32.絶好の花火日和
花火大会当日、私達は家の前で迎えが来るのを待っていた。
「いい天気で絶好の花火日和だね!」
「花火日和なんて言葉あるの?」
「うーん、どうだろ? 私が作ったってことにしておこう。えっへん」
日和の前に何かつければいいだけだし、そんな胸を張られてもなぁ・・・。そして、浴衣越しでも胸の大きさが強調されててちょっと腹立つ。
「まぁ、いい天気なのは嬉しいね。暑いけど」
「そうだねー! 今日は風も弱いらしいし、やっぱり花火日和だ!」
「昨日、1時間置きに天気予報チェックしてたよね。遠足楽しみにしてる小学生みたい」
それぐらい楽しみにしていたということだろうけど、天気予報が更新される時間は決まってるから、1時間置きに見ても意味ないんだよね・・・。
「ちょっとー? 小学生はないでしょ! 立派な高校生だよ!」
「あー、はいはい。そうですねー」
「またそうやって適当に!!!」
お願いだから騒がないで! こちらは暑さに耐えるのに必死なのよ!
あー、早くお迎え来ないかなー、私溶けちゃうよーと思っていると携帯が鳴った。着信元は花恋ちゃんだ。
「はい。こちら暑くて死にそうです。どうぞ」
『あ、さくらちゃん? もう着くよ! だから死なないでね! どうぞ!』
『そのどうぞってなんですの?』
すぐ隣に座っているのか、咲蘭ちゃんの声も聞こえてくる。
「暑い・・・。あ、車見えた。電話切るねー」
『はーい!』
「あー、生き返るー」
「お待たせして申し訳ありません」
「いえいえ、車を出してもらえてとても助かります」
車内は空調が効いていてとても涼しい。
やっぱり夏は暑いから苦手だな。もうずっと秋でいいよ。11月上旬ぐらいの気候でおなしゃす。
「2人も色がお揃いの浴衣なんだね」
え? そうなの?
助手席に座っている私は振り返り、花恋ちゃんと咲蘭ちゃんの浴衣を確認する。
本当だ。2人ともピンクの浴衣を着ている。
「わ、わたくしは黒の浴衣を用意するよう、宮下にお願いしたのに、この浴衣が用意されてたんですわ!」
「とか言ってるけど、本当は花恋ちゃんと同じ色で嬉しいんじゃないのー?」
「なっ! そ、それは!」
おー、照れてる照れてる。
「私は嬉しいな。咲蘭ちゃんと同じ色で」
「そ、そうなんですの? わ、わたくしも別に・・・嫌ではない・・・ですわ・・・」
恥ずかしかったのか、最後の方は耳をすませないと、聞こえないぐらいの声の小ささだった。ちなみに私は耳をすませばが一番好きです。え? 聞いてない?
「仲良しだねー。微笑ましいですわー」
「ちょっとさくらさん! バカにしてますわね!」
「してないですわー。おほほほほ」
もっと素直に喜べばいいのに。咲蘭ちゃんらしいっちゃらしいけど。
「さくら様と美桜様もお揃いの浴衣なんですね」
「そうなんですよー。どうしても一緒じゃないとやだーって店で駄々こねちゃってー。一緒にいるのが恥ずかしくて大変でしたよ。しまいには泣きだしちゃって・・・」
「駄々こねてないし泣いてない!!!」
美桜ちゃんから猛烈な否定が入る。私は本当のことを話したつもりなのに。
「あれー? そうだっけー?」
「バカバカバカ!」
「2人も仲良しですわね。微笑ましいですわー」
咲蘭ちゃんがお返しとばかりにからかってくる。
「仕方なく仲良くしてあげてるんだよ」
「桜ちゃん!?」
「ほっほっほ、とても賑やかですね」
宮下さんが普通に笑ったところ、初めて見たかもしれない。
「そういえば皆様、場所取りはどこに取るか考えていますでしょうか?」
場所取りかー。私はもちろん何も考えてないけど、皆はどうなんだろう。
「わたくしは花恋さんにお任せしますわ」
「えっ!? えっと、私も何も考えてない・・・かな」
「見やすい場所なら土手とかがいいんじゃないかな?」
確かに土手は見やすいだろうな。遮る物がないだろうし。
「土手もいいかもしれませんが、花火が始まるまで日光を浴び続けるのは危険ですよ」
「そうですね・・・。熱中症になっちゃうかも」
「木で日陰になってる場所を取ることをおすすめします。シートはもちろん用意してますので、浴衣が汚れる心配もありません」
それはありがたい。日陰なら暑さも凌げるし、いいかもしれないな。
「宮下の言う通り、木の下で見やすい場所を探せばいいと思いますわ」
「そうだね。それがいいかもね」
「花火大会のホームページに、打ち上げ場所も載っていると思いますので、それを参考に自分達の位置を照らし合わせたら良いかと思います」
私達を車で現地まで連れて行ってくれるだけではなく、的確なアドバイスまでくれるなんて・・・。宮下さん、神。
「色々ありがとうございます!」
「いえいえ、私の若い頃の経験をお話ししただけです」
宮下さんの若い頃か・・・。
きっといい人だったんだろうな。今でもいい人だし。
「宮下の若い頃の話は聞いたことありませんわね。話してくださる?」
「お嬢様。そんな大した話ではありませんよ。それより、お嬢様の小さい頃の話をしましょうか?」
「け、結構ですわ!!!」
咲蘭ちゃんの小さい頃か。花恋ちゃんと出会った時のことを、宮下さんから少し聞いたっけ。
「咲蘭ちゃんが小さい頃はねー」
「花恋さん!? やめてください!!!」
それから、少し渋滞に巻き込まれたりして、江戸川に着くのに、2時間程かかってしまったが、車内での会話は尽きることがなかった。




