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6. 決めた、私、悪役令嬢になる

 

「未来、予知?」


 この世界が『乙女ゲーム』の世界なの、といったところで伝わらないと判断したクイニーは未来予知能力がある、ということにした。


(未来を知っていることに変わりはないものね)


 シリルは困惑しているのを隠せないでいた。

 クイニーは全てとはいかないものの、かいつまんで話をすることにした。


「全て信じて、とは言わないわ。あなたが何を信じるかなど、私に強制する資格はないもの。ひどい妄想だと笑い飛ばしてくれてもいいからね」



『乙女ゲーム』のヒロインはまあ魅力的な少女である。

 クイニーと同じ茶髪であるのに、あちらはああも輝いているのだ。それに向こうは女性らしい体つき。

 思い出すたびにクイニーが渋い顔をしていたのは言うまでもない。


 とにかく、そんなヒロインは平民の出でありながら魔法学園のトップクラス、魔法学部に入学する。

 ちなみに爵位のある貴族は貴族科の魔法学部に通っている。

 そこで彼女は魅力的なキャラクターたちと出会い、恋をしていくのだ。


 で、悪役の役回りはというと。

 ヒロインがどのルートを選んでも、基本イザベラはどこにでも出没する。もちろん取り巻きのクイニーも。

 そこでイザベラたちはヒロインをいじめる。もう人目も気にせずやる。正直間抜けである。

 そこで攻略キャラが助けに来たりなんかして、ますます親密度が上がっていく。完全にだしにされているわけだ。


 その後、イザベラは婚約破棄を告げられてしまう。

 嘆くイザベラを守るため、シリルがラスボスとして立ちはだかる。もちろん、シリルも攻略対象であるため、条件を満たしていればルートに入れる。


 そこで入らなければシリルはイザベラと共に破滅。

 入れば例の『2行オチ』爆誕。


 ちなみにクイニーはというと、イザベラが婚約破棄させられたあたりから、パタリと登場しなくなる。

 薄情な女だ。




「……という感じなのだけど」

「ずいぶん細かくて重たい未来だったね」


 それとなく説明したところでクイニーはシリルの様子を伺った。自分が破滅する話はやはり、整理がし難いだろう。

 ところが、シリルは案外ケロッとしていた。


「とりあえず、イザベラお嬢さまを守らないと、ということだよね。何か考えはあるの?」

「ええと……考えとしては2つ。1つ目はイザベラとアラン様が仲良しであること。2つ目はイザベラからアラン様への恋愛感情をなくすこと」

「今のところ、どっちでもなんとかなりそうだね」

「私が知っている限り、イザベラは小さい頃からアラン様大好きだったみたいだけど……」


 見た目を可愛らしくしたことが良かったのか、アランはイザベラにぞっこんだ。しかしながらイザベラはアランのことをどうとも思っていない様子だ。

 すでにゲームとは違う。


「それに、僕も話とはだいぶ違うね。まず学園には通っていなかったみたいだし、クイニーとも出会ってなかったんだね」


 その未来、僕人生損してるよ、とシリルは呆れる。


「あと、何気に怖いんだけど、その『破滅』って何?」

「良ければ国外追放。悪ければ多分いい感じに死ぬわ」

「いい感じって」

「でも国外追放なら、全然生きていけるわね。むしろそっちの方が楽しいんじゃないかしら……ん?」


 はた、と気が付いた。


 あれ、国外追放ってずいぶん魅力的だな、と。


(元々貴族の生活は肌に合わなかったし、私は叔父様のお店をもっと広めたいし、色んなところへ旅行へ行ってインスピレーションを受けたいわ。あら、私国外追放されたい)


 もう国外追放というワードしか頭にはなかった。

 クイニーはそれによる利益を計算し尽くし、やがてにやりと笑った。


「決めたわ、私、イザベラの代わりに悪役令嬢になるわ!」

「はっ、ええ!?」

「だって気づいちゃったの。私が悪役になればイザベラがいじめの主犯だと言われることはないし、何よりイザベラとシリルを守ってあげられる。なんならヒロインをこてんぱんにしたっていいのよ!」


 名案すぎる。

 モブであるクイニーが国外追放されれば友達は守れて、ゲームはつつがなく進行し、なんなら自分が一番幸せっていう一石三鳥。


「でも、クイニーがそんな責任を負う必要はないんじゃ……もし、死ぬなんてことがあったらどうするの」

「調節するわ。多分、よっぽどのことがなければ死ぬことはないし」

「でも……!」


 シリルは納得できない、と表情で告げる。

 しかしクイニーは心配してくれるなんて優しいわ、くらいにしか受け止めない。


「それに、国外追放って魅力的じゃない?」


 ふふっとクイニーは笑った。

 もう悪役なのではないか、という妖艶な笑みだった。

 シリルはごくりと息を飲んで、目を奪われていた。


「私、やるからには徹底的に悪役になりたいの。シリル、協力してくれる?」


 シリルは目の前で笑いかけるクイニーに、一瞬どう返答すべきか迷ったが――すぐににこりと口角を上げる。

 こちらもラスボスとにふさわしい含みのある笑みだ。


「最高の悪役令嬢にしてみせるよ」


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