14. 策士
「あの腹黒め……私、許さないわ、あいつ嫌いよ」
「まあまあ、落ち着いてクイニー」
クイニーは例の通り自室で恨みごとを吐いている。
返却された小テストと学期末試験のお知らせが握りつぶされている。
まさか、パートナーを組むのが総合順位男女1位の2人だとは。
「それってつまり、クイニーがリドル会長とパートナーを組むには全校で1位の成績を取らないといけないってことよね?」
「ええ。でも約束してしまったもの……」
無理でした、となれば孤高の悪役令嬢としての未来のポジションが危うい。
それにリドルに負けを認めるのが普通にプライドが傷つく。
「え、でも魔法試験だってあるんだよ?」
「そんな無理だろって顔しないでよ。私だって無謀なことくらい分かってるわ」
シリルはクイニーの小テストに目を向ける。
紙には20点満点中12点という文字。
しかしながら、本来モブの強制力で赤点確実のところ、クイニーは努力とプライドだけでこの点数まで押し上げたのである。
「シリルだって私より点数低いじゃない。どうせ勉強してなかったんでしょうけど」
「まあね」
シリルの点数は10点。魔法が自慢のラスボスとは思えない点数だ。
「うーん……そうね、でもクイニーがリドル会長とどうしてもパートナーを組みたいのなら頑張るしかないわね。私も協力するわ」
「ありがとう、満点のイザベラが教えてくれるなら安心だわ」
「それにシリルだって手伝ってくれるわ。3人で頑張りましょ」
クイニーは2人の優しさに感動して大きく頷いた。
それから脳裏に悪魔のような角としっぽを生やしたリドルを思い浮かべて『打倒腹黒』を掲げたのだった。
それから2ヶ月後に迫る学期末試験に向けてクイニーは奔走した。
授業はもちろんのこと、図書室に足繁く通っては涼やかな顔のリドルに舌打ちしかけ、ちょこちょこと後ろをついて歩くキャンディスをあしらい、放課後はイザベラとシリルと魔法の特訓。
「ねえ、見て! さっきより火力が上がったと思わない?」
「そうだね。火魔法に関してはだいぶよくなってきた!」
シリルに太鼓判を押され、クイニーは得意げになる。
しかしそれ以外の水、雷、風、土の魔法はまだまだ赤点圏内なため、安心はできない。
「多少他の出来が悪くたって大丈夫よ。火魔法をもっともっと強くするのも手だわ」
「けど、目指すは全校1位よ? いくら筆記が満点だって魔力が高い子たちには敵わないんじゃ……」
「何弱気なこと言ってるの、クイニーらしくないわよ」
イザベラは励ますと、それにね、と少し悪い笑みを浮かべる。イザベラが取り出したのは何枚ものパーティーの招待状である。
「成績上位の生徒に配ってるの。この2ヶ月間に5回パーティーを予定してあるから、彼らもそんなに勉強できないはずだわ」
「これ俺の発案なんだー」
ようは他の生徒も下げてしまおうということである。
少々アウトな気もするが、彼らはパーティーに望んで出ているわけなのでギリギリセーフだろう。
気になるのはイザベラの勉強状況だが、彼女は本来の悪役令嬢だからだろうか、その辺は安泰なのだ。
「本当に最高の友人だわ!」
抱きつく勢いでそう叫ぶ。
(本当に、いい友達だわ。2人が悪役になって破滅しないためにも、私がなんとか悪役にならないと)
クイニーは決意を再確認し、それから今日は先生にも補修をお願いしていたことを思い出す。
2人にもう一度礼を言いクイニーは駆け出した。
「行っちゃったわね。本当、頑張ってるわ」
「そうですねえ……」
「あなたは? そんな呑気でいいの?」
その場に取り残されたイザベラとシリルはクイニーの背を見つめる。
シリルはわざとらしく「何がでしょう」と尋ね返す。
「あら、あなたは好きな女の子のためならなんでもするタイプだったの? このままだと別の男性と踊るかもしれないのに?」
シリルは口角だけ上げてみせる。
「私、あなたがわざと低い点を取ってること知ってるのよ。クイニーがとる点数を予測して少しだけ低い点を取ってるんでしょ、主人を甘く見ないことね」
「……バレていましたか」
「毎回2、3点低い、それでいて絶妙に赤点ではない点を取っていたら気付くわ」
「クイニーにはそれ、内緒ですからね」
イザベラは呆れたように頷く。
クイニーに言われていた通り、シリルは勉強を全くしない。一般科の授業の際も特に秀でた目立つことはしない。
シリルの赤い瞳が怪しく煌めいた。
「ですが、今回は少しばかり本気を出した方が良さそうです」




