20.The color inside me
──ピンポーン
家のチャイムが鳴ったような気がして目を覚ますが、どうせお母さんが出てくれるだろうと思い、ほんの少しだけ開いた目をまた閉じる。
──ピンポンピンポーン
またしてもチャイムが鳴る。
どうしてお母さん出てくれないのと思ったが、今日仕事だと言っていたことを思い出す。
私は寝ているので留守ということにしておこう。
そうして寝ようとすると、次は電話の着信音が部屋に鳴り響く。
なんなの。なんなのよ! どうしてみんな私の睡眠の邪魔をするの! やめてよ!!!
軽くキレ気味で携帯を確認すると、着信元は美桜先輩だった。出ないで携帯を放り投げる。
しばらくすると携帯は鳴り止んだ。
休日まで私の邪魔をしてくるなんて・・・。
次会ったらちょっと本気で怒ってやろうかと思っていると、放り投げた携帯がまた鳴り始めた。
ぐぬぬぬ・・・。
そこまでして邪魔をしたいのか。
これは文句を言わなければ!
「なんですか誰ですか私は寝てるんです邪魔しないでくださいおやすみなさい!」
早口でまくしたてて、電話を切ろうとする。
『さくらちゃん!』
おや? この声は・・・?
画面を見て着信元を確認するが、うさぎ先輩と表示されている。
「花恋ちゃん・・・? なんで花恋ちゃんが美桜先輩の携帯を?」
一体何がどうなってるんだ! あのお人形さんは私の物なのに!
『朝に美桜先輩が連絡したみたいだけど、返事がなかったらしくて』
そういえば朝にも電話があったような気がする。もちろん出なかったけど。
『それで美桜先輩と合流して、もうさくらちゃんの家の前なんだけど・・・』
え? なんで?
あ・・・。そういえば今日、私の家に遊びに来るんだった。すっかり忘れてた。てへぺろ。
「ごめん今起きた。ちょっと待ってて。鍵開けるから花恋ちゃんだけ家の中上がっていいよ」
『ちょっと私は!!!』
ひえぇー。相変わらずうるさいなこの人は。なんで聞こえてるの?
『ごめんねさくらちゃん。美桜先輩がスピーカーにしてって言うから・・・』
美桜先輩の方が一枚上手だったか・・・。
チッと舌打ちをするとそれも聞こえてたらしく
『今舌打ちしたでしょ! 私一応先輩なんだけど!』
一応ってつけてる辺りがもうなんとも言えない。
「今行くのでちょっと待っててください。それか帰ってもいいですよ」
『帰るわけな──』
喋ってる最中に電話を切り、部屋から出て玄関へ向かう。
このまま玄関に出たら、間違いなく美桜先輩はあーだこーだ言いそうなので、ちょっと喜びそうなことを言って一瞬で黙らせよう。あの先輩チョロいからな。
鍵を開けると予想通り、美桜先輩がプンプンしてたのでそれをまずは手で制す。
「美桜先輩。昨日は先輩が遊びに来るって思うと楽しみで寝れなかったんです。寝坊してごめんなさい。美桜先輩、会いたかったです」
これ以上ない笑顔で美桜先輩を出迎える。
「さ、桜ちゃん・・・」
ほーら、とっても嬉しそう。今にも嬉し泣きしそうだよ。
「ささ、先輩。上がってくださいな。花恋ちゃんもどうぞ」
すっかり気分が良くなり、お邪魔しまーすと美桜先輩が家へ上がる。
「フッ。チョロいなぁ」
美桜先輩に聞こえないぐらいの声でボソッと言ったつもりだったが、花恋ちゃんには聞こえていたらしい。
「さくらちゃーん」
そういうのは良くないよと花恋ちゃんに怒られてしまった。
とりあえず私の部屋に案内をして適当に座ってもらう。これにて私は御役御免となる。
「ではではー。おやすみなさい」
家にも上がってもらったし、あとは若い二人で楽しんでくださいな。
「じゃ、じゃあ私も一緒に寝ようかな」
何を考えたのか、美桜先輩が私のベッドにお邪魔しまーすと入ってくる。
「え? 何してるんですか?」
「い、一緒に寝ようかと」
「なんでですか?」
「一緒に寝たいから、かな」
はぁ。なんで? 眠いの?
「先輩も眠いんですか?」
「え!? そ、そうだなー。早起きしたから眠いかなー」
うーむ・・・。まぁ、寝坊したのは私だし、家の前で待たせてしまったからなぁ。
かと言って床で寝てもらうのも悪いような気がするけど、私もベッドで寝たいしなぁ。
「まぁ、そういうことならいいですけど」
「え、いいんだ」
美桜先輩と花恋ちゃんが声を揃えて言う。
私変なこと言ったかな。
私のベッドは寝相が悪いからと、親がセミダブルにしてくれた。なので、一応二人で寝ても窮屈ではない。
「いいですけど」
美桜先輩はというとなぜかベッドの上で正座をしている。え? 正座のまま寝るの?
「寝ないんですか? 私は眠いので寝ますよ」
そう言って寝る体勢に入る。
「さくらちゃん! 私も一緒に寝てもいいかな?」
花恋ちゃんが小さなクマのぬいぐるみを抱えながら私もと言う。どこから出てきたのそのクマさん。そしてぬいぐるみ抱えてる花恋ちゃん可愛すぎなのでは?
「いいよおいで花恋ちゃん」
さぁ! と両手を広げる。
もちろん花恋ちゃんは私のお人形さんなので、一緒に寝るのは当たり前だよね!
「わ、私が桜ちゃんの隣なんだから!」
いや、なんでもいいけどなんだこれ。
なんで私のベッドに3人で寝ることになるの。
「あのぉ、遊びに来たんじゃないんですか?」
「寝ようとしてる本人がそれ言う!?」
なぜだか2人にものすごい勢いでつっこまれる。
何この2人。息ピッタリすぎて逆に怖い。
「まぁ、なんでもいいですけど私は寝ます。夕方になったら起こしてください。おやすみなさい」
私は寝ようと決めたら、カップラーメンが出来上がるより早く寝ることができるのだ。
何か美桜先輩と花恋ちゃんが話しているが、既に眠りに落ちそうで耳に入ってこない。
あ・・・、もう限界だ・・・。
意識が段々と遠のいていく・・・。
──。
───。
────。
─────。
・・・・・・ん。
誰かに体を揺すられて目が覚める。
もう夕方なのか・・・。
まだ眠かった私は、目を閉じながら起き上がり、大きく欠伸をする。
「もう夕方? 2人共寝てたんですか・・・?」
眠い目を擦ってゆっくり開くと、青色の大きな瞳と目が合った。
「うわぁぁぁ! ってくぼちゃん・・・?」
「はい。くぼちゃんです」
「気持ちよく寝ているところ起こしてしまいすみません」
「いや、別にいいけどさ」
周りを見渡してみると、初めてくぼちゃんと会った場所だった。
「ここは・・・」
「はしもとさんの中ですよ」
「ですよね・・・」
ここに来るのは2回目だが、初めての時と景色が全く変わっていない・・・ってあれ?
「なんか違う」
何かが違うことに気付いた私に反応することなく、くぼちゃんは私のことを見つめる。
「・・・色?」
前回は空がよく分からない色でキラキラしている感じだったが、今回は淡いピンク色でキラキラしている。
「淡いピンク?」
「よく気付きましたね」
やっぱりそうだったのか。
でも、なんで急に色が変わったんだ?
そう考えながらくぼちゃんを見ていると、ワンピースが家の前で会った時と同じ淡いピンク色のままだった。
「そのワンピース、ピンクのままだ」
「そうですよ」
確かくぼちゃんは、私の感情の色にしてみましたって言ってたような・・・。
もしかして、この空の色もキラキラもそうなのかな?
「その通りです」
心を読まれたがそれについて反応するのはやめた。
「そうなんだ。なんか不思議な場所だね」
「不思議な場所も何も、はしもとさんの中なので」
そう言われましてもね・・・。
くぼちゃんが続ける。
「例えば、はしもとさんが悲しんでる状態でここに来たら哀色に変わりますし、この前のような感情であれば今の色になります」
「私の感情一つで色が変わるってこと?」
「そうです」
だから私の中ということなのだろうか。
「最初に会った時のよくわからない色は?」
「それははしもとさん自身が、ここをどこだか理解できていなかったからです」
なるほど・・・。
全て納得できる訳ではないが、少しだけ分かったような気がする。
「それより2人はここにいないんだね」
「はしもとさんの中にはボクしか来れませんよ。2人は、はしもとさんの寝顔を撮影したりして楽しんでいます。今回もヨダレが垂れてましたよ」
起きたらすぐに美桜先輩の携帯を奪うことを決める。花恋ちゃんはいいや。私、いつもヨダレ垂らしてるな。
「今回はどういうご用件で」
くぼちゃんが現れるということは何かあるってことだ。
「うさぎ先輩の家に泊まってください」
これはまた単刀直入に言ってくるな・・・。
美桜先輩が泊まれ泊まれと言うだろうなとは思ったけど、くぼちゃんまで言うのか・・・。
「私、家から出たくないんだけど」
「でしょうね。ですが、はしもとさんは断れませんよ」
「なんで?」
寝顔の写真を人質にされるとか? 力づくでも消してやる。
「違います」
「じゃあなんでさ」
「もちろん秘密ですが、その時になったらすぐにわかりますよ。大したことではないです」
大したことじゃないなら教えてよ。
というかこれは決定事項なのかな・・・。
くそぉ。家で寝るという私の大事な使命が!
「はぁ・・・。わかったよ。泊まり行けばいいんでしょ」
「はい。きっと今よりも仲良くなれますので」
フフフと怪しげにくぼちゃんが笑う。
これ以上ベッタリされても困るんだけどなぁ・・・。このままじゃ合体しちゃうよ。
「いいことを教えてあげましょう」
「本当にいいことでござるかぁ?」
でも、くぼちゃんからこうして言うのは珍しい?かも。
「うさぎ先輩の家のベッドはとてもふかふかで、はしもとさんも気に入ると思います」
なんであんたがそんなこと知ってるんだよ。
ふかふかのベッドは確かに魅力的だな。あんたがそこまで言うのなら、泊まってあげないこともないんだからね!
「まぁいっか。ところでくぼちゃん」
「なんでしょうか」
「この前もまた逃げたからおしおき!」
そう言ってくぼちゃんの髪の毛をワシャワシャする。
そんなくぼちゃんは嫌がるどころか喜んでいる。本当子供っぽい。いや、子供なんだけどさ。
くぼちゃんの乱れた髪の毛を手櫛で直しながら、ボーッとしているとくぼちゃんが振り向く。
「どうかしましたか」
「いや、なんかくぼちゃんと会ってから、私も少し変わったかなぁって」
美桜先輩のおかげでもあるけど、その美桜先輩と仲良くなるように言ったのはくぼちゃんだしなぁ。出会ってなければ平凡な日常を過ごしていただろう。
「案内人ですから」
私の考えを読んだのかくぼちゃんが言う。
「そう・・・だったね」
くぼちゃんの頭を撫でながら、思いにふける。
・・・・・・。
「さてと、美桜先輩はそろそろ私と話したくてうずうずしてる頃だろうし、起きようかな」
「うさぎ先輩によろしくお伝えください」
「いや、無理でしょ」
こんなこと話しても信じるわけがない。
「では、また会いましょう。はしもとさん」
「うん。またね」
そうして私は目を閉じた。
─────。
────。
───。
──。
目を覚ますと2人は、ベッドではなく床に座って談笑していた。
さて、まずは・・・。
「美桜先輩。私の寝顔撮りましたね。今すぐ消してください」
急に私に話し掛けられた美桜先輩はびっくりしている。
「な、ななななんでそれを知ってるの!? 起きてたの!?」
寝てたけど正確には起きてたかな? いや、寝てたか。
「消してくれますよね?」
ベッドの上に立ち上がり、威圧的な態度で美桜先輩を見下ろす。
「じゃ、じゃあこのあと私の家に泊まってくれるなら消すけどー?」
やはりそう来たか。
ここまでは想定通り。
「行きませんよ。家から出たくないですし」
くぼちゃんには泊まれと言われたが、素直に泊まることを承諾するつもりはない。
「さくらちゃん。私は美桜先輩の家に泊まる準備してきたし、せっかくだから泊まろう?」
なん・・・だと・・・?
くぼちゃんが言っていたのはこのことか・・・。
花恋ちゃん1人で美桜先輩の家に泊まらせることは絶対許容できない!
「ま、まぁそれなら行ってあげなくもないけど」
「やったー!」
花恋ちゃんが喜んでいる。
こんな可愛いお人形さんにお願いされたら断れないよね!
「私がお願いしたらすぐ断るのにー!」
「うるさい先輩うるさいです」
そうして私は仕方なく、花恋ちゃんと一緒に美桜先輩の家に泊まることとなった。




