33.遭遇
「皆様、この場所はいかがでしょうか」
場所取りに協力してくれている宮下さんが、良さそうな場所を見つけたようだ。
「日陰になってるし、花火もちゃんと見えそうだね」
「うん。私はここでいいと思うけど」
というか、疲れたからもう座りたいというのが本音だ。
「私もいいと思うけど、咲蘭ちゃんはどう?」
「問題ないですわ」
「では、シートなど準備致します」
「あ、宮下さん。私も手伝います」
「さくら様、ありがとうございます。ですが、まだ右手が完治していませんし、お気持ちだけ受けとっておきます」
なんて優しいおじ様・・・。素敵っ!
「そうだよ。桜ちゃんはそこで待ってて」
いやぁ、なんか私の為に申し訳ないねぇ。
そこまで言うのなら待たせてもらうよ。
「どうして腕組んで偉そうにしてるんですの」
シート等の準備が終わった。
普通のシートを敷くだけかと思ったが、シートの下に絨毯のようなものまで敷かれていた。
おかげで座ってもお尻が痛くならない。ふかふかしていて心地良いまである。やっぱ金持ちは違うな。
時刻は15時を回ったところ。
花火大会まであと4時間程ある。
「もう屋台ってやってんのかな? ここに来る途中はまだ準備中っぽかったけど」
「うーん。だいたい夕方ぐらいからがほとんどだと思うから、あと1時間もすれば開くんじゃないかな?」
1時間か・・・。アイス食べたいんだよなぁ・・・。
「コンビニ行ってこようかな」
「なんか買いたい物でもあるの?」
「アイス買ってこようかと」
さっきは皆に準備してもらったし、お礼に買ってこよう。
「私も一緒に行くよ!」
「いいよ。皆の分買ってくる。宮下さんにも買ってきますね」
宮下さんが一瞬、遠慮する素振りを見せる。
「・・・ありがとうございます。では、お願いします」
断られても買ってくるつもりだったけど。
「桜ちゃん本当に1人で大丈夫? 迷子にならない?」
「そうですわ。迷子になったら大変ですわよ」
あんたにだけは言われたくないわ。
「携帯も持ってくし大丈夫だよ。何かあったら連絡するから。箱のアイスでいいかな」
「うん。ありがとう! 気をつけてね!」
「はーい」
ちょっとコンビニ行くだけなのに、そんなに心配かしら。
マップでコンビニの位置を調べたところ、近くの大通りにあるようだ。そこに行くことにする。
「うー、あぢぃ・・・」
歩き始めて5分。額に汗が浮かぶ。
暑い・・・暑すぎる。早く夏終わらないかな・・・。
楽しいことはたくさんあるけど、どうしても暑いのは我慢できない。
冬に生まれたこともあってか、私は冬の方が好きだ。
早く夏よ過ぎ去れーと念仏のように唱えていると、コンビニが見えてきた。
すぐ買って戻らないで、ちょっと涼んでいこうかな。
横断歩道で信号待ちをしていると、コンビニの前で見覚えのある人が携帯をいじっていた。
うーん・・・? 誰だあれ???
・・・・・・あ、桜木先生だ。黒の浴衣か。
ただ立っているだけなのにとても綺麗に見える。
コンビニの前を通る人も、桜木先生に視線を奪われていた。
めっちゃ浴衣似合うな・・・。というかなんかエロい。これが大人の雰囲気?ってやつか。
声掛けないのもなんだし挨拶しておこう。
信号が変わり、横断歩道を渡って先生に近付く。どうやらまだ気付いていないようだ。
「あの、桜木先生?」
「えっ!」
いきなり声を掛けられせいか、聞いたことのないような声で驚く。
「あ、あら、橋本さん。奇遇ね。花火見にきたのかしら?」
「はい。美桜ちゃんと花恋ちゃんと咲蘭ちゃんで」
あと素敵なおじ様宮下さん。
「そう。仲がいいのね」
「先生も花火・・・ですよね」
「えぇ。連れを待ってるんだけど、どうやら迷ってしまったらしくてここで待ってるのよ」
連れか・・・。彼氏かな?
「えっと、彼氏さんですか?」
「違うわよ。似たような感じだけど」
似たような感じ・・・?
彼氏じゃないけど似たような感じ・・・。
か、体だけの関係の人かな?
「そ、そうなんですか。私はちょっとアイスを買いに」
「暑いものね。熱中症にならないよう気を付けるのよ」
「はい。あの、先生の浴衣姿、とてもお似合いです。その・・・綺麗ですね」
桜木先生が目を見開く。変なこと言ったかな・・・?
「あら、ありがとう。橋本さんもとても似合ってるわよ」
良かった。驚いただけか。
「ありがとうございます。美桜ちゃんに無理矢理お揃いの着させられて」
「いいじゃないお揃い。私は好きよ」
「そうですか? まぁ、別に嫌ではないですけど」
桜木先生は何も言わずに微笑む。
「じゃあ、私アイス買ってきます。もしまた見掛けたら声掛けますね」
「えぇ。楽しんでね」
「はい。失礼します」
店内は冷房が効いていてとても涼しい。
しばらくここから出れそうにないな・・・。
トイレを済ませたあと、入口付近を見ると桜木先生が女性と話しているのが見えた。
その女性が桜木先生の腕に自分の腕を回す。
・・・なるほど、そういうことね。
彼氏ではなく彼女だったってことか。
でも意外だな。
桜木先生みたいに、綺麗でスタイルが良ければ、いくらでも男を選び放題な気がするけど。
・・・世の中、色々あるんだなぁ。
桜木先生と彼女と思われる女性は、横断歩道を渡って人混みの中へと消えていった。




