24.お泊まり会 PART3
心地よい暖かさを感じながら目を覚ます。
私は美桜先輩に抱きついていた。
そういえば、抱きついたまま寝たっけな。
こんなにも寝心地がいいとは・・・。
ふかふかベッドと、美桜先輩のふんわりボディ、恐るべし。
暖かく感じたのは、美桜先輩も私を抱きしめていたからだ。
昨日、私がお風呂で抱きついた時は、あんなに慌てていたのに、美桜先輩も抱きついたまま寝てるじゃん。変なの。
「すぅ・・・・・・」
美桜先輩の寝息が微かに聞こえる。
別の寝息も聞こえる。花恋ちゃんも寝ているようだ。
カーテンの隙間から陽の光が差し込んでいる。
時間は分からないが、まだ早い時間だと思われる。
・・・もう少し寝ようかな。
「・・・・・・」
美桜先輩の寝顔を見る。
まつ毛長いなぁ。あと唇がアヒルみたいになっている。
こう見るとやっぱり美桜先輩は可愛い。
普段なら抱きつかれるのは嫌だけど、今は逆にこのままでいたい。なんか落ち着く。
「・・・・・・」
私は抱きつく力を少し強めた。
あー。ずっとこうして寝てたいなぁ。
ふかふかのベッドで美桜先輩に抱きしめられながら寝るのは、控えめに言って最高だ。
これから毎週、こうしてもらえるんだから、美桜先輩にご褒美あげちゃうか。
起きてる時だと色々要求されそうだし、今寝てるこのタイミングにしよう。
さて、何してあげようか・・・。
「・・・・・・」
・・・うーん。頬っぺたにチューでいいかな。
私は寝ている美桜先輩の頬に唇をつけた。
そこで眠さの限界を迎えたのか、また眠ってしまった。
二度寝から目を覚ますと、美桜先輩も起きていて座ったまま私を見つめていた。
「・・・おはよう美桜ちゃん」
「お、おはよ」
「ふぁぁぁ」
私は大きな欠伸をして、花恋ちゃんの方を向く。
「可愛い寝顔だ」
花恋ちゃんはまだ寝ていた。
「今何時ー?」
「9時過ぎたぐらいだよ」
まだBBQまでには時間あるなぁ。
ちょっと早く起きすぎたかな。あと1時間は寝れる。
というわけで。
「美桜ちゃーん」
私は美桜先輩においでおいでと手招きをする。
「ど、どうしたの?」
「あと1時間寝るからギューってして」
「えぇ!?」
なんで驚いてるの。昨日寝る時もしてたんだから、もう今更だと思うんだけど。
「わ、私はもう起きるよ」
「ダメー」
私は座っている美桜先輩に抱きつき、無理矢理押し倒す。
「ちょっと桜ちゃん!?」
ベッドに倒れると、美桜先輩の顔がすぐ近くにあった。
「じゃあ1時間後起こしてね」
「1時間このままなの!?」
ちょっと美桜さん? あんまりうるさいと寝れないじゃない。
「美桜ちゃん」
「は、はい」
「静かにしないとその口塞いじゃうよ」
私はいつしか漫画で見たセリフをそのまま言ってみた。
「ッ!!!」
美桜先輩がみるみる赤くなっていく。
ほほう。漫画と同じように赤くなるね。
「なななななっ!」
今にも頭から煙が出てきそうだ。
漫画の続きを試してみよっと。
「悪さをしている口はこの口かな?」
私は美桜先輩の顎を持ち上げた。いわゆる顎クイってやつだ。
「ちょっ!!」
そして私は美桜先輩に顔を近づけ──。
ニヤッ。
私は寸前で動きを止めた。
「やっぱ起きようかなー」
美桜先輩は顔を真っ赤にして、口をパクパクしている。
「なぁに。美桜ちゃん。キスされると思ったのー?」
「・・・桜ちゃんのバカー!!!」
ウゲッ。
枕を投げられ、顔面に直撃する。
「・・・どうしたんですかぁ」
うるさくしていたせいか、花恋ちゃんが起きる。
「おはよー、花恋ちゃん。美桜ちゃんが朝から暴れてるんだよー。本当に困った子だよねー」
「だ、誰のせいよ!」
うーん・・・。誰だろう?
私かな? 私じゃないよ。私だよ。
「美桜ちゃんが勝手に興奮してただけじゃん」
「あ、あんなことされたら誰だってあーなるよ!」
あんなこととは一体何のことだろうー。
「あんなことってなーに? 詳しく教えてー」
「う、うるさい! 顔洗ってくる!」
そう言うと美桜先輩は荒々しく部屋を出ていってしまった。
「また意地悪したの?」
ちょっと花恋ちゃん? あれはご褒美だよ?
「意地悪じゃないよ。お口が悪さしてたから、顎クイしてキスするふりをしただけだよ」
「どこでそんなの覚えたの。それ意地悪だよ」
私は意地悪したつもりはないぞ!
今頃、顔を洗いながら喜んでいるはず!
結局寝ることを諦めた私は、歯を磨き顔を洗う。
それからBBQの時間まで美桜先輩達とおしゃべりしていた。
「そういえばさ、5月に自然教室?みたいのあるらしいんだけど」
「あぁ。あるね。私の時は2泊3日で静岡だったよ」
「へぇ。私達も2泊3日だけど、どこ泊まるんだっけ? 横浜がいいなぁ」
「ここ横浜でしょう? 長野行くらしいよ」
「なんだ、中華街じゃないのかぁ」
「もう自然教室でもなんでもないじゃん」
なんでよ! 北京ダックとか食べて、生物という自然に感謝するんだよ!
毎年同じ場所かと思ったけど、その年によって行く場所が違うらしい。
「もうグループ決めとかしたの?」
「まだだけど」
「決め方が変わっていなければ、学年全員体育館に集まって、グループ決めると思うよ」
なにそれめんどくさそう。
「クラスで決めればいいのにー」
「でも、他のクラスの子と仲良くなれるチャンスだし楽しそう!」
私は別にいいかなー。
そんな大人数でグループ決めるとか、絶対溢れる人とか出てきそうだけど・・・。
「人数とか決まってるの?」
「確か4人から6人だったかな?」
まぁ、大体そのぐらいか。
「じゃあ花恋ちゃん一緒のグループになろうよ」
「うん! いいよ!」
ひかりも入れてあと1人か。
「私の友達1人入れるから、花恋ちゃんも友達も呼んでよ。あと1人呼べばそれでグループできるし」
「わかった! 声掛けてみるね」
これで私のグループはできたも同然だ。
「私も桜ちゃんと旅行したいなぁ」
旅行かぁ。
お金かかるし、学生にはきつそうだけど。
「美桜ちゃんが全部セッティングして、旅費も出してくれるならいいけど」
「が、頑張るね!」
「美桜先輩! 頑張らなくていいです!」
花恋ちゃんが心配な眼差しを美桜先輩に向ける。
あぁは言ったものの、本当に頑張っちゃいそうで私も心配になってくる。
私と行けるなら、なりふり構わずって感じになりそう。
「そろそろ時間じゃないですか?」
「本当だ。じゃあ行こっか!」
私達は庭へ行くことにした。
靴を履き替え玄関から庭へ行くと、既に色々と準備されていた。
「みんなおはよう!」
美桜パパが元気よく挨拶してきた。爽やかイケメンだな・・・。
「おはようございます。お邪魔させていただいてます」
「そんな堅くならなくていいぞ! お腹空いただろ? 美味しい肉用意したからいっぱい食べてくれよ!」
「ちょっとパパ! そんな張り切らないでよ!」
張り切っている美桜パパを見られるのを、美桜先輩が恥ずかしがる。
「たまにはいいじゃないか! ほら、美桜は割り箸とか2人に渡しなさい」
いいじゃんいいじゃん美桜パパ。
休日はいつも寝て食ってぐーたらしてる私の父親とは大違いだ。
まったく! 娘が真似したらどうするんだ!
とりあえず、来週から毎週お世話になるし、ちゃんと挨拶しておくか。
「あの」
「どうした? 君がさくらちゃんだろ? 美桜が口を開く度、さくらちゃんさくらちゃんって言ってるぞ」
「パパまでやめてよ!!!」
どうやら美桜先輩の頭の中は、私で埋め尽くされてるらしい。
「来週から、毎週週末に泊まらせてもらいます。ご迷惑をお掛けするかもしれませんが、よろしくお願いします」
「ママから聞いたよ。美桜と仲良くしてやってな!」
「はい」
これで大丈夫だな。
あとは心ゆくまであのベッドを味わえばいい。
「そんなしっかり言わなくてもいいのに」
「そこはしっかりするよー。態度悪いから泊まらせないなんて言われたくないし」
「そんなこと言わないと思うけどな」
ほら、私しっかり者だからさ。そこらへんはね? ちゃんとしちゃうのよ。
「肉焼けたぞー!」
待ってましたー!
「全部食べてやるー!」
「ダメだよ! ちゃんと野菜も食べて!」
なんか親みたいなこと言いますね美桜さん。
「花恋ちゃん、ちゃんと野菜食べなきゃ大きくならないよ! だから私の分の野菜も食べてね!」
「そんなこと言うなら、さくらちゃんはお肉食べちゃダメだからね」
それは困るからやっぱり野菜も食べることにしよう。
「久しぶりにワイワイと食事ができて楽しいわね」
「そうだな。お姉ちゃんが家を出てからは、こうやって庭で食事することも少なくなったからな。美桜が友達を連れて来る時ぐらいだな」
お姉さんか・・・。
「お姉さんって、どんな方だったんですか?」
「い、いいよそんなこと聞かなくて」
あらあら美桜ちゃん。聞かれたくないことでもあるのかなー?
「いいじゃん別にー」
「そうだなー。とにかく面倒見が良かったな。美桜の面倒をよく見てくれて助かっていたよ」
「そうね。美桜はいつもお姉ちゃんにくっついてたわね」
それって・・・。
なんか今の私、お姉さんの代わりにされてるのでは・・・?
「や、やめてよ! いいでしょ私の話は!」
「もっと美桜ちゃんの小さい頃の話聞きたーい!」
「私も聞いてみたいです!」
やっぱり、今みたいに元気な感じだったのかな? あと男子からモテてそう。
「小さい頃の美桜は、今と違って引っ込み思案だったな」
え、意外すぎる。
気が弱い美桜先輩。なんか想像できない。
「いつもお姉ちゃんの後ろに隠れてたわね」
「わ、私トイレ行ってくる!」
自分の過去の話で恥ずかしさに耐えきれなくなったのか、美桜先輩が家の中へと逃げていく。
「なんか今の美桜ちゃん見ると想像できないです」
「お姉ちゃんが大学に進学して、1人暮らしを始めた頃からかしらね」
「そうだなー」
いつも一緒だったお姉さんが、いなくなってから変わったのか。
「お姉ちゃんに何言われたかは話さないけれど、それがきっかけで変わったわね」
「だいぶ明るくなって、自分から色々やるようになったな。最初はぎこちなかったけども」
美桜先輩にもそんな過去があったのか。
もしかしたら、服の時も過去の自分を重ねていたのだろうか。
もしそうだなら、改めて感謝を伝えようかな。
でも、あの時の話題を出すのは私としてもちょっとばかし恥ずかしい・・・。
「いつもさくらちゃんのことばっかり話しているけど、美桜のやつベタベタしたりしてないか?」
やはり親は親だ。子供のことは何でも分かるらしい。
「そ、それは・・・。あはは・・・」
私は思わず苦笑いになってしまう。
「ごめんねさくらちゃん。迷惑だったら言っていいのよ?」
まぁ、出会ったばっかの時はかなりウザいと思ったけど・・・。
今は別に大丈夫かな。
ここで迷惑とか言ったら泊まりにくくなる。
「美桜ちゃんには色々お世話になってますし、そんなことないですよ。いつも仲良しです」
「そう? なら良かったわ」
ジー・・・。
・・・おやおやー?
なんだか、隣からの視線が気になるぞー???
その視線の主の花恋ちゃんを見る。
「いつも意地悪ばっかしてるくせに」
美桜パパママに聞こえないぐらいの声で花恋ちゃんが言う。
「そんなことないよー」
すっとぼけると花恋ちゃんは溜息をついていた。
「これからも美桜と仲良くしてあげてな?」
「はい。もうずっと仲良くしちゃいます」
「さくらちゃーん?」
花恋さん? 今日なんか刺々しくないですか?
心配しなくても何も企んでないですよ? 養ってもらおうかなと思ってるぐらい!
小さい頃の話が終わったことを察知したのか、当の本人が戻ってきた。
「お、終わった?」
「終わったよー」
私は美桜先輩に向き直る。
「美桜ちゃんありがと。これからもよろしくね」
「えぇ!? 急にどうしたの!?」
服の件のお礼はこれで終わりということで。
本当に感謝してる。
ありがとう。『美桜ちゃん』。
BBQが終わり、部屋に戻った私達はこのあとどうしようかと話していた。
時刻は13時を回ったところ。
夕方に帰ることとなっているがまだ時間がある。
「どうしよっか」
「寝る」
お腹もいっぱいになったことだし、寝るしかないでしょ! さぁ、寝よう!
「さくらちゃん。食べてすぐ寝たら牛になっちゃうよ」
それよくお母さんに言われてたな。
「大丈夫。みんなで寝れば怖くない」
「赤信号、みんなで渡れば怖くないみたいに言わないの」
赤信号はみんなで渡っても、普通に怖いと思うのは私だけ?
「えー。じゃあ何するのー。寝るー?」
「一旦寝ることから離れなさい!」
今、このベッドで寝とかないと金曜日まで寝れないんだよ! 分かってるの!?
「そういえば総体の予選っていつからなんですか?」
早退の予選? 何の大会だそれ。
「何それ」
「総体ってゆうのは総合体育大会、インターハイのことだよ」
あぁ。インターハイか。
うちの部活は弱いからあんまり縁がないのでは?
「全国目指しちゃいます?」
「無理無理。多分5月の中旬ぐらいかなー」
約1ヶ月後か。
私達も予選出るのかな?
「1年生も出るの?」
「出るよー。でも、誰か一人は2年生か3年生と組むことになるかな」
今年の1年は私含めて5名だ。ダブルスだから1人余ることになる。
「ペアって誰が決めるんですか?」
花恋ちゃんはかなり興味があるみたいだ。
「基本的には私と桜木先生が決めるけど、一応誰と組みたいかは皆に聞いていくよ」
そこらへんはしっかりしてるんだな。
「美桜ちゃんは組みたい人決まってるの?」
部活の練習試合では副部長と組んでいたけど。
「うーん。それが特に決まってないんだよね。ほら、うちの部活弱いじゃん? だからみんな楽しめればいいって感じで、固定でペア組んでる人少ないんだよね」
楽しむことがモットーならそれでいいとは思うけど、真剣な部活だったら絶対ありえないだろうな。
「そうなんですね」
花恋ちゃんは中学から前衛やってるって言ってたっけなぁ。
私もどちらかと言えば、前衛の方がやりやすい気がする。後衛は振り回されたら移動が大変すぎ。
そういえば、確か美桜ちゃんは後衛だよな・・・。
「ねぇねぇ美桜ちゃん」
「ん?」
「私とペア組もうよ」
美桜ちゃんと一緒なら楽しく試合できそうだし。
でも、組むとなったら、短期間でまともに試合できるぐらいにならなきゃいけない。
「えぇ!?」
「さくらちゃん大丈夫? さすがにキツいんじゃないかな?」
それは分かっているけど、私は美桜ちゃんがいい。
「頑張って練習する」
言ったからには、明日の部活からちゃんと練習しなきゃなぁ。
「まぁ、美桜ちゃんが嫌じゃなければだけど・・・」
普通なら高校からソフトテニスを始めた人と、組みたいとは思わないはず。ましてや先輩が、だ。
「じゃあ、練習一緒に頑張ろうね。私の最後の大会、桜ちゃんに前衛やってもらうね」
な、なんか頼もしく見える・・・。
さすが部長と言ったところか。
「本当にいいんですか?」
花恋ちゃん。心配はいらないよ。
私達、最強になるから。
「うん。私も桜ちゃんと組めたらなぁって思ってたし」
なんだ相思相愛じゃないか。頼むぜ相棒!
「目指せ全国制覇ー!」
やっぱり目標は大きく掲げなきゃね!
「それは無理だと思うけど・・・」
美桜ちゃんと花恋ちゃんが、声を揃えて言うのだった。




