仲良くしてあげてください」


「はい。じゃあおやすみなさい」


「おやすみなさい」


 私が家のドアを閉めるまで、宮下さんは深々とお辞儀をしたままだった。

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