18.電話での約束
次の日、惰眠を貪っていた私は、鳴り止む気配のない携帯の着信音で目を覚ます。
「・・・・・・」
手探りで携帯を探すが中々見つからず、ついには探すことを諦める。
しばらくすると携帯の着信も鳴り止んだので、世界におやすみと告げて睡眠を再開する。
しかし・・・。
──ピリリリリ
早く起きろと言わんばかりに、再度携帯の着信音が部屋に鳴り響く。
あー、うるさいうざいうるさい。
誰だ。私の大事な睡眠を邪魔するのは。
ワタシはおこったぞー!と変身・・・するわけなく、両手を駆使して携帯を探す。どこだー携帯。
やっとの思いで携帯を手にした私は、着信元を確認せずに電話に出る。
「ふぁい」
枕に顔を伏せたまま電話に出た為、なんとも情けない声になってしまう。
『あ、やっと出た。もしもし桜ちゃん?』
聞いたことのある声が、電話越しに私を呼び掛ける。誰だっけこのうさぎみたいな人。
「・・・お掛けに・・・なった・・・電話・・・番号は・・・電波の・・・届かない・・・・・・」
壊れたテープのように途切れ途切れで話すものの、途中で力尽きる。
『ちょっと桜ちゃん! まだ寝てたの? もうお昼過ぎてるよ!』
まだ昼過ぎなのかー。あと5時間ぐらいは寝れそう。
「・・・どちら様ですかぁ」
『ひどくない!? 分かってて言ってるでしょ!』
っかしいなぁ・・・。今日はめちゃくちゃ忙しいと伝えたはずなんだけどなぁ。
「・・・なんですかぁ? 私はとーっても忙しいんですよぉ」
夢の世界がこっち来いよと私を呼んでいるので、今すぐ眠りにつきたい。
『寝てるだけじゃない!』
もうなんですかぁ。休みの日ぐらい寝させてくれ。
「それで何の用ですか? 私の睡眠を邪魔した罰は後日受けてもらいますよ」
問答無用と罰を与えることを決める。
『罰!?』
「1ヶ月間、私への電話とメッセージ禁止です」
なんて優しい罰なんだ。我ながら聖母になった気分。あれ? 聖母って罰与えるのかな? 与えるか。私だし。
『やだやだやだやだ! 絶対ムリ!』
う、うるさい・・・。電話越しに騒がれる。
結構優しい罰だと思ったんだけどなぁ。3ヶ月にした方がいい?
「はいはいわかったからいい子にしてね美桜ちゃんー」
面倒くさくなってきた私は適当に返事をする。
『子供扱いみたいにしないで!』
子供にしか見えないんですがそれは・・・。
「それで」
『え?』
「何の用ですか?」
『い、いや、特に用事という用事はないん──』
ブツッ。
用事がなさそうだったので、最後まで聞かずに電話を切ってあげた。私ってなんて親切なんだろ!
──ピリリリリ
チッ!
5秒とも経たずにまた携帯が鳴る。
『ちょっと切らないでよ!』
だってー、特に用事ないって言ったじゃないですかー。
「もうなんですかぁ。私は寝たいんですー」
昨日遊んだし、今日ぐらい大人しくしてほしい。
『暇なら会えないかなぁって』
「なんでですか嫌ですよ暇じゃないですし忙しいですそれではさようなら」
早口で一気に断り、電話を切ろうとする。
『切っちゃダメ! てかめっちゃ早口! 寝てるだけなんでしょー? 遊ぼうよ!』
「いーやーでーすー」
どんだけ私に会いたいの? モテ期かな? 困ったものね。
『・・・そんなに嫌?』
その言い方はやめてほしい。
そう言った言い方をするときの顔が浮かんでしまって、断りづらくなる。
「・・・別にそういうわけではないですけど、昨日会ったし、明日部活でも会えるじゃないですか」
ふざけて返事するのはアレなので、真面目に答える。
『そう・・・だけどさ・・・』
しっかりしているように見えるが、こういう所が子供っぽいし、わがままだし、本当に困った先輩だ。
「今日は家でゆっくりしたいので、会うのは我慢してください」
『うぅ・・・』
落ち込み過ぎじゃないですかね美桜さん・・・。
「代わりっていうわけじゃないですが、電話ぐらいなら別にいいですけど」
これで折れてほしい。
私は家でゴロゴロしたいのだ。
『家から出たくないんだよね・・・?』
「はい」
すると、しばらく美桜先輩が黙り込む。
・・・何かよからぬ事を考えてる気がする。
『・・・・・・』
「先輩。何を企んでいるんですか」
『えっ? な、何も企んでないよ?』
嘘だ。この感じは絶対何か企んでいる。
「怒らないので正直に話してください」
『ほ、本当に怒らない?』
生まれてこの方、怒ったことない。わけじゃない。
「内容によります」
『怒らないのでって言ったじゃん!』
「それで、なんですか?」
さてさて、どうやって叱ってあげようかしらん。
『その・・・家出るのが嫌なら、私が桜ちゃんの家に遊びに行くのはどうかなぁって・・・』
なるほどそうくるか・・・。
「もちろんダメに決まってるじゃないですか」
全く、何を考えているのやら・・・。
『即答なのぉ?』
美桜先輩の声が、心なしか泣きそうな声になる。そんなんじゃ騙されないぞ。
「部屋散らかってますし、仮に遊びに来たとしても私は寝ますよ。もうスヤスヤと次の日の朝まで寝ます」
『か、片付け手伝うし、なんなら一緒に寝てあげるよ!』
何言ってんだこの人・・・。
寝てあげるって、一緒に寝るわけないでしょ。
仮に寝たとしても寝相悪いって言っておいて、蹴飛ばすまである。
「手伝わなくていいし、一緒に寝ません。というか今から片付けるにしても・・・そうですね、ざっと5時間ぐらいかかります」
途中で昼寝を挟むし、どうしてもそれぐらいかかっちゃうよね!
『時間かかりすぎじゃない!? そんな散らかってるなら私も手伝った方が早く終わるよ!』
そんなわけないでしょうが。
結構分かりやすく言ったつもりだったけど、冗談通じないのかな。
「とにかく! 家はダメです!」
美桜先輩には非常に申し訳ない・・・とは微塵も思ってないけど、ダメなものはダメだ。
『・・・どうしてもダメ?』
だからその言い方やめぇい。
「どうしてもです」
そろそろ諦めてくれないかなぁ・・・。
『洋服』
美桜先輩がさっきとは打って変わって、ハッキリとした口調で言う。
「はい?」
『洋服。買ってあげたんだけどなぁ・・・』
せ、せこいぞこの先輩・・・!
確かにありがたいとは思っているけど、そもそも買ってくれって頼んでないんだよなぁ。
冷静さを装ってるけど、絶対電話越しでニヤニヤしているに違いない。
「全然返しますよ。その洋服」
『ひ、ひどい!』
そっちがそうくるなら、こちらにも考えがある。
美桜先輩がぐぬぬと小さく言っているのが聞こえる。
ここでさらに追い討ちをかけることとする。
「やっぱりラケットも青色がいいから交換してこようかなぁ。あっと、手が滑って先輩と撮ったプリクラをゴミ箱に捨ててしまいそうです」
フフフ。これは会心の一撃だろう。
・・・プリクラは言い過ぎたかも。
『ダメぇぇぇぇ!!!』
美桜先輩がこの世の終わりかというぐらいの大声で叫ぶ。
待って、本当にうるさい。近所迷惑。
『桜ちゃんのバカ! イジワル! バカ!』
バ、バカって二回も言われた・・・。
うーん。どうしましょうかしら。
はぁ、と溜息をつく。
「今日は電話で我慢してください」
『えぇ・・・』
これじゃどっちが年上か分からない。
「まぁ、いつか家に遊びに来ていいので、今日は諦めてください」
『本当!? イタッ!』
ゴンっと大きな音がした。
喜びすぎてどこかをぶつけたっぽい。
「もう何してんですか。大丈夫ですか」
『だ、大丈夫・・・。それより絶対だからね!』
「はいはい。いつか」
そのあとは絶対約束だからねとか、いつ行っていいのとか、終わりが見えない会話が続いた。
──。
───。
────。
本当にしょうがない先輩だ。
そう呆れながらも、気付けば私は笑みを浮かべていた。
いつの間にか、眠気もどこかへ飛んでいったようだ。




