39.練習のお誘い
GWが明けの部活のミーティングで、地区予選の日程について話があった。
「地区予選の日程だけど、25日の土曜日に決まったわ。26日は予備日になるから覚えておくように。それじゃあ部活を始めましょう」
25日か・・・。
下旬になったことで練習できる日が増えた。これはかなりプラスに働きそうだ。
昨日、一昨日の練習では、美桜パパからネットに出るタイミングやアプローチショットなど、主にネットにつくまでの練習を教わった。
難しかったのは、サーブから前に出る動き。いわゆる、サーブ&ダッシュというものだ。
サーブを打ってすぐにはネットにつけないので、サービスライン付近で一度止まり、相手のレシーブを待たなければいけない。
相手のレシーブは、前衛の足元やボディを狙ってくる可能性が高い。
ローボレーの練習の成果がここで出た。
レシーブが足元に来ても、落ち着いて返すことができていたのだ。
自然教室を挟んだものの、この1週間程で目覚しい成長を遂げている気がする。
今週の土日は、試合中の動きの練習をすることになっている。
今まで基礎中の基礎の練習が多かったが、ついに実践に近い練習を行う。
地区予選まで約2週間半、さらに集中して練習しよう。
「桜ちゃん! 一緒にロングストロークやろう!」
「いいよー」
毎回練習で打ち込みをしてることもあってか、最近では美桜ちゃんにも打ち負けなくなってきた。
初心者だった私がこんなにも上達できたのは、美桜ちゃんと美桜パパのおかげだ。
「いくよー」
打ち込みの練習では、アウトやネットにかからないように打っていたけど、今日からは強いショットを打つことを意識しよう。
美桜ちゃんが山なりにボールを返してくる。
落下点を見極め、打ちやすい位置に少し移動する。
踏み込んだ左足に力を入れて、ラケットを耳の高さまで引いた。
──ポーン
ボールが地面にバウンドする。
バウンドしたボールが高い位置で止まるのを待つ。
・・・ボールの上昇が止まった。
ここだ。
私は高い打点からラケットを一気に振り抜く。
ボールがラケットの中心を捉える。
その瞬間──。
──パーン!!!
これ程までの綺麗な音が出たのは初めてかもしれない。
打った瞬間、かなりの手応えを感じた。
ボールがネットの上をスレスレで通る。
次にボールの行方を確認した時には、相手コートのベースラインにバウンドしていて、美桜ちゃんの横をかなりのスピードで通り過ぎていた。
おぉ!!!
今までの中で一番のショットだ!
「美桜ちゃん!!! 今のすごくない!?」
興奮しながら言うも、美桜ちゃんからの返事がない。
そんな美桜ちゃんは、かなり驚いた様子で立ち尽くしていた。
美桜ちゃんだけではない。部員全員が動きを止めている。
あれ? なんでみんな止まってるの? というか皆私に注目している。
「えぇ・・・?」
「さ、さくらちゃん! 今のすごかったよ!」
隣で打っていた花恋ちゃんが駆け寄ってきた。
「すごい音したよね」
他の先輩達もびっくりしている。
「桜ちゃん!!! 練習の成果が出たんだよ!」
いつの間にか、美桜ちゃんも私のそばへ来ていた。
「今のはスイートスポットにちゃんと当たったんだね」
確か・・・スイートスポットってラケットの中心だっけ?
打点もぴったりだと、びっくりするようなショットが打てるって言ってたっけ。
「もしかして、あれを毎回打てればだいぶ強かったりする?」
「めっちゃ強いよ!」
「そうなんだ。美桜ちゃんと美桜パパのおかげだよ。ありがとね」
「ううん。桜ちゃんが練習を一生懸命頑張ってるからだよ」
そう言ってくれると嬉しい。
でも・・・それでも、美桜ちゃんと美桜パパのおかげだ。
「地区予選までもっと上手くなれるよう頑張るね!」
「うん! じゃあ皆! 練習再開しよ!」
美桜ちゃんがパンっと手を叩き反対側に戻っていく。
それを目で追ってると、二階堂さんと目が合った。
二階堂さんは腕を組んで私のことを見ている。な、なんか怖いな。
「桜ちゃんいくよー!」
「はーい」
私は視線を美桜ちゃんに戻して、練習に集中することにした。
「さくらさん、ちょっとよろしいかしら」
部活が終わってすぐに、二階堂さんから声を掛けられた。
「いいけど」
「あなたの家は門限とかあるのかしら?」
いきなりなんの質問?
「決まった門限は無いけど、22時過ぎるとうるさく言われるかも」
「そうですか。では部活後と定休日に、わたくしの練習に付き合ってもらえません?」
え? 2人きりで練習するの? というか家どこか知らないんだけど。遠かったら帰るのめんどくさいなぁ・・・。
「うーん」
「部活後にわたくしの家に向かう時と、さくらさんが帰宅する時は、宮下に車を出させますので心配ありませんわ」
そ、そうなのか。
「別にいいんだけどさ、毎日はちょっと・・・」
「いつなら大丈夫ですの?」
「金曜から日曜は無理だから、月曜から木曜のうち3日間ぐらいなら・・・」
「では月曜から水曜にしましょう。今日からできます?」
急だな・・・。
「明日からでもいい? 一応親に伝えないと」
「分かりましたわ。それでは明日の部活後から、わたくしの家の庭でやりましょう。21時頃に終わるようにしますわ」
「あ、はい」
「あと、食事はわたくしの家で済ませていくといいですわ」
「あ、はい」
「では失礼しますわ。ごきげんよう」
「ご、ごきげんよう」
伝えることだけ伝えて、二階堂さんはその場を去ってしまった。
困ったなぁ。なんで私と練習なんだ・・・。花恋ちゃん誘えばいいのに。
それになんか、断れる雰囲気じゃなかったし。
まぁ、決まってしまったことだししょうがないか。
帰ったら親に月曜から水曜は帰りが遅くなるって言わなきゃ。
部室に戻る足取りが少し重く感じた。




