15. やってきた学期末試験
「次はいよいよ技術試験ね……」
筆記を難なく終えたクイニーは柄にもなく緊張しながら技術試験の会場までの道のりを歩いている。
技術試験には2つ試験がある。
1つ目はパフォーマンス型試験。2つ目は対戦型試験。
どちらも50点ずつで100点となる。筆記と合わせると500点満点。
「まずはパフォーマンス型ね。まだこっちの方が出来そうだわ」
「クイニーお嬢さまはどちらかというと顔で演技してますもんね」
「いいでしょ、それだって表現点に加算されるはずだもの」
クイニーの演技はどちらかというと美しすぎて――
言いかけたのをシリルはぐっと押し黙った。それを見ていたイザベラは愉快そうに笑っている。
「私、結構早い方の出番なの。みんなちゃあんと応援していてね!」
駆け足で演技に向かうクイニーをシリルは「はいはい」と呆れたように、イザベラは「頑張って!」と手を振る。
この様子に、噂の令嬢がまもなく演技をするらしいと野次が集まってきた――
(なんだか、すごい見られてるわね)
舞台に立ったクイニーはあまりのオーディエンスの多さに思わず目を瞬かせた。しかし、すぐ曲がかかり演技を始める。
この演技用にあつらえた衣装はクイニーの動きに合わせてひらひらとなびく。シルク生地だからか、身体のラインの美しさが際立つ。
加えて例の表情のおかげで、見ていた人たちはたちまち息を呑んでしまう。
それを見守っていたシリルは大きくため息をついていた。
「……ああいう服あまり着ないようにイザベラお嬢さまから言ってもらえませんか」
「ええ……でもクイニー気に入ってるのよ、ああいうの。なんでも悪役? 令嬢みたいだとかで……」
もうところ構わず言ってるな、それ。
一応クイニーとシリルの2人だけの秘密ではあるが……どうしても一緒にいるのが長いおかげかイザベラにもポロッと言ってしまっているらしい。
「でも私もこれ以上クイニーのファンが増えて、一緒にいる時間がなくなったら寂しいもの」
アランの対応とキャンディスの突撃で十分だわ、とイザベラは肩をすくめた。
「おお、クイニーさんは魅せるのがお上手なようですね」
後ろから聞こえた声に振り返ると、そこにはリドルが立っている。明らかに不機嫌になったシリルに変わってイザベラが対応する。
「リドル会長、どうです、1位は取れそうですか?」
「一位を取ってほしくない……という口ぶりですね」
「まあ、そんなこと思っていませんよ」
イザベラがにこりと微笑む。
まるで虎と大蛇の戦いのようだ……とシリルは思う。
「シリルくんはどうですか?」
「さあ……どうでしょう。私のようなものが主人を差し置いて……なんてことはできませんよ」
シリルは小さく礼をし、そう告げる。
リドルは「そっか」とにこりと笑う。
静かな火花を散らす3人の元へ、
「わあ! クイニー様とってもお綺麗!!」
と、キャンディスが観客席に飛び込んでくる。
しばらくクイニーに釘付けになっていたキャンディスはイザベラたちの方へ向き直り優雅に礼をした。
クイニーを日頃から眺めているせいなのか、キャンディスの礼はだいぶ様になっている。
「皆さまもクイニー様を見にきたんですね!」
「ええ、そうよ。キャンディスさんはもう試験は終わったの?」
「さっき対戦型を終わらせてきたところなんです! けっこう手こずったんですけど、勝てました!」
「そうなの、よかったわね」
キャンディスが手こずるなんて、クイニーは果たして勝てるだろうか。
シリルが少し不安に思っていたとき、リドルは会話から離れて舞台を眺めていた。
「綺麗な赤い瞳だな……」
ぽつりと呟いた声に、シリルはピクリと反応した。
それが自分のアドバイスで入れたカラコンだなんて、リドルは知るよしもないのだ。
シリルは少し得意げな表情を浮かべる。
それから舞台に目を向ければ、ちょうど次の演技者が出てきたところだった。
シリルはイザベラに耳打ちをする。
「……あれ、いつの間にか終わってますよ」
「あら、本当だわ。ねえ、魔法見てた?」
「ううーん……あんまり」
……表現力恐るべし。
その後、シリルとイザベラもさらっと演技を終わらせ、いい感じに注目を集めた後、合流した。
「演技顔ばっか見ていて魔法見ていなかった」と正直に言おうかと思っていた2人だったが……クイニーはどうやら審査員の先生に褒められたとかでえらくご機嫌だった。
こうして1つ目の試験は無事終わったわけで――
さっきまでの上機嫌はどこへやら、クイニーは驚きを必死にひた隠している。
今まさにこれから、2つ目の試験が始まろうとしていたところ。
しかしクイニーは目の前の相手に釘付けになっている。
薄紫のふわふわした髪、綺麗な肌、長いまつ毛。
ぱっと見は美少女。
(まさか、学年トップの魔力持ちに当たるなんて聞いてないわよ……!!)




