32.美桜パパとの練習
午前の部活が終わり、私達は美桜ママが作ったお弁当で昼食を取ることにした。
「わー! 美味しそう!」
色々な種類のサンドイッチや唐揚げなどがある。
「たくさんあるからな! 午後も頑張れるようにいっぱい食べるんだぞ!」
午後からは美桜パパの特訓が待っている。
「そこの君は食べないのか?」
立ったままの二階堂さんに美桜パパが話しかける。
「わ、わたくしはいいですわ!」
「君も午後の練習に参加するんだろ? 食べないと力が出ないぞ」
「そうだよ咲蘭ちゃん。一緒に食べよう?」
花恋ちゃんが一緒に食べようと二階堂さんを誘う。
「花恋さんに誘われては断れませんわね。いただくとしましょう」
なんか偉そうだな。本当は食べたかったくせに。
「咲蘭ちゃんが好きなたまごサンドもあるよ」
「確かにたまごサンドは好きですが、専属シェフが作ったたまごサンドに勝る──」
「美味しいから食べなよ」
花恋ちゃんが二階堂さんの口にたまごサンドを押し込んだ。
「ムグッ・・・あら、とても美味しいですわ」
「そうだろ? うちのママの料理は絶品だからな! ママの料理がなきゃ生きていけないぐらいだ!」
美桜パパがワハハと大きく笑う。
「パ、パパ! 恥ずかしいからやめて!」
料理が上手なのって大事なんだなぁ。まぁ、私はする気ないけど。
「咲蘭ちゃん、お行儀悪いよ」
気付けば二階堂さんが、頬張りながら両手にたまごサンドを持っていた。よっぽど気に入ったのね。
「そういえば、明後日の月曜日って祝日だったんだね」
今日になって3連休だと知った。
「そうだね。火曜日だけ学校行ったらGWだね。桜ちゃん達は水曜日から自然教室でしょ?」
「そんなのあったねー」
ぶっちゃけ、行くのめんどくさいんだよね。
それさえ無ければ美桜ちゃんの家にずっと泊まれたのに。
「体験とか色々あると思うけど、何やるか決めたの?」
「え、知らない。花恋ちゃんに全部任せたから」
「ダメだよー。全部任せっきりは」
だってー、興味ないんだもん。
「ほら、代表者花恋ちゃんだし。私は別にいいかなーって」
「それでも少しは協力しないとダメだよ」
はいはい分かりましたよー。
「花恋ちゃん、私達は何するの?」
「1日目は田植え体験、2日目はハイキングコースに行って、3日目は軽井沢周辺の観光だよ」
ちゃんと考えてくれてたのか。感謝感謝。でも田植えかー。
「田植えって泥だらけになるよね・・・」
「私も田植えやったなー。結構楽しかったよ!」
本当に楽しいのかしら。
バランスを崩して、顔から泥に突っ込むのだけのは避けたい。
「泊まるところはずっと一緒なんだっけ?」
「うん。ホテルに泊まるみたいだよ。さくらちゃん、しおり読んでないの?」
自慢じゃないですが全く読んでません。
「あーあ。宿泊場所は美桜ちゃんの家が良かったなぁ。ちょっとさ、自然教室の間だけ、長野に家ごと引っ越してよ」
「無理に決まってるでしょ。楽しんできなよ」
「えー。あ、お土産いる? 美桜ちゃんと、ご両親にも買おうと思ってたけど」
長野って何が有名なんだ? りんご? りんごは青森だっけ?
「いいの? ありがとう! 楽しみにしてるね!」
「おっ! お土産買ってきてくれるのか?」
「はい。何がいいとかありますか?」
「それならおやきをお願いしようかな!」
おやきってなんだろ。食べ物っぽいけど。
「わかりました。他にも何か良さそうなのあれば買ってきますね」
「ありがとう! さぁ、少し休んだら練習始めるぞ!」
いよいよ美桜パパの特訓か。
ついていけるか不安だけど頑張ろう。
そして、午後の練習が始まった。
「さくらちゃんと二階堂さんが前衛だな。とりあえず今日はボレーとスマッシュの練習をしようか」
「よろしくお願いします」
「ソフトテニスでは、基本的に前衛がポイントを決めることが多い。そのためにはしっかりとボレーとスマッシュができるようにならないといけないからな」
美桜ちゃんも同じようなこと言ってたな。
後衛がゲームメイクして、前衛が決めるって。
「とりあえず今日明日で、ボレーとスマッシュが完璧になるよう頑張ろう!」
まずはボレーの練習からで、スタンダードボレー→ローボレー→ハイボレーの順にフォアとバック両方練習した。
美桜パパの教え方はとても分かりやすい。
テイクバックの大きさやタイミング、インパクト時のグリップの握り、足の出し方...。
どれも、一つ一つ丁寧に教えてくれた。
「二階堂さん! ボレーは大振りしちゃダメだよ!」
「わ、わかってますわ!」
二階堂さんはどうしてもボレーが大振りになってしまいがちで、かなり手こずっているように見える。
私は少し苦手に感じたローボレーを中心に練習させてもらった。
「さくらちゃん! 膝を柔らかく使って、低い体制でタメを作るんだ! 腕だけで打たないようにね!」
「はい!」
スマッシュの練習では意外にも二階堂さんが褒めらていた。
「いいね二階堂さん! 思い切りがとてもいいよ!」
「わたくしにかかれば簡単ですわ! ・・・あっ!」
盛大に空振り。調子に乗るからだよ。
「もう一球お願いしますわ!」
──パコーン!!
それにしてもいい音出すねー。
しかも結構スピードが出てる。
スマッシュは二階堂さんの武器になるかもしれないな。
「よし、じゃあクールダウンして終わりにしようか! 2人とも、今日だけでもかなり良くなったよ!」
美桜パパの教え方が上手いおかげだ。
「ありがとうございます。また明日もよろしくお願いします」
「もう終わりですの? わたくしはまだまだやれますわ」
「二階堂さん。あまり練習をしすぎると、怪我する可能性とかもあるんだよ」
「そうなんですのね。ではまた明日ですわね」
二階堂さん、すごいやる気あるなぁ。
入部初日にラケット買い間違えたりしてたし、一時はどうなるかと思ったけど。
というか、運動苦手って花恋ちゃん言ってたけど、そんな感じが全然しない。本当に苦手なのかぁ?
「2人とも! ちゃんとストレッチしとくんだよ!」
「はーい」
それにしても、1日でこんなに上達を感じるなんて・・・。美桜パパ様様だな。
「ねぇ、二階堂さん」
「なんですの?」
「運動苦手って言ってたけど、そんなことなくない?」
花恋ちゃんが嘘をついてるようには見えなかったけど。
「お母様にお願いして庭にテニスコートを作っていただきましたの。毎日帰宅してからコーチに教えていただいてますわ」
うへぇ。お嬢様って本当にすごいな。お願いしただけでテニスコート作ってもらえるなんて・・・。
「そうなんだ。練習熱心だね」
「あなたには負けませんわ!」
ラケットでビシッと私を指しながら宣言。
そんな捨て台詞を残して、二階堂さんは部室の方向へ去っていった。そういや、勝手にライバルにされてたな・・・。
別に二階堂さんと勝負するわけじゃないけど、私だって美桜ちゃんのために頑張っている。
地区予選までにはもっともっと上手くなってやるんだから。
「桜ちゃーん! こっちも片付け終わったから、そろそろ帰るよー!」
私は立ち上がり、おしりに付いた砂を払ってから美桜ちゃんの元へと向かった。




