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24. 脅迫状って悪女みたいじゃない?

 

「えっ、これってもしかして……」


 クイニーはそれを手に握りしめて震えている。

 見た感じよろしくない「それ」に、シリルがどう声をかけようかと言葉を探っていると。


「これって脅迫状よね!? いよいよ私も悪女認知され始めたのねー!!」

「いや、うんっ、そうだけどね!?」


 これにはシリルもびっくりだ。

 クイニーは明らかにやばそうな脅迫状を扇子のように広げて扇いでいる。5枚はある。


「このところ毎日きてるのよねー。最初はいたずらかと思ったけれど5日も続けば立派な脅迫状ね!」

「喜ぶところではないんじゃないかな……」


 殴り書きで一枚にびっしり同じ単語が並ぶ。1枚目には「どうして」と2枚目には「理解できない」3枚目には「許せない」と、恨みがこもっている。


「イニシャルはB.Bか……同一人物っぽいね」

「心あたりはあるわ」


 クイニーは得意げに笑う。

 シリルは独自に調査しようと思いつつ、クイニーの推理を聞き流した。




「さあて、犯人候補に会ってくるとしましょうか!」


 クイニーはおおよそ脅迫されているとは思えぬ足取りで目的の人物を探す。


 幸いにもガーデンパーティがあったのだ。男子禁制の女子の社交場である。男性がいない女性たちはもう檻から出た虎のようだとクイニーは常々思う。恨み嫉み、陰口から直接攻撃などやりたい放題やるひともいる。


(脅迫してくるぐらいだもの、こうしている今だって私を睨んでいるに違いないわね)


 理由は一体何か気になるところだ。

 やはりリドルとの婚約だろうか。それともシリルと仲が良いことか。もしかしたら流行を牛耳っていることが気に食わないのかもしれない。


 クイニーは視線に注目しつつ、B.Bの名を持つ女生徒にコンタクトを取り始めた。

 B.Bは全部で7人。中でもクイニーが目につけている令嬢がいる。


「ベル・ベンジャミンです。お会いできて嬉しいですわ」


 伯爵令嬢、ベル。優雅な佇まいと気品あふれる振る舞いが綺麗だ。彼女はリドルの婚約者候補だったのだと風の噂で聞いた。


(もし彼女なら、間違いなくリドルを奪ったことへの嫉妬ね)


 クイニーは早くボロを出しなさい、と内心思いつつにこりと微笑んだ。



 ところが。


「あ、あの、わたくしずっとクイニーさんのファンでして……!」


 と、話し始めて早々にクイニーはがっしと手を握られてしまったのである。キラキラした目にどことなくキャンディスを思い浮かべ、クイニーは苦笑する。


「もしかして、そのドレスはブルージュさんの新商品でして? とっても素敵なデザインですわ!」

「あら、わかってくださって嬉しいですわ」


 満更でもなさそうにクイニーは微笑んだ。

 叔父にお願いして自分で考えたデザインを商品化してもらったとさりげなく言えばベルはますます目を輝かせる。


 それからは才能をベタ褒めされ、とにかくブルージュについて褒められまくった。

 悪い気はしなくてクイニーも脅迫状について追及することなど忘れておしゃべりに乗じてしまった。




「やっと1人になれたわ……」


 クイニーは人気の少ない木陰で一息ついていた。

 あれからベルと話し込むうちにやいのやいのと令嬢たちが集まってきてしまった。

 なんなら期待していたB.Bのイニシャルの令嬢たちの中には「リドル様とお似合い」だとか「私はシリクイ推しですわ」と訳の分からないことを叫んでいるひともいて。


 要するに全部的外れだった、ということだ。


「じゃあ一体これは誰からなのよ……」


 まじまじと脅迫状を眺め回す。荒っぽい字で筆圧も強い。よく考えれば令嬢たちにはこの文字を書くのは少々難しいのではないか。


(じゃあ、男性ってこと?)


 一瞬シリルがクイニーを驚かせたいがためにやっていることかと思ったが、シリルはこんな脅し方はしないはず。

 それにゲームの中のようなラスボスのラの字もないシリルにこんないかにもな悪役じみたことはできない。


 B.Bというイニシャルに改めて着目する。

 見覚えがあるような、ないような――


「んぅ!?」


 突然、口元が布で覆い隠された。

 誰かに襲われている。それも1人じゃない。


 咄嗟にクイニーは肘を真後ろにいる人間にめり込ませた。お腹にあたったのだろうか、苦しげに声をあげている。


 しかしその抵抗も無意味だと悟った。意識が遠のき始めて、これは睡眠薬が含まれている物だと気がついたからだ。


 せめて、誰が自分を攫おうとしているのか確認しようとクイニーは背後に顔を向けた。


 見覚えのある人物だった。

 それと同時に一気に気持ち悪さが込み上げてきて、睡眠薬の効き目より遥かに早く、クイニーは気絶してしまったのだった。


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