閑話.感謝のバレンタイン
今日は、宮下さんから聞いたバレンタインの話をしようと思う。
咲蘭ちゃん、一生懸命作ったんだなぁ・・・。
私は何も貰ってないけど・・・。
2月上旬
「バレンタイン、ですの?」
「えぇ。花恋様にいつものお礼も兼ねて、チョコやクッキーなどお渡ししてみてはとどうかと思いまして」
「いつものお礼ってなんですの?」
どうやら咲蘭ちゃんは、花恋ちゃんがいつもお世話していることに気付いてないらしい。
「それはお嬢様、色々ですよ」
「ハッキリしませんわね。では来週辺り、買いに行くことにしましょう」
「買うのもいいかもしれませんが、お嬢様の手作りを渡すというのはいかがでしょうか」
咲蘭ちゃんが一瞬、動揺を見せる。料理の経験がないからだろう。
「わ、わたくしが作るんですの?」
「えぇ。その方が気持ちも伝わりますし、きっと花恋様も喜ぶかと思います」
「花恋さんが喜ぶ・・・ですか」
咲蘭ちゃんも花恋ちゃんの喜ぶ顔を見たいはず。
しかし、料理の経験がない為、どうすればいいのか悩んでいる様子だ。
「作り方は心配しなくても大丈夫です」
「と言いますと?」
「パティシエの方に、作り方を教えてもらいながら作っていきますので」
わざわざパティシエを呼ぶなんて、さすがお金持ちは違う。
「そうなんですの。それなら安心ですわね」
「最初は失敗するかと思いますが、一番大事なのは気持ちです。それを忘れないように」
「分かりましたわ」
バレンタインまであと2日。
二階堂邸ではお菓子作りが行われようとしていた。
「とりあえず材料や包装などは用意できましたわね」
「はい。お嬢様、こちらがパティシエの天崎様です」
「天崎です。よろしくお願いします」
ここから宮下さんは、咲蘭ちゃんを見守ることに徹するようだ。
「今日はチョコとクッキーの両方を作ってみましょうか。それで上手くいった方を渡すことにしましょう」
「分かりましたわ」
「では、まずはチョコから作りましょう」
そうして、咲蘭ちゃん人生初のお菓子作りが始まった。
「まずはチョコを溶かせばいいんですわね!」
耐熱のボウルにチョコを割って入れたところまでは良かったが、そのまま電子レンジの中に入れてしまう。
「完璧ですわ!」
「あ、あのお嬢様・・・」
「なんですの?」
天崎さんは何か言いたそうな顔をするも、とりあえずは咲蘭ちゃんにやらせてみる方向に舵を切る。失敗から学ぶこともたくさんあるもんね。
「い、いえ。なんでもありません」
「あ、終わりましたわね」
電子レンジからボウルを取り出し、味見をしてみる。
「温かいチョコですわね」
「お嬢様。別の溶かし方も試してみましょう」
「別の溶かし方、ですの?」
「はい。50度ぐらいお湯を用意して、ゆっくり溶かしていきます。これを湯煎と言います」
「どうしてそんな時間がかかる方法で溶かすのかしら」
もちろん咲蘭ちゃんが湯煎を知っているはずがない。
「湯煎でゆっくり溶かしていくと、風味や滑らかさが保たれます。美味しいチョコを作るのであれば、この方法は必須です」
「そうなんですの?」
「はい。少しお待ちくださいね」
5分程経ってから、湯煎で溶かしたチョコを味見してもらう。
「・・・なんですのこれ。全然違いますわ」
「そうなんです。急に高温で温めてしまいますと、雑味が出てしまうんです」
「なるほど。勉強になりますわ」
どこからからメモ帳を取り出し、天崎さんの言うことをメモしていく。勉強熱心だ。
「お渡しする方の好きな食べ物をご存知だったりしますか?」
「そうですわね・・・。苺が好きだと思いますわ」
「なるほど。分かりました。ちょうど苺もありますし、使ってみましょう」
それから数時間後──。
「できましたわ!」
「お疲れ様です。チョコも固まってますし、味見してみましょう」
作ったのは苺にチョコをかけた物だ。
ミルクチョコの他に、ホワイトチョコで作った物もある。
ただチョコをかけただけではなく、コーンフレークやナッツなどを砕き、それをまぶしてひと手間加えている。クランチチョコみたいでとても美味しそうに見える。
「・・・美味しいですわー!」
「最初はどうなるかと思いましたが、上手くいきましたね。チョコレートはこれでいいのではないでしょうか」
「そうですわね。これにしますわ」
「お嬢様、クッキーはどうされますか?」
宮下さんが咲蘭ちゃんにどうするか尋ねる。
一応、どちらか上手くいった方を作るということだったが・・・。
「そうですわね・・・。あ! いいこと思いつきましたわ!」
すると、咲蘭ちゃんは天崎さんの耳元で何かを伝えた。
「それはいいですね。では、クッキーも作りましょう」
「作りますわー!」
その日は夜までお菓子作りが続いたのであった。
そしてバレンタイン当日──。
「おはよう咲蘭ちゃん」
「か、花恋さん。おはようございます」
作ったチョコをどう渡せばいいのか悩んでいる咲蘭ちゃん。
早めに登校し、花恋ちゃんの下駄箱の中に入れることも考えたが、こういった物は直接渡した方がいいと思い直したようだ。
「はい! 咲蘭ちゃん!」
「えっ?」
花恋ちゃんから、可愛い包装で包まれたクッキーを渡される。
「ハッピーバレンタイン! いつも仲良くしてくれてありがとう!」
「・・・ありがとうございます」
突然の出来事に受け取ったまま固まってしまう。
「咲蘭ちゃん?」
「あ、いえ・・・。あの・・・、わ、わたくしもその・・・作ってきましたの・・・」
「え? 咲蘭ちゃんが?」
「はい・・・」
バッグの中から小さな紙袋の手提げを取り出す。
「これ・・・ですの。一応、味見もしているので、大丈夫かと思いますが・・・。あの・・・良かったら受け取ってくださる・・・?」
「うん!!! ありがとう咲蘭ちゃん!!!」
余程嬉しかったのか、花恋ちゃんが咲蘭ちゃんに抱きつく。
「ちょ、ちょっと花恋さん!?」
「咲蘭ちゃん大好きっ!!! ねぇねぇ、今食べてもいい?」
「大好き!? ・・・え? 今食べるんですの?」
「うん。今日寝坊しちゃって、朝ごはん食べてないんだ」
そう言いながら、花恋ちゃんが丁寧に包装を解いていく。
「わぁー! 可愛い!!! これ本当に咲蘭ちゃんが作ったの?」
「え、えぇ。パティシエの方に教えてもらいながら作りましたわ」
「そうなんだ! じゃあ、いただきまーす!」
咲蘭ちゃんが心配そうに食べるところを見守る。
「ど、どうかしら」
「んー!!! すごく美味しいー! 本当にありがとうー!」
「そ、そうですの? 喜んで貰えて良かったですわ!」
安心したのか、咲蘭ちゃんの顔にも笑顔が浮かぶ。
「ねぇねぇ、ホワイトデーは一緒に作ろうよ!」
「いいですわね! わたくし、お菓子作りは得意ですの!」
そうして2人は、ホワイトデーにお菓子作りをする約束を交わしたのだった。
学校から帰宅後──。
「お疲れ様でした。お嬢様」
「えぇ。その、宮下?」
「はい。どうされました?」
咲蘭ちゃんはバッグから何かを取り出す。
「その・・・、いつも色々とありがとう・・・ですわ」
咲蘭ちゃんが宮下さんにクッキーを渡す。
「お嬢様これは・・・」
「抹茶のクッキーですわ。甘さは控え目にしてありますわ」
「・・・ありがとうございます。お嬢様。まさかこんなサプライズが出来るまでに成長されるとは・・・。私はもう何も思い残す事がありません・・・」
「感動するところそこですの!?」
予想していた反応と違ったようだ。
「冗談ですよ。ありがとうございます」
「どういたしまして。ですわ。これからもよろしくお願いしますわね。宮下」
「はい。お嬢様」
──。
───。
────。
「ということがありまして」
「咲蘭ちゃんもだいぶ変わりましたね。私もチョコ食べたかったなぁ」
苺にチョコレートかけるとか、絶対美味しいじゃん。
「私も味見で頂きましたが、とても美味しかったです」
「でも、クッキーの方が美味しかったんじゃないですか?」
「それはそれは」
宮下さんが優しい笑顔を見せる。とても幸せそうだ。
なんかいいなぁ。
宮下さんは仕事で咲蘭ちゃんに仕えてるんだろうけど、いいおじいちゃんって感じだよね。
「良かったですね」
「はい。さくら様も来年お願いしてみてはいかがでしょうか」
「私から言うのは恥ずかしいのでいいですよ」
私も美桜ちゃんに、手作りであげれば良かったかなぁ・・・。
・・・来年はそうするか。
「さくら様」
「はい。なんでしょう」
「私がこの話をしたことは内密にお願いします」
「分かりました」
そのあとも宮下さんは、とても嬉しそうに咲蘭ちゃんからもらったクッキーについて話すのだった。
今回は咲蘭がメインのお話となりました。
ホワイトデーは約束通り一緒に作るんでしょうか?
ちなみにこの話、手作りチョコ最後に貰ったのいつだったっけなーと思いながら書きました。
多分4.5年前です。記憶がかなりあいまいみーまいん。
実際、バレンタインで盛り上がってるの日本だけみたいな話を目にしたことがあります。
元はブラッディバレンタインがなんとかみたいな・・・。
名探偵コ〇ンで読んだ気がします(笑)
その記憶も定かではないですが・・・。
というわけで
ハッピーバレンタイン・・・。
明日から本編戻るよ!




