34.屋台の味
「ただいまー」
コンビニでたっぷりと涼んでから戻ってきた。
「遅かったね。迷子になった?」
「なってないし。桜木先生がいたから少し話してた」
「そうなの? 先生も花火見に来てたんだね」
私は買ってきたアイスを皆に配る。
「そうみたい」
「誰と見に来たんだろ? 彼氏かな!?」
「彼氏と花火なんてロマンチックですねー!」
美桜ちゃんと花恋ちゃんは恋バナが大好物のようだ。
「うーん、そうじゃなくて友達と見に来てるらしいよ」
本当のことを話すのはやめておいた。
正確には彼氏ではなく、彼女と見に来ていたわけだが・・・。
あまり言いふらしたりするのも良くないだろう。
「なーんだ。どんな彼氏なのかと思ったのに」
「残念ですねー」
残念とか言わない!
「何が残念ですの?」
咲蘭ちゃんにはまだこの会話は早いよ!
それからの時間は雑談しながら過ごす。
じっとしているだけでも暑かったが、アイスと一緒に氷も買っていたので、それでなんとか暑さを凌ぐ。日陰じゃなかったらやばかったかも。
花火大会の時間が近づくにつれ、周りにも徐々に人が集まってきた。
まだ花火まで2時間程あるが、お酒が入ってる人もいて、かなり賑やかになってきている。
「そろそろ屋台も始まったんじゃない?」
「そうかもね。少しお腹も減ったし見に行こっか」
「私がここに残りますので、どうぞ皆さんで行ってきてください」
宮下さんが留守番を買って出てくれた。
私達はその好意に甘えさせてもらうことにする。
「宮下さんにも何か買ってきますね!」
「ありがとうございます。人が多いと思いますので、どうぞお気を付けて。お嬢様も迷子にならないよう、花恋様に手を繋いでもらってください」
「つ、繋ぎませんわ!」
そんな恥ずかしいことできないと、宮下さんの言うことを断固として拒否する咲蘭ちゃん。
「・・・繋がないの? 咲蘭ちゃん」
少しばかり花恋ちゃんが寂しそうだ。
「か、花恋さんまで・・・」
「迷子になったら探すの大変だし、繋いでおいた方がいいんじゃなーい。別に変でもないし。知らんけど」
私も美桜ちゃんと繋ぐ時あるし。今日は暑いから繋ぎたくないけど。
「知らんけどってなんですの。・・・分かりましたわ。しっかり握っておいてくださいませ」
そう言って自分の手を差し出した。
花恋ちゃんは嬉しそうにその手を握る。
「あらあら。仲がよろしいこと」
「なっ! からかうのはやめてくださる!?」
どうも。からかい上手のさくらさんです。
咲蘭ちゃんが照れてるの面白いなー。
「はいはーい。ほら行くよー!」
「行ってらっしゃいませ」
先程まで準備中だった屋台も営業を開始していた。中には既に行列になっている屋台もある。
「なんか夏って感じ」
「そうだねー。この雰囲気、私好きだなー」
私もこういった雰囲気は結構好きだ。人が多いのは嫌いだけど。
もし1人でいたら速攻帰っていたかもしれない。それぐらい人が多くなってきている。
「わたくし、屋台って初めてですわ」
「家で食べるのとはまた違った美味しさがあるんだよ!」
とりあえず私達は、端から端まで見て回ることにした。
結構な数の屋台が出ていて、どれを買うか悩んでしまう。
「チョコバナナってなんですの!?」
「その名前の通り、バナナにチョコをかけた物だよ。美味しいよー!」
どうやらここのチョコバナナは、じゃんけんで勝つともう1つ貰えるらしい。
「あ、かち割りだ」
私、これ好きなんだよねー。あとで買おうっと。
「花恋さん! たこ焼きがありますわ!」
咲蘭ちゃんも初めての屋台にかなり興奮している。
他にもお好み焼きや焼き鳥など、食べ物を中心とした屋台がずらっと並ぶ。
「大体何買いたいか決めたかな?」
「決めましたわー!」
「じゃあ折り返して買っていこうか。あ、咲蘭ちゃん? 現金しか使えないから気を付けてね」
カードで買うのではないかと思ったのだろう。私も思ってたけど。
美桜ちゃんが念の為、現金のみと伝える。
「大丈夫ですわ! 宮下からちゃんと教わりましたわ!」
さすが宮下さん。抜かりない。
まずは冷める心配がない物を買うことにする。
だいぶ日が傾いてきて、日中よりかは暑さがマシになってきている。それでも熱中症が怖いので、飲み物は多めに買おうということになった。
そのあとは焼きそば、お好み焼き、たこ焼き、牛串など色々買っていく。
並ぶ時間もあったりして、買い終えた頃には18時を過ぎていた。
「これで大丈夫かな? 戻ろっか」
「チョコバナナ美味しいですわ!」
咲蘭ちゃんはチョコバナナを頬張っている。
じゃんけんで勝ったらしく、追加でもらった分は花恋ちゃんにあげていた。
「美味しいね!」
やだ花恋ちゃん可愛い。
小さい口で、一生懸命大きく口を開いて食べてるところ可愛すぎ!
写真撮っておこう。私の花恋アルバムに、また新たな可愛い花恋ちゃんが追加された。
「人がだいぶ多くなってきたね」
「うん。さすが大規模な花火大会だけあるね」
買い出しを早めにしといて良かったかもしれない。
今でさえ人混みを縫うように歩いているし、これが直前になったら身動きが取れなくなっていただろう。
はぐれないよう、なるべく固まって戻ることにした。
「おかえりなさいませ」
「すみません、留守番お願いしてしまって」
「いえいえ、お気になさらず」
私達が戻ると、取り分ける為の紙皿や割り箸、お手拭きなどが既に用意されていた。
「すぐに食べられるよう、準備しておきました」
「ありがとうございます」
早速、買ってきた物を取り分けていただくことにする。
「いただきまーす!」
屋台の焼きそばって、どうしてこんなに美味しいんだろうか。
家に出てくる焼きそばとは全然違うような気がする。
やっぱり鉄板で炒めてるからなのかな? 外で食べてるっていうのもあるとは思うけど。
ずるずると焼きそばを食べていると、隣からボリボリと齧る音が聞こえてくる。
音の出どころは咲蘭ちゃんで、きゅうりを食べていた。
「冷やしきゅうり美味しいですわー!」
よっぽど屋台の食べ物が気に入ったんだろうか。
咲蘭ちゃんの家では、こういったものはあまり出てこないだろうし。
「美味しいね桜ちゃん」
「うん。美味しい」
「たこ焼き食べる?」
美桜ちゃんがたこ焼きを差し出す。
「じゃあもらおうかな」
私はそれを受け取ろうと──。
「あーん」
あーん?
「はい、あーん」
自分で食べさせてくれないのか・・・。
「あーん・・・」
仕方なくあーんされる。
「あふっ、あひっ」
「あ、フーフーするの忘れてた」
口の中火傷するじゃないか!
私は涙目になりながらたこ焼きを飲み込んだ。
「あら、仲がいいですわね」
私達のやりとりを見ていた咲蘭ちゃんがニヤニヤしながら言う。なんとでも言えー。
「食べた食べたー」
「食べたねー。もうあと15分ぐらいで始まるよ!」
「何発ぐらい打ち上がるんだろ?」
携帯で調べようとしたところ、咲蘭ちゃんが教えてくれた。
「1万発以上ですわ!」
「へー。詳しいんだね」
「宮下が教えてくれましたわ!」
「お嬢様。そこは私の名前を出さなくても良かったのですが・・・」
咲蘭ちゃんがどうしてですのと不思議がっている。ある意味素直なんだろう。
「大体1時間ちょっと上がるみたいだね」
「結構長い時間上がるんだね」
「花火打ち上がったら、皆で花火をバックに写真撮ろうよ」
「いいですわね。花恋さんナイスアイデアですわ」
花恋ちゃんはデジカメを用意してきたらしい。
「それなら私が撮りましょう」
「ありがとうございます」
もう間もなく、花火大会が始まる。




