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恋の案内人  作者: 翁
出会い
23/255

19.癒し系ドール

 入部してから1週間程過ぎ、練習にも慣れてきた。

 結局、仮入部をしていた他の1年生も入部することとなり、今年のソフトテニス部の新入部員は5名となった。


 授業が終わり放課後となり、部室へ向かおうと教室を出た私は、どうやって土日をゴロゴロして楽しもうかと考えていた。

 今日の練習を終えれば、明日明後日は休日だ。


「さくらちゃん!」


 声を掛けられ振り向くと、そこには隣のクラスの高橋さんがいた。


「一緒に部活行こ!」


 そう言うと高橋さんは隣に並んで歩き始めた。


「高橋さんは今日も可愛いねぇ」


 私もそんなに身長があるわけではないが、高橋さんは私より頭一つ分程小さい。

 可愛い可愛いと頭を撫でる。


「そうやって頭撫でて子供扱いしないで! それにお互い名前で呼ぼうって決めたじゃん!」


 どうして部長といい、うさぎ先輩といい、美桜先輩といい、みんな名前で呼びたがるんだ。あ、全員同じ人だった。

 ごめんごめんと謝りながら、花恋ちゃん可愛いと懲りずに頭を撫でる。


 ムーと膨れている子は高橋花恋ちゃん。

 新しく入部した子の中で、唯一話しかけてきてくれる心優しくて可愛い子だ。

 他の子達はなぜか私に話しかけるのを遠慮している感じがする。もしかして私嫌われてる?

 なんでだろうねと考えると、部活中、私にいつもアヒルの子供のようについてくる美桜先輩のせいだという結論に至る。普通、美桜先輩がアヒル側だと思うんだけどなぁ。

 ちょっとぐらいなら別にいいんだけど、今週の練習では常に私についてくる。どんだけ私のこと好きなの。

 この状態がずっと続いて、「お前美桜先輩のなんなの?」と他の先輩方に目をつけられたりしないかしら。体育館裏に呼び出されたらどうしよう・・・。

 私は美桜先輩のなんなのだろうか。後輩以外に何かある?


 話は戻るが、花恋ちゃんはどんな子と聞かれたら、即答でお人形さんと答えることができる。

 茶色く染められた髪はいつもツインテールで、目はクリクリしている。さらにポイント高いのはソックスがニーハイということだ。しかもオマケにアニメ声ときた。

 一家に一人はこんなお人形さんが欲しいよね。花恋ちゃん我が家でお待ちしてます。

 そんな花恋ちゃんは私的に癒しの存在だ。見てるだけでとても癒される。

 ヒーリング効果のある可愛いお人形さん(ボイス付き)とか、絶対売れる気がする。お値段は100万円ぐらいにしておこう。とても安いでしょ?

 癒し系ドールの花恋ちゃんを明日家に呼んじゃおうかなと考えていると、美桜先輩が私はいつ行っていいの!と言ってるような気がしたので、それをいつかはいつかですよと頭の隅に押し避ける。


「ラケット新しいの買ったの?」


「うん! お姉ちゃんのお古を使ってたけど、せっかくだから自分の買ったんだ」


 えへへと大事そうに買ったラケットを撫でる。

 へー、お姉ちゃんいるのか。

 私は一人っ子なので、たまにお姉ちゃんがいたらいいなぁと思う時がある。

 母親におつかい頼まれたり、家事を手伝わされたりするので、そんな時お姉ちゃんがいれば私やらなくて済むじゃん? なのでやっぱりたまにじゃなくて常に欲しいです。

 誰か私のお姉ちゃんになってくれないかなぁ。

 美桜先輩が私がなるよ! と言ってる気がした。いい加減出演料取りますよ。


「結構歳離れてるの?」


「そうだね。今は大学3年生だよ」


 まあまあ離れていた。

 大学3年ってことはもう成人してるのか。

 私達が成人するまであと4年はあるが、あっという間なのだろうか。なんか実感湧かないなぁ。

 一日一日、一分一秒たりとも無駄にしないように生きよう。さて、土日は何時まで寝てやろうかしらん。


 そうこうくだらないことを考えていると昇降口に着いた。

 そこには同じクラスのひかりがいて、靴を履き替えているところだった。


「ひかりー。今日は何のお菓子買って帰るの?」


「おー。さくらかー。・・・ん?」


 ひかりが上履きを持ったまま固まる。


「何? どうしたの?」


「人形連れてどこ行くんだ?」


 何言ってんだこいつと思ったけど、私の隣にいる花恋ちゃんを見ながら言っている。


「誰が! 人形!! ですってー!!!」


 花恋ちゃんは自分が人形と言われたことに、地団駄を踏みながら憤慨している。やだなにこの子可愛すぎる・・・。


「お、おい、さくら。に、人形が喋ったぞ・・・」


 ひかりは冗談で言ってるのか、そうじゃないのかよく分からない。


「だ・か・ら! 人形じゃないわよー!!! もー!!!」


 両手を上げてプンプン怒っている。

 待って、本当に可愛すぎて私の中で何か目覚めてしまいそう!


「このお人形さんは私の家に来てもらうからひかりにはあげないよ」


 誰にも渡さんと花恋ちゃんを抱き寄せる。


「ちょっとさくらちゃんまで!」


 あいたー。花恋ちゃんがポカポカ叩いてくる。


「じゃあなー」


 いつの間にかひかりは私達に背を向けて歩き始めていた。あいつ本当マイペースだな・・・。


「私達も行こっか」


「ちょっとさくらちゃん! 私怒ってるんだからねー!」


「ごめんごめん」


 まったくもう!と言う花恋ちゃんをなだめながら、部室へと向かう。



 まもなく部室へ到着するというところで、前から誰かが走って近づいてくる。その誰かとは言わずもがな美桜先輩だ。


「桜ちゃん!」


 抱きついてこようとしたところ、瞬時に花恋ちゃんと立ち位置を入れ替えてよける。


「うげっ」


 おぅ・・・。花恋ちゃんもそんな声出すのね。


「あれ? 桜ちゃん背縮んだ? ・・・ってごめん花恋ちゃん!」


 私からも、本当にごめん花恋ちゃん。


「ちょっと桜ちゃん! なんでよけるの!」


「あのですね先輩」


 いいですかと前置きをして、コホンと軽く咳払いをする。


「先輩がずーーーっと私にくっついてるせいで、花恋ちゃん以外の一年生が私を避けてるんですよ! あと、他の先輩に私が目をつけられたらどう責任とってくれるんですか!?」


 よし、言ってやった。これで少しは反省するはず。


「せ、責任?」


 んー? 何か責任という言葉を履き違えてそうな感じがするぞー?


「はい。私が体育館裏に呼び出されてボコボコにされたらどうするんですか」


 喧嘩しないでと、花恋ちゃんが怯える子犬のように、私と美桜先輩の顔を心配そうに交互に見る。大丈夫だよ花恋ちゃん。これは躾だから。


「私が守るよ!」


 いや、そういうことじゃないんだけど・・・。

 この先輩は頭のネジがどこか外れている。いや、ぶっ飛んでる。


「先輩。私が部活でハブられたらどうするんですか。部活辞めちゃうもなー」


 辞めたら困るでしょと片目で美桜先輩を見る。


「そんなこと絶対ないから大丈夫! 2年生の子も同級生も『本当桜ちゃんのこと好きだよねぇ』って言ってたし! だから安心して!」


 それはもう呆れられてるのでは・・・。

 まぁ、それならハブられる心配はないと思うけど・・・。


「とにかく! あんまり学校ではベタベタしないでください! 恥ずかしいので!」


「学校じゃなければいいの!?」


 やっぱりダメだこの人。


「学校じゃなくてもダメです!」


 そんなぁと嘆いてる先輩を置いて、部室へ入ろうとすると花恋ちゃんに呼び止められる。


「さ、さくらちゃん! 美桜先輩が泣きそうだよ!」


 花恋ちゃんがどうしようどうしようとあたふたしている。


 はぁ・・・、本当にこの人は・・・。


「美桜先輩。今度遊びに行ってあげるので早く準備しましょ」


「本当!? いつにする!?」


 一気に元気になる美桜先輩を見て、なんかこうなることを分かってて、わざとやってるのではないかと思ってしまう。


「いつかはいつかです! ほら行きますよ!」


 はーいと渋々立ち上がる先輩を連れて、部室へと入る。



「美桜先輩っていつもはしっかりしてるのに、さくらちゃんのことになるとすごい変わるよね」


 着替えながら花恋ちゃんが小さい子供みたいと言う。


「本当に困ってるから花恋ちゃんもらってくれない?」


 切実にお願いしていると、「ちょっとどういうことよ!」と美桜先輩が言ってくるが無視する。盗み聞きはよくないですねぇ。あとでお仕置だな。

 好かれるのは別に悪い気がしないからいいんだけど、もう少し場をわきまえてほしい。

 でも、たまには飴も与えないと酷くなる一方かな・・・。

 先週、一緒に出掛けたばっかなんだけどなぁ。仕方ない。


「美桜先輩ちょっと」


 着替え終わった私は、美桜先輩に声を掛ける。


「ま、また怒るの?」


 え? 私ってそんなにいつも怒ってるの? おかしいなー。


「怒ってません。先輩が学校でベタベタするのを我慢してくれるなら、明日か明後日遊んであげてもいいですよ」


「本当!? 我慢する!」


 まるで餌が待ちきれない犬のようだ。

 お手と手をだしたら乗せてきそう。


「でもですね、私はゴロゴロしたいので、私の家でならいいですよ」


「さくらちゃん。それ遊ぶって言わないんじゃ・・・」


 お黙り!と花恋ちゃんに睨みをきかせる。


「い、いいいい家に行っていいの!?」


 ちょっとー、なんでそんな興奮してるの美桜先輩ー。落ち着いてー。


「まぁ、この前約束しましたし」


 目を逸らしながらそう言うが、心の中ではあんなこと言わなきゃ良かったと後悔の念に駆られる。


「じゃあじゃあ! 泊まってもいい!?」


「は? 何言ってんですか部屋狭いですし布団ないしダメに決まってんじゃないですか」


 もちろん却下ですと伝えるとシュンと落ち込む。しかし、それでめげないのが美桜先輩。


「じゃあ! 明日桜ちゃんの家に遊びに行って、そのあと私の家に泊まるっていうのはどうかな!?」


 やっぱりこうなる。

 なんでそんなに泊まりたがるんだ。


「家から出たくありません」


「そこをなんとかぁー」


 お願いと私に縋ってくる。近い近い鬱陶しいしいい匂いだから離れてほしい。


「まぁ100%ないですけど、私の気分が変わったらいいですよ」


「残りの可能性を私は信じるよ!」


 あのー、美桜さん? 残りの可能性ゼロなんですけど計算できます?

 大学の入試、大丈夫かなと心配になってくる。


「私もさくらちゃんの家、遊びに行っても・・・いいかな?」


 横で話しを聞いていた花恋ちゃんが私も行きたいと言ってきた。

 癒し系ドールの花恋ちゃんが我が家に・・・。


「もちろん! 花恋ちゃんに来てもらえるなんて嬉しい! むしろこっちからお願いします!」


「ちょっと桜ちゃん! 私と扱い違いすぎない!?」


「何ですか? 家に遊びに来たくないんですか?」


 とても優しく美桜先輩に言う。


「ひ、ひどい・・・」


 えぇ、何がー?ととぼけた私と美桜先輩のやりとりを見てた花恋ちゃんが笑いだす。


「本当に仲良いですね二人は」


「そんなことない」

「そうなの!」


 同時に答えた私達を見て花恋ちゃんはアハハと笑う。

 はぁ・・・。もうこのやりとりだけで疲れたよ。

 部活に出ないで帰ろうかな。・・・美桜先輩が暴れそうだからそれはやめとこう。


「じゃあ花恋ちゃん、明日待ってるね!」


「え!? 私は!?」


「あー、そういえば美桜先輩も来るんでしたね」


 はいはいと適当にあしらう。

 花恋ちゃんはずっと笑ったままだ。楽しんでいただけて何よりだよ・・・。


「それより早く部活始めましょう」


 そう言って、美桜先輩を置いて花恋ちゃんと部室から出る。


「ちょっと待ってよー!」


 どうやら明日明後日ゴロゴロするという、私の大事な大事な予定は潰されてしまうようだ。

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