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恋の案内人  作者: 翁
出会い
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26.特訓

 グループ決めが終わり、教室へ戻った私は残りの時間を寝て過ごした。

 6限終了のチャイムが鳴り、しばらくすると教室に入ってきた花恋ちゃんに一緒に部活行こうと起こされる。

 起こされなければこのままずっと寝ていたかもしれない。


「起こしてくれてありがと」


「さくらちゃんはどこでも寝れるんだね」


 私の唯一の得技だからね。

 今後、履歴書を書く機会があったら、特技はどこでも寝れると書くことにしよう。


「そういえばさっきのことなんだけど」


「さっきの?」


 二階堂さんが本当に入部するのか確認する。


「二階堂さんが入部するとか言ってたけど、あれ本気なのかな?」


 まぁ、本気にしか見えなかったんだけど。


「そうだと思うよ。あのあと、今日お母さんに聞いてみるって言ってたし。多分ラケットとかも、今日中に買っちゃうんじゃないかな?」


 うわぁ・・・。マジか・・・。

 テニスしている姿は様になるとは思うけど、仲良くなれそうにない。


「そ、そっか。良かったね花恋ちゃん」


 入ってほしくないなんて口が裂けても言えないね!


「うん! さくらちゃんも仲良くしてあげてね! お嬢様だから価値観とか、たまに合わないときがあるかもしれないけど、すごくいい子なんだよ!」


 価値観ねぇ・・・。確実に合わないだろうな。

 花恋ちゃんから仲良くしてねとお願いされたからには、そうなれるように少し努力するか・・・。・・・したくないなぁ。


「体育館で二階堂さんの家はお城みたいって言ってたけど、何回か遊びに行ったことあるの?」


「うん! 最近はあんまり行ってないけど、小さい頃はよく遊びに行ってたよ! 家の中も外も広くて、冒険みたいで楽しかったな」


「へぇ」


 そんなにすごいのか。

 美桜ちゃんの家でもかなり大きいと思ったけど、それ以上となるとちょっと想像できない。

 やっぱり、そんな家柄だと執事とかメイドがいるのかな? なんか本当にすごいな。

 花恋ちゃんってメイド服似合いそうだよね。ちょっと着てるところ見てみたい。


「でも、今から入部しても5月の中旬からインターハイの地区予選でしょ? 大丈夫なのかな? 私も人のこと言えないけどさ」


 フォアもバックも、少しは打てるようになってきてはいるものの、試合中の前衛の動きとかは全然分からない。


「私が咲蘭ちゃんと組もうと思ってるから大丈夫だよ!」


「花恋ちゃん前衛でしょ? 二階堂さんに後衛やってもらうの?」


 ゲームメイク?とか二階堂さんに任せて大丈夫なのかな?


「今回は私が後衛やろうかなって思ってるんだ! 一応今まで前衛でやってきたけど、後衛もできなくはないと思うし」


 中学からやっていれば、ある程度はできるってことなのか。それなら心配はいらないか。


「残りの期間で上手くなれるか心配だなー。あ、でも大会前だと休日も部活になるんだっけ?」


 私の貴重な休日が・・・と言いたいところだが、自分から美桜ちゃんとペアを組みたいと言ったし、休日の部活に出ないなんてことは許されない。


「そうだね。多分、そろそろ部活の休みは水曜日だけになると思うよ」


 上手くなりたいし、ちょっと本気で頑張ってみよう。


「美桜ちゃんは最後の大会の目標決めてるのかな」


「どうだろうね。他の先輩に聞いたけど、美桜先輩、去年は県大会行ったらしいよ」


 んー・・・? あれれー???

 確か、ソフトテニス部は弱いって聞いてたから、初戦負けとか良くて2回戦ぐらいと思ってたんだけど・・・。


「うちの学校弱いんじゃないの?」


「美桜先輩が組んだペアだけ結構強いみたい」


 えぇ・・・。

 もしかしなくても私マズイことしてない?

 部員の中で一番いい成績残してるのに、初心者の私と組んだらもうヤバいでしょ!


「わ、私、やっぱり美桜ちゃんと組むのやめようかな・・・」


 そのことを初めから知っていれば、ペア組みたいなんて絶対言わなかったのに。

 どうして美桜ちゃんは言ってくれなかったんだろ?


「もしかしてさ、私が美桜ちゃんと組みたいって言った時に、大丈夫って聞いたのはそういうことだったの?」


「う、うん。なんか言いにくくなっちゃって・・・。そのとき言えなくてごめんね?」


 マジか・・・。

 部室着いたら美桜ちゃんに謝って断ろう。


「でもさくらちゃん。多分だけど、美桜先輩はさくらちゃんが組みたいって言ってくれたことすごい喜んでたし、やめるって言っても絶対やだって言われると思うよ?」


 なんですとー!?

 今から死ぬ気で頑張っても、そんなすぐに上手くならないでしょ・・・。


「ど、どうしよう花恋ちゃん・・・」


 確かに美桜ちゃんにやっぱ組まないって言っても、聞いてくれなさそうな気がする。


「頑張って!」


 突き放された・・・。

 とりあえず、言うだけ言ってみるか・・・。



 部室に着くと顧問の桜木先生も来ていた。


「やっと桜ちゃん達来た! 遅かったね? 先生、全員揃いましたよ」


 え? 何? なんか始まるの?

 一刻も早く、美桜ちゃんにペアのこと話したかったのに。


「それではミーティング始めるわよ」


 こんなときに限ってミーティングかー。


「2年生、3年生は知ってると思うけれど、来月の中旬からインターハイの地区予選が始まるわ」


 しかも、ミーティング内容がインターハイ関連だ・・・。


「3年生にとっては最後のインターハイになるわね。詳しい日程はまだ決まってないけれど、予定では個人戦の地区予選が来月の中旬、団体戦の県予選は6月の中旬にあるわ」


 花恋ちゃんから聞いたけど、よっぽど上手くないと団体戦はレギュラーになれないらしい。団体戦に関しては心配しなくても大丈夫そうだな。


「去年の個人戦から変更点があって、今年から横浜の地区予選は分けずに行うそうよ。もしかしたら、地区予選の日程も下旬にずれ込むかもしれないわね。去年までは2回勝てば県大会に行けたりしたけど、今年は3回以上勝たなくてはいけない可能性もあるわ」


 えぇ・・・。

 なんで今年からそうなったの!? 余計なことしないでよ!


「団体戦はちょっと厳しいかもしれないけど、個人戦は県大会目指して頑張りましょう。それで、何人かからは個人戦のペアについて話がきてるけど、決まってない人は今週までに私か部長に教えてちょうだいね」


 ま、まさかとは思うけど・・・美桜ちゃん、もう言ったりしてないよね・・・。

 美桜ちゃんを見ると目が合い、笑顔でピースしてきた。

 ちょっと美桜さん・・・? それはなんのピースなの!?

 もう言っといたから大丈夫だよ!のピースじゃないよね!?


「橋本さん」


「は、はい!?」


 急に呼ばれて声が裏返る。


「あなた佐藤さんと組むみたいね。頑張ってね」


 やっぱりもう言われてたー!!!

 終わった。完全に終わった・・・。


「でも大丈夫? 少しは慣れてきたみたいだけれど」


 だ、大丈夫なわけないでしょう!

 今ここで言うべきだ! やっぱり無理ですって!


「先生大丈夫です! 特訓する予定なので!」


 特訓!? 何それ初耳なんですけど!?


「そう。ならあなたに任せるわ。でも橋本さん? 頑張りすぎて、怪我だけはしないように気を付けるのよ?」


 いっそのこと怪我してしまおうか。


「は、はい」


 どうしようと花恋ちゃんを見るが、目を逸らされれてしまう。

 ちょ、ちょっと花恋ちゃん! 見捨てないでよ・・・。


「それから部活の練習日について、今週から土日も練習するのでそのつもりでよろしくね」


 はぁ・・・。本当にどうしよう・・・。


「先生、またパパにコーチお願いしてもらいたいんですけど、あとで許可証取りにいってもいいですか?」


 美桜パパがコーチやるの!?


「分かったわ。特訓ってそのことだったのね」


「はい!」


 急に部室がザワつき始めた。


「美桜のパパ来てくれるの!?」

「私緊張しちゃうなー」

「またあのイケメンパパを拝めるなんて!」


 美桜パパめっちゃ人気ですやん。


「はいはい静かに。練習日が増えるけれど、くれぐれも怪我しないようにね」


「はーい!」


「何か質問ある人?」


 もう部活やめていいですか!と言えたら楽なのに・・・。


「高橋さんどうぞ」


 花恋ちゃんが手を挙げていた。


「私のクラスの子が入部するかもしれないんですが、入部届けを受け取っておいてもいいですか?」


 二階堂さんのことか。

 花恋ちゃんが言ってた感じだと、もう入部するのは間違いないだろうな・・・。


「あら、そうなの? じゃあ、あとで取りに来てもらえるかしら?」


「分かりました」


「それじゃあ、部活始めましょうか」


 くそぉ!!! こんな展開になってしまうなんて・・・。

 こうなってしまったからには、もう覚悟を決めるしかない。


「桜ちゃん!」


 どうにもならない状況に打ちひしがれていると、美桜ちゃんに呼ばれる。


「美桜ぢゃーん」


 部活時は敬語で話すってことだったけど、そんなこと今の私にはどうでもいいことだ。


「どうしたの!?」


「去年、県大会行ったなんて聞いてないよー! 今年も行けるかもしれないし、最後の大会なのに私と組んだら・・・」


 高校生活なんて、一生に一度しかないのに・・・。


「なんだ。そんなこと心配してたの?」


 私にとってはそんなことじゃないんだよ!


「私も桜ちゃんと組みたかったんだよ? それに頑張るって言ってくれたし、パパも教えてくれるから大丈夫!」


「本当に・・・?」


 地獄の特訓だったらどうしよう・・・。


「本当だよ! だから一緒に頑張ろう? それに、これで桜ちゃんと組めないってなる方が一生後悔しそうだもん!」


 そんなこと言われたらもう断れないじゃん・・・。


「・・・うん。頑張る・・・」


「なんか弱気な桜ちゃん初めて見た! よしよし」


 そう言って、美桜ちゃんは頭を撫でてきた。

 私はそれを素直に受け入れる。


「でもさ、美桜パパがコーチやるんだね」


「うん! パパすごい上手いんだよ! 高校の頃、個人戦でインターハイ優勝したことあるの!」


 普通にすごい人だった。

 イケメンで金持ちでスポーツ万能ってもうチートじゃん。


「そんな人に特訓されるの? 私死なない? 遺書書いた方がいい? 大丈夫?」


 既に命の危機を感じる。


「大丈夫だって! パパ優しいし、教えるの上手だから!」


 優しいのはこの前泊まった時に感じたけどさ。


「予選、すぐ負けたらごめんね?」


「そんなこと考えないで楽しめばいいんだよ。心配しないで!」


 楽しめるかな・・・。

 私は不安になり俯いてしまう。


「桜ちゃん。私がついてるから大丈夫!」


 そう言って美桜ちゃんが優しく抱きしめてきた。

 あ・・・。ちょっと泣いちゃいそう。

 しかし、ここで泣いてしまったら心配されてしまう。

 私は必死で涙をこらえた。

 私が上手くなればいいだけの話だ。

 少しでも勝ち進めるように、死ぬ気で練習頑張ろう。


「・・・美桜ちゃん」


「なぁに」


「私・・・頑張るね」


「うん・・・。一緒に頑張ろう!」


 この我慢した涙は、勝ったときの嬉し涙の為にとっておこう。

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