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7. 悪女のすすめ

乙女ゲーム編スタートです!

 

「いよいよ入学ですねえ」

「そうねえ……私は、あなたがこの数年でずいぶん変わったことに改めて驚かされてるところなんだけどね」

「そんなことありませんよー」


 若干の悪口をシリルはいとも簡単にスルーしていく。



 ベルガモット家の馬車に揺られること数時間、イザベラがお手洗いに立ち寄り、今は2人きりだ。


 ちなみに、学園へ向かう馬車なのになぜ人様の馬車に乗っているかというと、例のごとく両親が嫌いだからである。5年経ち16歳になった今でもそれは変わらない。

 学園では寮生活のため、この際家とはおさらばのつもりで出てきたのだ。


(叔父様のところでもちょっと稼いだし、これからも稼ぐ予定だし、贅沢さえしなければ生きていけるわ)


 叔父さまさまなのは否めないが。


 クイニーは所持金をそれとなく確認してからシリルに視線を戻した。


 窓を眺めながら上機嫌なシリルを見て、可愛らしかったあの頃の面影はどこへやらとひっそり嘆く。

 制服を着込んだ姿はゲームの中のような陰の気など全くなく、さわやかな男子高校生といった感じ。


「……ねえ、どうして敬語なの?」

「え? クイニーお嬢さまが徹底したいって言ったんでしょう。考えてみてくださいよ。俺は一般科の生徒で、イザベラお嬢さまの侍従。そんな俺がイザベラお嬢さまの友人の一応子爵家のクイニーお嬢さまに敬称なし、敬語も使っていないなんて……もしそんなところが見られたら『悪役令嬢』として品位が疑われますよ」

「一応って言わないの」


 しかしながら正論だ。

 完璧な悪役令嬢は孤高の存在ではならない。一般科の生徒と仲良くするなど言語道断である。


 著クイニーの『悪女のすすめ』にもそう記されている。


 正論だと分かってはいるものの、クイニーは若干不機嫌そうにぷいっとそっぽを向いてしまった。


「2人きりの時だけですよ。……とりあえず、後数時間で本番だと思うと緊張するので、ひとまず敬語でいかせてください」

「……分かったわよ」




 また馬車に揺られ始め、クイニーは窓の外を眺めていた。前髪の間からは真っ赤な瞳がのぞいている。


「赤い瞳、よくお似合いですよ」


 シリルに声をかけられ、クイニーは顔を上げた。

 茶色だった瞳は、カラーコンタクトのおかげで真っ赤になっていた。


「シリルのおかげだわ。私も茶色い瞳よりも赤い瞳の方が気分も上がるしね」


 悪役令嬢のパンチにかける風貌に悩んでいたところ、シリルが『赤い瞳にしたらどう?』と提案してくれたのだ。


 シリルが満足そうに笑うのを見てイザベラはむすっとしていた。


「せっかくお揃いのブローチがあるのに……」

「ごめんね。でも、私が本当は琥珀の瞳だって知っているのはイザベラとシリルだけだから」

「ううん、イメチェンは大事だわ。だからいいの」


 胸元にはいつかくれたお揃いのブローチが光る。

 クイニーは心の中であなたのためなの、と叫ぶ。

 きっとイザベラの中では痛い高校デビューだと誤解されているに違いない。




 そうこうしているうちに学園が見えてきた。

 高等部は中等部よりも豪華でスケールも大きい。

 さすが、『乙女ゲーム』の舞台。


 クイニーは『悪女のすすめ』にもう一度目を通す。


(ヒロインをいじめるなんてやり方よりも敵わない相手だと意識させる方がよっぽどいいに決まってるわ)


 えげつないかしらと戸惑いはするが、ヒロインがどんな感じの性格で来るのか全く想像ができない以上、準備は万全にしておくべきだと思い直す。


 この学園でクイニーがやることは主に2つ。


 1つ目、イザベラとシリルをヒロインから守ること。


 2つ目、国外追放の準備。


 そのためにも、誰もが畏敬の念で見てしまうような、完璧で知名度の高い悪役令嬢にならなければ。

 子爵令嬢という身分は変えられないけれど、それはこれからの行動で変えていくしかない。


 クイニーはわくわく期待に胸を躍らせているイザベラとシリルに目を向ける。

 それから抱えていた『悪女のすすめ』を握りしめた。


(面倒ごとは好きじゃないけれど……大切な友人を裏切る薄情女にはならないわ。ゲームの中の私とは違ってね)



 馬車が緩やかにスピードを落としていく。

 眩いばかりの『乙女ゲーム』の舞台にクイニーは少しだけ目を細めた。

 しかし臆することなく馬車を降り立つ。


「思う存分、楽しんでやるんだから」



 モブ令嬢の悪役奇譚の幕開け……!


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― 新着の感想 ―
[気になる点] シリル君のセリフで「俺は一般科の生徒で、イザベラお嬢さまの侍従。そんな俺がイザベラお嬢さまの友人の一応子爵家のクイニーお嬢さまに敬語など使えません。」とありましたが…むしろ少なくとも人…
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